ラブホテル舞台の昭和的ホームドラマみたいな映画
2020年11月、ちょうど一年くらい前に公開された映画です。原作は2013年上半期直木賞受賞作、桜木紫乃さんの短編小説集『ホテルローヤル』です。
原作の評価は高いようだ
直木賞受賞時の選評を読んでみますと評価が高いですね。
文章力を評価している選者が多いですので文章がうまいんでしょう。正直、映画では読む気は起きなかったのですが、読んでみようかと思います。
映画はベタベタ
やたら音楽で煽っていますので、意識してベタにしているのかなあとも思いますがどうなんでしょう? 武正晴監督の映画は「銃」と「銃2020」、そしてこの映画しか見ていませんが、意外とマジでやっているのかもしれないというのが今のところの監督評です。
ステレオタイプな人物像、定型のドラマパターン、そうしたものに疑問を感じていないのかもしれません。
たまたま私が見たものが「銃」といい、この映画といい、やや特殊な環境の物語ですので、ちょっととんがったところのある監督かと期待もあったのですが、見てみれば、昭和のテレビドラマ的な価値観でつくられた映画ではありました。
ネタバレあらすじ
短編小説集が直木賞の対象になるんですね。ウィキペディアからひろった内容の一覧ですが、原作は『シャッターチャンス』『本日開店(書き下ろし)』『えっち屋』『バブルバス』『せんせぇ』『星を見ていた』『ギフト』の7篇のタイトル作品からなっています。
『本日開店』と『星を見ていた』はどうだかわかりませんが、他のタイトルの作品は映画に使われているのではないかと思います。
廃墟の「ホテルローヤル」
廃墟にはないっていませんが廃業した無人の「ホテルローヤル」に若いカップルがやってきます。男はカメラマン、仕事としているかどうかはわかりませんが、廃墟のホテルでヌード写真を撮ろうと女性とともにやってきたようです。
女性はあまり気乗りがしないようですが、いつの間にやら脱いで被写体になっていました。さらに男に「やっと目標見つけたんだよね、もう挫折したくないんだよね」と愚痴られて同情したのか、積極的にモデルポーズをとっていました。
で、何カットかシャッターを切っていた男は、突然カメラを放り出して女性に向かって突進していきました。
なんじゃ、これ?
雅代、「ホテルローヤル」のオーナーになる
ここから過去になり、雅代(波瑠)が美大の受験に失敗し、両親が経営するラブホテル「ホテルローヤル」に戻っているところから始まります。雅代の家は職住一体です。
ホテルは母親(夏川結衣)が切り盛りしており、父親(安田顕)は日々ダラダラと過ごしています。なぜだかはわかりません。
映画のラストがこの夫婦の若き頃のシーンで、男が自分は一旗揚げたいんだ、お前も子ども(おなかの子、未来の雅代)も幸せにするなんて大見得きっていたんですが、この男がなぜこの父親になるの? なんてことにツッコミを入れてはいけません(笑)。そういう映画です。
従業員は、ミコ(余貴美子)と和歌子(原扶貴子)です。
「ホテルローヤル」にはアダルトグッズの営業マン聡史(松山ケンイチ)が出入りしています。えっち屋さんと呼ばれています。ラスト近くで雅代が聡史に高校生の頃から聡史を好きでしたとか告白していました。
ミコの息子、逮捕される
従業員ミコは、息子はなにかの職人をしており、お金を送ってくれるんだと言って皆に見せています。しかし、ある日、テレビから暴力団員の誰々が逮捕されたとのニュースが流れます。ミコの息子です。
ミコはショックで呆然としたまま仕事帰りに行方不明になります。結局、ミコの夫が見つけます。夫があんなところで何していたんだ?と尋ねますとミコが「星見ていたんだ」と答えます。
短編のひとつ『星を見ていた』はこれですかね。
このエピソードには、2シーンほどミコの子どもころのフラッシュバックが入り、母親が「働け、働け、毎日笑って働け、働いていれば誰も何も言わん」と言っていました。
雅代の母親、失踪する
雅代の母親はここ1年ほど出入りの酒店の従業員と不倫関係にあり、ある日、その男と失踪してしまいます。
その前日、母親は雅代に「稼ぎがあろうがなかろうがちゃんと愛してくれれば女はそれで十分なんだわ。あんたもそういう男を見つけなさい。」とか言い残しています。
雅代の母親と父親も不倫関係の後に父親が離婚し結婚しているとのことです。
二組の客のエピソード
生活に追われる(そうは見えないけど)中年の夫婦、夫の母親の介護やパートに追われて二人の時間が持てないとラブホテルにやって来ます。女は5,000円の余裕が出来たからやってきたとか、残りは(だったか?)お母さんも食べられる柔らかい肉を買おうとか言っていました。ふたりははっちゃけていました。
女子高生と教師のふたり、このふたりは個人的な関係があるわけではなく雨宿りだと言っていました。女子高生は、両親がともに(別々に)失踪してしまい帰るところがないと言い、教師の方は、同僚の教師と結婚したのですが、妻が校長と不倫関係にあり、実はそのふたりは妻の高校時代から生徒と教師の関係でつきあっていたということです。
女子高生は「私たちは行くとこない」と言い、教師を「かわいそう」と言っています。
心中事件を機に「ホテルローヤル」廃業
その女子高生と教師が心中します。マスコミが押しかけます。その最中、雅代の父親が倒れます。そして亡くなります。
「ホテルローヤル」を廃業することにします。
雅代、聡史にこれで遊ぼうという
廃業の日、えっち屋さん聡史が返品の回収に来ます。片付けながら雅代が愚痴っています。雅代が「これ使って遊びませんか」と言い、「実感したいんです、ここにいた理由とか」と言いながら脱ぎ始めます。
この10年と言っていました。えー?!10年間の話なの? とちょっとびっくりしました。それに、女が脱げば男は必ずそれに応えるって価値観がよくわかりません。雅代に聡史が応えてくれないのではないかとの不安がまったく感じられません。逆に男が心を寄せている女の前でいきなり脱ぎ始めるっていう映画を作れるかと考えれば、こうしたシーンでも違った描き方ができるんだと思います。このシーンは原作にもあるんでしょうか。
とにかく映画では、聡史は「私は男も女も身体を使って遊ばなくてはいけない時があるんだと思っています、私はその手伝いをしているんだと言い聞かせてきました」と言いながら脱ぎ始めます。
で、ふたりは体を重ねますが、途中で聡史の動きが止まります。
「奥さんのこと思いだした?」
「すみません」
「傷つきました、やっと当事者になりました、ありがとう」
「わたし、高校の時から好きでした」
「ご期待に添えず、申し訳ありません」
松山ケンイチさんの台詞に吹き出しました(笑)。
雅代が自分の知らない両親の過去を回想する
「ホテルローヤル」から旅立つ雅代、車で釧路の町をめぐりながら両親の若き頃を回想(じゃないないけど)します。
過去のシーンが挿入され、「ホテルローヤル」開業です。
雅代の母親が客室にみかんを置くわけは、つわりがひどい時に父親が季節ではないのにみかんを探し回って買ってきてくれたからであり、そのみかんのブランド名が「ローヤル」であったことから「ホテルローヤル」は生まれたのでした。
昭和の人情噺
物語の背景がラブホテルですのでテレビドラマには難しいところもありますが、個々のエピソードはテレビドラマ的な昭和の人情噺です。
おそらく原作はそうではないでしょう。
雅代(波瑠)の思いが聡史(松山ケンイチ)とのワンシーンにしか描かれず、ほとんど狂言回し的にしか見えないのが映画としてはかなりつらいです。
短編集ということからの結果かとは思いますが、何かひとつの作品を膨らませてもっと映画的に大胆に雅代の見た目として翻案したほうがよかったのではないかと思います。シナリオが真面目すぎるということでしょう。
それにしても音楽はやりすぎです。原作を読んでいませんので間違っているかも知れませんが、多分原作はタンゴではないでしょう。
もうひとつ、ラブホテルの客室の声を皆で聞いているという設定が気持ち悪すぎてついていけません。