デリシュ!

フランス革命前夜、フランス初のレストラン誕生秘話

1789年のフランス革命のちょっと前、フランスで初めてのレストランが誕生したというドラマです。実話ではありません。それまで料理というものは王族、貴族、聖職者といった支配者階級だけが理解できるもので、庶民が食事を楽しむという社会規範がなかったのが、革命という社会変革によって料理の世界にもパラダイム転換が起きたということです。そうした視点で描かれている映画ではありませんが、多少そんなことも感じられる映画です。

デリシュ! / 監督:エリック・ベナール

キュイジーヌはフランスのアイデンティティ

監督はエリック・ベルナールさん、IMDbにはライターとして20本ほどクレジットされており、監督作品はこの映画がショート含めて8本目となっている監督さんです。父親はジャック・ベルナールというフランスの俳優さんです。

日本での劇場公開は初めてのようですが、ライターとしては数本あり、タイトルや画像を見る限りでは犯罪ものが多い印象です。2008年の「ライヤーゲーム(Ca$h)」というジャン・デュジャルダン、ジャン・レノという豪華キャストの監督作品がDVDになっています。さすがにもうAmazonにもないですね。

ということからいけば、この映画はずいぶん傾向が違います。歴史ものですし、ややコメディタッチも感じられるかなりオーソドックスなドラマです。そのあたりのことが公式サイトの監督インタビューに書かれています。フランスのアイデンティティに焦点を当てたかったそうです。たしかに「料理」と聞いてまず浮かぶのは(人それぞれですが…)フランス料理か中華料理ですからね。

ヌーベルキュイジーヌ

マンスロン(クレゴリー・ガドゥボワ)はシャンフォール公爵(バンジャマン・ラベルネ)の料理人です。公爵もその腕に満足しているのですが、貴族や聖職者たちの食事会にじゃがいもとトリュフのタルト(パイ?)を出したがために公爵の不興を買いクビになります。

タルトの話題になるまでは皆が付和雷同的にマンスロンの料理を褒め立てていたんですが、聖職者がそのタルトを豚の食うものだと誹り始めるや瞬く間に非難轟々となり、公爵がマンスロンに謝罪しろと命じるもマンスロンは従わずクビになったということです。

上記の監督インタビューによれば、当時聖職者や貴族たちは、より天国に近い、たとえば鳩などは神聖な食材であり、地中で育つじゃがいもやトリュフは悪魔の食材と考えていたということです。

マンスロンにしてもそんなことはわかっていることであり、あえてそんなものを出したのはマンスロンにヌーベルキュイジーヌの意識があったと考えるのが自然であり、後にレストランで出す料理にもそうした志向が現れています。

この映画が物足りないのはせっかくのこの視点を生かさずに、ラブストーリーや復讐劇というありきたりのドラマパターンで物語を運んでいるからです。マンスロンの料理に対する思いをフランス革命という大きな時代変革のうねりの中で描いていけば格段に映画の質が上がったものと思います。

謎の女性ルイーズ登場

マンスロンは息子を連れて生まれ故郷に帰ります。映画でははっきりしませんでしたが、もともと父親が街道沿いの旅籠兼休憩所のようなことをやっていたようです。丘陵地の美しい風景でした。少し山っぽすぎる感じはしますが、時代ものはロケ地が難しいですね。フランス中南部のBrezonsというコミューンだそうです。

マンスロンはすっかり気力を失っています。じゃあなんであんなタルトを出したの? というツッコミは無用です(笑)。公爵ならわかってくれるとでも思ったのか、今でも公爵が迎えに来ると期待しているようです。

そのマンスロンの価値観を変えるのが、ある日突然弟子にしてほしいとやってくるルイーズ(イザベル・カレ)です。本当はもうひとり、ルソーを読み、社会の動きに敏感な息子のベンジャミンがその役割を担えるはずですが、主としてルイーズへの愛と信頼感がマンスロンを変えるということになります。

マンスロンはルイーズが女性であり若くないからと断りますが、執拗に粘るルイーズに根負けして弟子にします。雨の日も風の日も家の前から離れないのパターンです。

ただ、ルイーズの目的は復讐です。ルイーズは元伯爵夫人であり、公爵が性的関係を迫ってきた際に拒否したために夫がはめられて家が没落、そして夫が自殺したために復讐しようとしています。そういえば食事会の場で誰彼が首をつってどうこうと皆で笑いものにしていました。

リベンジはきのこ味

マンスロンのもとに公爵の執事がやってきます。公爵が2週間後にパリからの帰り道に立ち寄るから準備しろと命じていきます。マンスロンはそれみたことかということでしょう、内心大喜びで準備に大わらわです。しかし、再び執事がやってきて明日立ち寄ることになったといいます。

マンスロンはなんとか準備を整えて到着を待ち受けます。しかし、公爵の馬車はマンスロンの前を素通りしていきます。失意のマンスロン(あまりそうも見えないのだが…)、ルイーズ、ベンジャミンです。ベンジャミンがテーブルのタルトに手を伸ばしますとルイーズが跳ね飛ばします。それを食べた鶏が死んでいきます。マンスロンがルイーズにこれは毒キノコだと教えていたシーンはこの振りでした。

ルイーズが毒を入れたのは、あれ、例のタルトだったと思います。マンスロンのヌーベルキュイジーヌであり、映画のテーマ的なあのタルトに毒をいれますか…。マンスロンに出て行けと言わせてはいましたが、この監督、フランスのアイデンティティをわかっていないですね(笑)。

デリシュ!は心の扉を開く

ルイーズは修道院に入り、後にマンスロンが迎えに行きます。

そして…えーと、このあたりメリハリがないせいもあり記憶がぼんやりしていますが、確か、再び公爵がやってくることになったんだと思います。そして、その準備の際に火災が発生しマンスロンが大やけどを負い寝込みます。ルイーズの三日三晩寝ずの看病で元気を取り戻したマンスロンは不思議な光景を目にします。

賑やかな話し声がします。庭をのぞきますと、人々が楽しそうに食事をしています。ルイーズが取り仕切ってテーブルを並べ、村人たちに食事を振る舞っているのです。やっと目が覚めたマンスロンです。レストランの誕生です。

マンスロンがルイーズに公爵に復讐しようと言います。マンスロンは公爵の城を訪れ、自分の店に招待したいと言います。公爵が自分の後任を次々にクビにして料理に満足していないことを知っているということです。

そしてその日、公爵がやってきます。ルイーズが現れ公爵は動揺します。さらに、そこに人々がどやどやと入ってきます。無料試食会を開くと宣伝してあったようです。公爵がますます動揺します。つまり、貴族にとって庶民と同じ席で食事をすることなどあり得ないということです。追い打ちをかけるようにルイーズが公爵のかつらをもぎ取り、国王に言いつけてやる(みたいなこと)と言います。公爵は退散していきます。

人々が楽しく語らい合いながらテーブルを囲んでいます。ルイーズがマンスロンにキスします。カメラは地上から空撮へと移動し、美しい丘陵地の木々に囲われたレストランが天上からとらえられ、スーパーで3日後にバスティユが落ちた(落ちただったと思いますが表現が変じゃないか…)と入り終わります。