おかえり、ブルゴーニュへ

ブルゴーニュのドメーヌの一年と美味しいワインの造り方

この映画の英語タイトルは「Back to Burgundy(*1)」で、日本語タイトルとは主体は違いますが、ブルゴーニュへ帰るという点ではほぼ同じ、そして、原題であるフランス語タイトル「Ce qui nous lie」は下の画像にもあります「私たちをつなぐ(結ぶ)場所」といった意味らしく、これらタイトルと下の画像、そして、監督がセドリック・クラピッシュさんということを考えれば、詳細はわからないにしても、ほぼどんな映画かはわかってきます。

公式サイト / 監督:セドリック・クラピッシュ

そう、ブルゴーニュのワイナリーを営む兄妹弟、三きょうだいの家族愛の物語です。

冒頭、ぶどう畑の一年が定点撮影の映像で映し出されます。収穫を待つ一面緑色のぶどう畑、まるで紅葉したかのような収穫後の黄色い畑、真っ白の雪に覆われた畑、ふたたび新しく芽吹き始めた畑、そして一年が過ぎ、緑色に染まったぶどう畑が収穫を待っています。

その循環は、そこブルゴーニュでワイン造りが始まって以来、幾度となく繰り返されている風景なわけで、これから語られるであろう、ある家族のワイン造りの物語が、仮に何かが起きるにしても、いずれその循環の中に静やかにおさまっていくだろうことを示しています。

ですので、この映画は、どちらかと言いますと、まずはワイン造りの一年を見せることに主題があり、それに合わせて三きょうだいの間に起きる様々な出来事を絡み合わせていく作りになっています。言ってみれば、人間の間に起きることは大したことではない、そんなことをささやきかけてくるような映画です。

あるドメーヌ(*2)の三きょうだい、ジャン、ジュリエット、ジェレミーは、ワイン造り一筋の父親の元、幼い頃からワインとともに育っており、成人した今も三人が三様にワイン造りに関わっています。

長男のジャンは、10年前に自由を求めて家を飛び出し、世界を転々とした後、今はオーストラリアでワイナリーを経営しています。

家業のドメーヌは、ジュリエットが父とともに守ってきています。

次男のジェレミーは、同業のドメーヌの一人娘と結婚し後継ぎと期待されているようですが、どうやらあまりワイン造りの才能はないようです。

父親が病に倒れ、10年間音信不通状態だったジャン(ピオ・マルマイ)が戻ってくるところから映画は始まります。ジュリエット(アナ・ジラルド)、ジェレミー(フランソワ・シビル)ともに再会を喜び合います。

特にわだかまりなどはなさそうで、そんなことよりも、今まさに収穫を待っているドメーヌが映画の主役です。

まずは収穫の時期の判定、三人とドメーヌの番頭さんマルセルが相談します。このマルセルをやっているジャン=マルク・ルーロさんは、「大統領の料理人」や「パリよ、永遠に」に出演している俳優さんであり、またドメーヌ・ルーロの六代目オーナーでもあるとのことです。

で、その四人でぶどうを食べながら成熟度を確かめ、いつ収穫するか決めていきます。ジャンがジュリエットにいつ収穫するかを尋ねますと、ジュリエットが来週の火曜日(違っているかも)と言い、それに対してジャンは成熟度がどうこうと語りながら今週の木曜日(これも違っているかも)がいいといった感じで、さらに雨がいつ降るだとかを考えながら、最後にはジュリエットが決めることになります。

ドラマとしては、ジャンとジュリエットの判断の違いを見せつつ、マルセルの考えや父親ならどうしたかを加えつつ、最後は、ジャンがジュリエットに「お前が決めろ」と、兄の立場も考慮しつつ、これまで支えてきたジュリエットを立てるという、大人の人間関係(笑)を見せています。ただ、ジェレミーは聞いてもらえません…(涙)。

このジェレミー、ワイン造りの才能がない上に、自分の意見をはっきり言うこともせず、いい子なんだけど頼りないみたいな設定になっており、妻の父親からも軽んじられている存在です。

ワイン造りの続きです。

収穫日が決まりますと、アルバイトなのか季節労働者みたいな決まったシステムがあるのか、20人くらいの老若男女がやってきて一斉に手摘みで収穫していきます。ジュリエットが、おそらくかなり初歩的なことだと思いますが、若いのは入れちゃダメみたいな指示をしたり、ジョンが房の切り取り方を指導していました。

収穫の途中、同じく四人で雨予想をするシーンがありました。誰の予想があたって誰がはずれたかは忘れてしまいましたが、雨の影響がただ収穫が大変ということなのか、雨がぶどうに混ざってはまずいのか、よくわからないままに進んでいました。

私もワインは毎日のように飲みますが薀蓄などまるで持ち合わせておらず、これまではどうやって収穫するのかも知らずに飲んでいました。それに映画を見ながら、そりゃ手摘みのほうが機械よりいいんだろうなあと何となく思ってしまいましたが、意外にそうでもなく、単にコストの問題だけではなく、一長一短みたいなことがあるようです。

収穫が終われば、夜を徹しての大騒ぎ、収穫祭みたいなものなんでしょうか。ワインをあけ、音楽あり踊りありの大宴会です。

順序は定かではありませんが、何かを除去する比率を 50%とか、70%にするとか話し合っているシーンもありました。あれは、「除梗(じょこう)」のことなんでしょうか?

さらに、樽に入れたぶどうをジュリエットが足で踏み潰すシーンがあり、へえー!? そうなの? みたいなちょっとばかり衝撃的なシーンがあり、ググってみれば、すごい写真がいっぱい出てきます!

ワイン 足踏み – Google 検索

それに、収穫のシーンはシャルドネのような白系のぶどうばかりでしたが、足踏みしていたのは黒ブドウでしたよね。

で、赤、白、ロゼ、それぞれ手順は異なるようですが、いずれにしても発酵となり、これまたへえーと思ったのですが、発酵って10日から16日くらいと、思いの外短いんですね。ああ、これは映画で語られたことではなく、今いろいろ読んでわかったことです。

その後、熟成ということになるのでしょうから、ドメーヌの見た目の作業としては、ジャンがぶどうの木の枝を剪定するシーンがあるくらいで、おそらくその後は冬の休眠期になり、再び春になると芽吹いて花が咲き実をつけるということなのでしょう。

三きょうだいのドメーヌはビオワインらしく、隣接するドメーヌが越境して殺虫剤を散布することに抗議するシーンが中程にありました。そもそも、あんな境界がわからないように隣接しているのかという疑問と、そうであれば、たとえ越境しなくても殺虫剤がかかるでしょなどと、ちょっと突っ込みたくなるようなシーンでした。

といったワイン造りの一年に合わせて三きょうだいのドラマが語られます。

父親が亡くなります。ただ、それ自体はあまり大きな扱いではなく、ドメーヌの相続の問題が中心に進みます。父親の遺言は、ドメーヌは分割できないこと、つまり、三人の同意がないと何もできないこと、さらに言えば、お父さんは子どもたちに三人で力を合わせてドメーヌを続けていってねと言い残しているということです。

ただ、相続税が大変です。40万ユーロといっていましたが、支払うには、在庫のワインを処分しても足らず、一部畑を売るしかないようです。

そこに、ジェレミーの義父が絡んできます。人物としては、ワイン造りよりも実業家タイプの、他人に尊大に対する人物で、自分が畑を買おうと言ってきます。また、ワイン造りには向きそうもないジェレミーに事業の手伝いをしろなどと強要していました。

ただこれは、ラストになり、売買の申し出も断り、ジェレミーも反発してその庇護から自立への道を歩み始めます。

で、ジャンはと言えば、オーストラリアに自分のワイナリーがあるのに、一年も帰らなくていいのかなとの疑問にはちゃんと理由が作ってあります。ジャンにはアリシアというパートナーと息子いるのですが、その関係がうまくいっていないという設定で、頻繁に電話が掛かってきたり、掛けたりというシーンがあります。

ただこれも、あれこれ突っ込みどころの多い設定で、言うなれば、ジャンを一年滞在させるために作られた不和みたいなものです。

要は倦怠期のようなもので、そもそも不和にこれといった理由は語られていません。実際、アリシアは映画の中頃にオーストラリアからやって来て、多少ぎこちなくはあっても互いに求め合っていることを確認して帰っていきます。

もうひとつ、ジャンと父親の話があります。そもそも10年前、ジャンが家を飛び出した理由は父との折り合いの悪さであり、よくあるパターンですが、うまく愛情を表現できない父と長男であるがゆえのプレッシャーに耐えかねたみたいなもののようです。

ジャンは、ブルゴーニュに戻り、まずは病院に父を訪ねたようで、無言ですが、病床で手を握りあって和解しています。父の死後、妹のジュリエットから父の手紙を見せられ、そこには「自分は口下手だが、お前を愛していた」などを書かれており、ほろりとさせられるわけです。

相続税の件は、簡単に片が付きます。一年が過ぎ、再び収穫の時期が近づいた頃、ジャンが提案します。

ドメーヌはジュリエットとジェレミーがマルセルの協力の下にやっていくこと、ジャンの相続分は地代として支払うこと、そして肝心の相続税はジャンが持っている在庫のワインを処分して支払うこと、

って、え? 放浪の10年のうちの何年をオーストラリアで過ごしているのかわかりませんが、そんな在庫が持てるものなの? それに、とにかくそれがあるとして、それならなぜ最初に言わないの? などというツッコミをしてはいけません(笑)という映画です。

とにかく、ドラマとしてはむちゃくちゃベタですので、正直、これはワイン造りの話がなければ見ていられません。

そして、再びぶどう畑の一年がやってきます。

ジュリエットが昨年よりは幾分自信を得て、季節労働者たちを前に収穫の指示をしています。

それを満足気に眺めながら、ジャンはオーストラリアへ帰っていきます。

ということで、さすがにドラマがベタすぎて映画に心(しん)が感じられず、後半に入りますと長さを感じるようになってきます。特にジャンの設定に違和感が強すぎて、もう少し現実的なものにして、ワイン造りにポイントを置いたほうがよかったのではと思います。

そうそう、ワイン造りでもうひとつ。三人が子供の頃に、父親からテイスティングを教わる際に、目隠しをしてワインを口に含んだり、果物を食べたりして、味や香りの表現力を身につける訓練をさせられており、実際そうしたことをするのかどうかよりも、ワインの味や香りを語る言葉を持ち合わせていない自分としては、そうだよな、子どもの頃からああしないとわかんないよなあなどと自分を慰めたわけではあります。

サイドウェイ (字幕版)

 

*1:バーガンディー 【Burgundy】 ブルゴーニュの英語名。 また,そこで産するワイン。https://www.weblio.jp/content/burgundy

*2:ドメーヌ (フランス語: domaine) は、フランス語で区画・領域・領地などを表すことばである。ドメーヌ – Wikipedia