たまにはこういう映画も悪くない…
ちょうど1年くらい前の2023年12月8日に公開された映画です。タイトルをよく見かけましたし、結構長く上映されていたように思いますのでDVDを借りてみました。知らなかったんですが、監督は「光を追いかけて」の成田洋一監督でした。
シンプルにまとまっていると思う…
映画.com などの解説文を読めばおおよそ想像ができる内容ですし、実際見てみても想像通りの映画でした。泣ける映画と言われているようですが、確かに涙がにじむ場面がいくつかあります。
特に引っかることもなく、過剰なところもなく、シンプルにうまくできていると思います。現代の女子高生が敗戦間近の1945年6月にタイムスリップして特攻隊員に恋をするという話ですからリアリティや時代考証的なものをどうこういう映画ではありません。
映画のポイントは太平洋戦争中の価値観に現代の価値観をぶつけてみるということだと思います。百合にもっと言わせてもいいんじゃないのとは思いましたが、やり過ぎますとラブストーリーになりませんかね。
福原遥さんと水上恒史さん、二人とも初めて見ましたがうまくはまっていました。
原作では百合は中学生のようです。映画ですと俳優の問題もありますし、ラブストーリーを前面に出すのであれば高校生がいいだろうとの判断なんでしょう。
ネタバレあらすじ…
ユリ(福原遥)は高校3年生、教師との進路相談でも憂鬱そうです。教師から進学を進められますが本人は就職するとふてくされ気味です。母親(中嶋朋子)が遅れてやってきます。ユリは「魚臭い」と母親ににべもありません。
百合の家庭は母子家庭です。父親は早くに亡くなり、母親はスーパーの鮮魚売り場とコンビニを掛け持ちして働いています。
ユリがなぜそんなに母親を毛嫌いするのかの説得力は薄いのですが、まあ導入ですからいいでしょうという感じです。
その夜、ユリは母親と言い争いになり、家を飛び出し防空壕跡に入り眠ってしまいます。
翌朝目が覚めますとそこは1945年の6月です。その日は特別暑い日でユリはさまよううちに倒れてしまいます。通りがかった特攻隊員のアキラ(水上恒司)が助けてくれます。アキラはユリを行きつけ(特攻隊御用達…)の食堂につれていきます。食堂の主ツル(松坂慶子)はとてもやさしくユリを受け入れてくれ、店を手伝ってくれないかとまで言ってくれます。
ということで、ユリとアキラの交流を軸に、ユリにとっては理解できない特攻隊員たちの価値観にユリの日常感覚の言葉「戦争なんて意味がない」「もうすぐ戦争は終わる」「日本は負ける」を投げつけたり、逆に特攻隊員たちの悲壮感に涙を流したりという姿が描かれていきます。
ユリもアキラもツルも80年の時を超えて会話している感がまったくなくて面白いです(笑)。ツルのもとであんなに素直なら母親にも素直になれたのに、なんてツッコミなどふっとばしてしまうほどのあっけらかんとしたつくりが成功しています。
いくつか過去のシーンのエピソードが、ラスト、ユリが現代に戻るシーンへの伏線になっています。
特攻隊員たちは出撃する前に家族など愛する者への手紙をツルに託していきます。ツルが特攻隊員のためにアジのつくねをつくりユリにも食べさせます。アキラが出撃前に自分は教師になりたかったとユリに伝えます。出撃直前にひとりの隊員が逃亡します。その隊員には許嫁がいて、空襲で家族を失い本人は歩けない体になっています。
そして、アキラたち特攻隊員の出撃の日、ユリは現代に戻ります。あの突風はアキラの隼が巻き起こした風で倒れたんですかね。え? という感じで意表をついていてよかったです(笑)。
過去では1、2週間(もっとかな…)の時間経過でしたが、現代では半日です。ユリは自分を探し回っていた母にごめんなさいと言います。
後日、ユリたちは社会見学で戦争資料館へでかけます。ユリはそこで出撃直前に逃げた隊員のその後の写真と経歴が展示されているのを見つけます。その隊員は直前に病気になり出撃できなかったと記され、戦後、戦争の無意味さを説いてまわり人生を全うしたとあります。そして、その隊員の横には車椅子の女性が笑顔で寄り添っています。
アキラがツルに託したユリへの手紙も展示されています。
「俺は君のことを愛していた。できるならば戦争のない時代に生まれて君と一生を共に過ごしたかった。(略)百合、生きてくれ。人と人が傷つけ合うのではなく、一緒に笑って暮らせる未来を、平和で笑顔のたえない未来を一生懸命生きてくれ。それだけを俺は今願っている。」
後日ユリは、スーパーの仕事から戻りコンビニの仕事に出かけようとする母に夜食を作ったよと言い、そこにはあじのつくねが入っています。そして大学に進み教師になると伝えます。
たまにはこういう映画も悪くない…
原作者である汐見夏衛さんは高校の国語教師(だったのかな…)とのことです。10数年前の鹿児島経済新聞の記事ですがこの作品についてこんなことを語ったそうです。
高校教員時代、今の高校生が戦争の話をあまり知らない、特攻隊についてもよくは知らないという現実に直面した。
私は祖父母などから戦時中の生きた体験談を聞けた。(略)生きた体験談を聞いた時の言葉にならない衝撃、自分の中核に飛び込んでくるような心を揺さぶられる感覚、そうしたものを自分より若い世代の人たちに継承しなければという思いで作品を執筆した。
(鹿児島経済新聞)
昔から日本の学校教育では日本の近現代史を教えていないというのはよく言われていますが、現在でも同じようです。それに社会の右傾化ということも言われていますので太平洋戦争のことは事実を正確に教えてそれぞれが自分の力で考える教育をしないといけないと思います。
その点では最初にも書きましたように、この映画は戦争中という時代のリアリティや時代考証的にはツッコミも多くなる映画だとは思いますが、戦争を賛美したり特攻の悲壮感を煽っているわけでもありませんので、多くの若い人たちが見て感動して涙を流すのは悪いことではないと思います。
自国の近現代史というのは本来学校教育でなされなければいけないものですが、それがなされていないのであれば、こうした映画やアニメがそれらを学ぶ入口になることも、それもまた悪いことではないでしょう。