Cloud クラウド

菅田将暉さん、窪田正孝さん、古川琴音さん、奥平大兼さんを見に行く(だけの)つもりなら…

黒沢清監督って多作な監督ですね。ついこの間「蛇の道」を見たばかりですし、「Chime」という映画も現在公開されているようです。その分なのかどうかはわかりませんが、どの映画も軽めですし、なかなか最後まで面白さが持続する映画がありません(ゴメン…)。

Cloud クラウド / 監督:黒沢清

前半はサスペンス、後半は喜劇…

この映画もそうで、前半はさすがうまいなあなんて見ていたんですが、なぜか後半になりますとただドンパチと撃ち合っているだけ(というわけでもないけど…)の映画になっています。製作上の時間的制約でもあるんですかね。前半のつくりで最後まで行けばいいのにと思います。シナリオの話です。もう時間がない、ドンパチで殺しちゃえ、みたいに見えるということです。

前半にしても面白いところはあるにしてもさほど深い話ではなく、いや本当はもっと深く描けば描ける題材だとは思いますが、なぜか映画が走っています。

転売ヤーの吉井良介(菅田将暉)が自らは知らぬ間に、あるいは人を見下すような性格(という人物造形か…)ゆえに多くの人から恨みを買い、ついにはそうした人たちがネット上でつながり(裏サイトでつながるようなこと…)襲われるという話です。

前半は菅田将暉さんのうまさもあり、そりゃ恨みも買うでしょと思える展開で、映画としてもうまくできています。菅田将暉さんもどういう人物像にするかちょっと迷っているところは見受けられますが、それでも人を舐めたところとか、無神経ゆえに人の気持ちを逆なでするところなど、やはりうまい俳優さんだなあと思います。

ただ、これは映画が走りすぎていることにも関連しますが、その菅田将暉さんのうまさゆえに前半の吉井良介という人物になにか描けていない深さのようなものが感じられるのです。ですので、この吉井良介という人物をもっと深く多面的に描けばよかったのにということです。

ところが後半になりますと、一転して何丁もの拳銃やライフルやショットガンまで登場していきなりのドンパチとなり、肝心の吉井は拘束されていたり、拘束を解かれても戸惑うばかりで、見せ場のシーンが極端に少なくなってしまうのです。

後半でも菅田将暉さんを活かすシナリオにすべきだったということでしょう。

俳優は皆いいんだけどねえ…

吉井良介(菅田将暉)は1台3000円で買った機械を20万円で売ったり、出所の知れないバッグを高値でネット販売する転売ヤーです。資金繰りに困っている零細企業の情報を聞きつけて安く買い叩いたり、ネット上で売りに出ている商品の情報を探し、先回りして現金で買い付け、それを法外な値段をつけて一気に売りさばきます。

吉井には同じ転売ヤーをやっている高専の先輩村岡(窪田正孝)います。村岡はうまくいっていないようです。吉井にいい話があるから出資しないかと吉井に持ちかけますが、吉井は無視を決め込んでいます。

こういう役柄の窪田正孝さん、無茶苦茶いいですね。「春に散る」や「愛にイナズマ」も記憶に残っています。

吉井は働く工場の上司から昇進を持ちかけられますが、自分には向いていないと断り、その工場も辞めてしまいます。その上司は吉井のことをとても買っていたために、吉井の態度や行動に逆恨み的な気持ちを持ちます(変だけどそういうこと(笑)…)。

吉井には付き合っている女性、秋子(古川琴音)がいます。吉井は結婚しようと言い、アパートも引き払って湖のほとりの一軒家を借りて本格的に転売ヤーを始めます。

この秋子にはどういう役回りをさせようとして登場させたんでしょう? せっかく古川琴音さんといううまい俳優を使っているのに、女性もいないとさみしいだろう程度にしか考えていないようです。それに、男の役名は名字、女の役名は名前というのはもう止めたほうがいいと思いますよ。

そしてもう一人、転売ヤーの助手として雇った佐野(奥平大兼)がいます。

転売ヤーはヤクザの資金源?…

ということで、秋子や佐野は一体何者? と興味をもたせながら(ちょっとだけ…)後半に入ります。

で、吉井が、まあいろいろあるにしても簡単に得体のしれない奴らに拘束されます。得体のしれない奴らとは、映画を見ている我々には得体の知れた奴らで(笑)、工場長に、零細企業の社長に、ブランドバッグ絡みの男に、あと2人くらいいましたが誰でしたっけ?に、当然村岡です。

吉井は廃業した工場に連れて行かれます。村岡が苦しみながら死んでもらおうとガスバーナーをちらつかせています。ただ、吉井はガムテープで口をふさがれていますので喚くわけでもなく、ただ椅子に縛り付けられているだけです。

このあとは、とにかく意味不明なドンパチだけです。この銃撃戦のポイントは佐野(奥平大兼)です。佐野はあれこれあって吉井にクビだと言われます。その後、奇妙な1シーンがあり、見知らぬ男(松重豊)から紙袋とタブレットを受け取ります。そして、その男に「組織にどうのこうの」と話して別れます。

佐野はヤクザ組織の一員で、それなりの地位にいる男ということでしょう。その佐野が吉井を救出に来ます。そして、意味不明なドンパチが始まり、得体の知れない男たちは皆佐野と吉井に撃ち殺されます。

こういうことです。佐野が受け取った紙袋には何丁もの拳銃が入っており、タブレットは吉井のスマホから位置情報を得るためのものだということです。

ツッコミどころ満載の後半ですが、そんなことはどうでもよい展開で小気味よく(笑)映画は進み、ラストシーンです。

残るは、吉井に佐野に明子の3人です。秋子が吉井に、大丈夫だった?と近づき抱きしめてと言い、リョウちゃんクレジットカードは?と尋ねて受け取り、隠し持った拳銃で吉井を撃とうとします。佐野が秋子を撃ち抜きます。

佐野は吉井に、あくまでも自分はあなたのサポートだと言い、これからも稼ぎましょと言います。

ということで、転売ヤーの稼ぎはヤクザの資金源となったというお話でした。

やはり俳優次第の黒沢(清)映画というべきか…

菅田将暉さんは後半もそれなりに人物像をつくろうと努力して、人がいとも簡単に暴力行為、ここでは人を撃ち殺すことですが、そうした究極の暴力行為への一線を簡単に越えてしまう、その人物を演じようとしています。

でも、シナリオにその意図がありませんので俳優個人の思いだけではなかなか難しいでしょう。残念ですけどね。

窪田正孝さんのあの怖さ、煮詰まったら何をするかわからないあの怖さをもっとうまく使えばいいのにと思います。残念ですね。

そして、古川琴音さん、共演相手を恐れないあの度胸をもっと活かす人物にすればいいのにと思います。残念でした。まあ、それにしても女性を付け足しのような役回りで登場させるのはもうこれからは無理ですよ、と言っておきましょう。

ということで、この3人でなければどうなっていたんだろうと心配になるような映画の出来でした(ゴメン…)。

私が黒沢清監督の映画でお勧めするとするならば、俳優の力で持っている

旅のおわり世界のはじまり」の前田敦子さん
散歩する侵略者」の長澤まさみさんと長谷川博己さん
岸辺の旅」の深津絵里さん

この3作です。