そんなには褒めないよ。映画評

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あなたを、想う

(ネタバレ)導入よし、画よし、俳優よし、なのに…なぜ?

2019/12/10

シルヴィア・チャン監督の2015年の映画です。シルヴィア・チャン監督の映画は、昨年2018年に「妻の愛、娘の時」を初めて見たのですが、その一作前が今公開されたようです。

公式サイトによりますと、「台湾で活躍する日本人俳優・蔭山征彦が温めていた3つの短編の脚本が監督の目に留まり1本の作品へと結実した」とのことです。

蔭山さん…蔭山さん…、ああ「バオバオ フツウの家族」のチャールズでした。それにこのサイト内を検索してみましたら「海角七号 – 君想う、国境の南 –」のナレーションをやっていた俳優さんでした。

あなたを、想う
あなたを、想う / 監督:シルヴィア・チャン

いい映画にはいくつも要素がありますが、そのひとつ、この映画はどのシーンも画がいいです。撮影監督はリョン・ミンカイ(Ming-Kai Leung)となっています。

冒頭、上の引用の画像のように、青空をバックにして屋上のユーメイ(イザベラ・リョン)を仰角で撮っています。ユーメイの存在感もあるのですがこのワンシーンで惹きつけられます。ユーメイが両手を空に伸ばしますとその手には赤い絵の具(血かと思いましたが…)ついており、その表情は物憂げです。さらに惹きつけられます。

切り替わって、海の青。何かがゆらゆらと泳いでいきます。女性です。水の中で戯れ踊る様はまるで人魚のようでもありとても美しいです。一部、予告編にもあります。

と始まって、前半は物語自体にもミステリアスなところがありとても面白いです。

しかし、いい映画には、また別の要素もあり、そのひとつが物語の深さとその語り口です。残念ながら、この映画には物語の深さが足らず、その語り口も単調です。前半の集中力が中盤で途切れ、そのまま戻ってきません。

物語の軸は三人です。先のユーメイ、兄のユーナン(クー・ユールン)、そしてユーメイの恋人ヨンシャン(チャン・シャオチュアン)です。

俳優もよかったです。特にユーメイのイザベラ・リョンさん、芯のある自立した感じと影のある危うい感じが同居していてとてもよかったです。

で、物語ですが、この三人、皆、母であれ、父であれ、親への複雑な思いを持っています。ただ、それらが三人ほぼ同様に過去への追憶であり、その関係も思いも漠然としたまま、ただ感傷的に流れていきます。

それでも前半は美しい画と先への興味でもっているのですが、中盤に入りますと次第に物語の全体像もあきらかになってきますので、三人ともに割と単純な親への思慕なんだとわかってきます。

先に結論を書いておきますと、ヨンシャンあるいはユーナン、どちらかの物語をもっと奥に引っ込めて、軸をユーメイとどちらかひとりの物語に絞るべきです。それに三人ともが親との関係というのもつらいですし、仮にそうだとしてももっと重層的にし、それを後半にかけて明らかにしていくべきだったと思います。この映画の三人は、幼い頃に親と離れ離れになったがために未だ自立できない大人のようにみえます。

舞台は台北と台東の緑島と言っていました。ここでしょうか。

ユーメイは台北で画家として自立しており、ボクサーのヨンシャンとつきあっています。

冒頭の屋上の青空と海の青の導入シーンの後、ユーメイがヨンシャンの部屋(ボクシングジムの寮のような感じ)を訪ねて、ユーメイが「会いたかったの(のような台詞)」と突然訪ねたようで、ヨンシャンが「コーチに見つかる」といいながら部屋に招き入れて、キス、そしてセックスというシーンは、ユーメイとヨンシャンの人物像と関係がそれだけでわかるなかなかいいシーンでした。

ユーメイはメンタルセラピー(だと思う)を受けています。幼い頃の記憶を断ち切れていないことと妊娠していることからくる情緒不安定のようです。

ヨンシャンの方は、試合にでられるかどうかがかかっている時期なんですが網膜剥離で視界がぼやけるようです。

ユーナンは台北? 台東?(よくわからない)の旅行代理店で働いており、緑島へのツアーガイドをやっています。

という現在軸の物語が進む中にフラッシュバック的に過去のシーンが挿入されていきます。ただ、その過去に何か決定的なことがあるわけではありません。とにかく感傷的です。

ユーメイとユーナン兄妹は、緑島で食堂を営む両親のもとで育ちます。母親はどこか夢見るようなところがあり、ふたりにいつも人魚の話をしています。

5,6歳くらいの頃、よくわかりませんが、両親の諍いにより、母親がユーメイを連れて緑島を出ます。ユーナンは自分が残されたことで母親から疎まれていたのではないかとの思いを持っているようです。

兄妹は離れ離れのまま現在にいたっています。その後どちらかが探したかどうかも映画は語っていません。

その後、ユーメイの母親は台北なんでしょうか、食堂をやっているシーンがあり、そこに出入りしている男と一緒に暮らしているようなないような、お腹の大きいカットもありましたが、あれもどういうことなのか、まあ過去のフラッシュバックだからということななのか、はっきりしないことが多いです。

ヨンシャンの過去は、幼い頃に父親が知り合いのボクシングジムにヨンシャンを預けるシーンがありました。ヨンシャンの体が弱いというようなことを言っていたように思いますが、ヨンシャンの過去はこれだけですのでこれまたよくわかりません。

とにかく、過去は、ユーメイの母親が人魚の話を兄妹二人に聞かせるシーンがほとんどだった印象です。

現在軸、ヨンシャンが練習中に相手のボクサーに反則行為をして免許(?)を取り上げられ試合に出られなくなります。そんな折、ユーメイから妊娠していると告げられます。

ヨンシャンが(かなり唐突でしたが)釣りに出かけます。隣で釣りをする男と会話します。父親の幻です。ヨンシャンは、父親の幻と話しをしたことを機に何かが吹っ切れたのかユーメイトと結婚します。

数年後、本屋でユーメイが書いた童話本のサイン会が行われています。ヨンシャンが子供の面倒をみています。

たまたま本屋に立ち寄ったユーナンが、いろいろあってその童話を手にして読みます。そこには緑島の人魚の話が書かれています。母親がふたりに話してくれたあのお話です。

ユーメイの前にそっと差し出された童話本、ユーメイが顔を上げるとそこには兄ユーナンの顔があります。

このラストのシーンは過剰さがなく悪くはなかったです。

ただ、今書いていてもそうですが、三人の過去がきちんと構想されているようには思えません。結局過去に引きずられて身動きが取れなくなっている人たちの話なんですから、その過去が、それを見せる見せないは別にしても、きっちりと組み立てられていないと物語に深みは出ないのだと思います。

画もよし、俳優もよし、導入もよし、なのに肝心の物語が…という残念な映画でした。

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