これはドラッグ映画ではなくダンス&音楽映画です
紹介文を1,2行読めばおよそ想像がついてしまうような映画なんですが、ギャスパー・ノエ監督ということで、まあ見とくかということで(笑)。
ほぼ予想した通りの映画でした。
雪が降る山奥の廃墟に集まった22人のダンサー。彼らは、知らず知らずにLSD入りのサングリアを飲み、集団ドラッグ中毒に陥る。抜け出すことも逃げ出すこともできない――その狂乱とカオスの一晩を、視覚&聴覚を刺激する圧巻の熱量と興奮で描き切った97分間。(公式サイト)
もちろん、これは日本の宣伝担当者が作ったコピーですのでギャスパー・ノエ監督が何をやろうとしたのかは映画から判断するしかないわけですが、見終えて思うのは、これはダンス映画です。ドラッグどうこうは宣伝のために過剰に盛られています。
ただそうは言っても後半は皆ラリってくる映像になっていますので、どうしても引いたところから見るしかなく、スクリーンを見つめながらいろいろ考えることも多くなります。例えば、仮にドラッグが人間の抑圧された感情を開放してしまうもの(かどうかは知らないが)だとするならば、この映画もそうなんですが、映画や小説などの創作物のほぼ100%がその現れとして「狂乱とカオス」的表現をし、決してひとり静かに満ち足りた世界を夢想することがないのは、やはり人間の本質は性欲動や破壊衝動に支配されているのかなあなどと、トランス(的)ミュージックを聞きながら考えていたわけです。
冒頭、ダンサーたちのひとことインタビューのようなシーンがしばらく続きます。要はアメリカ公演のためのダンサーのオーディションということ(間違っているかも)のようで、そのインタビューが終わりますと、採用されたダンサーたちによるダンスシーンになります。「山奥の廃墟」でのリハーサルということなんでしょう。
忘れていました、そういえば冒頭は、一面真っ白な雪野原をひとりの女性がよろよろと歩いてきて倒れてもがく様を真上から撮ったシーンでした。
ん? インタビューの後だったかな?
とにかく、続いてダンスシーンになり、このシーンは結構見ごたえがあります。公式サイトに「GENRE OF DANCE」というページがありますが、そういったダンスが繰り広げられます。出演者がダンサーとのことですので、そりゃダンスはすごいです。10分くらいだったでしょうか、ワンカットだったと思います。
で、振り付けも完了し、バッチリだったらしく、打ち上げになり、サングリアを飲みながらあっちでペチャクチャこっちでコソコソと、昨日あの女と寝ただの、俺は全員とやっただの、あの娘はどうだのこうだのと、しょうもない(笑)やり取りが続きます。
カメラはほとんど正面から2人、あるいは3人が並んで喋っているのを撮っていたような印象です。
で、誰かがサングリアの中にドラッグを入れたらしく、皆が次第におかしくなってくるというお話です。
ただ、言っちゃなんですが、おかしくなるというほどおかしくはなってきません。この点は期待を裏切っています。「狂乱とカオス」というほどのことはありません。
飽きてきます。もうちょっとハチャメチャやったら(笑)と思い始めてきます。
暴力もあります、血も出ます、放尿もします、嘔吐もあります、セックスもあります。でも、それが意図なのかどうかはわかりませんが、みなどれもつくりごとだとわかるようになっています。
ダンスもあります。今度は真上から撮っていました。これは失敗ですね。ああいうダンスは正面から見るように作られていますので真上からとってもつまらないです。
そして、「カオス」を描こうとしたとするなら(それはないと思うけど)、それはカメラをひっくり返して(映像を逆さまにして)、うごめくダンサーたちの間をカメラが動き回っているような映像で表現していました。
字幕までひっくり返していたのにはちょっと笑いましたが、そのセンスがあるのなら宣伝コピーもその線でいくべきだったのでは、とは思います(笑)。
で、朝、なぜだかわかりませんが、警察がやってきます。
ああ、きっと誰かが外へ飛び出し雪の上で凍死したのが発見されたんですね。それが冒頭のシーンということでしょう。
という映画なんですが、やはり「狂乱とカオス」は映画には描けませんね。「狂乱」はともかく、「カオス」を映像にしてしまったら、それはもはや「カオス」ではありえないでしょう。
やはりダンス&音楽映画でした。