続編は『ふたりから始まる IT STARTS WITH US』って、アトラスとかい?
なかなか奇妙なタイトルの映画ですね。ということで目を引き、映画ファンにはうるさいやつが多いから(笑)配給も邦題付けに苦労しているんだなあとか、それを逆手にとった宣伝手法かなあとか、それこそうるさい気持ちで(笑)見てみた映画です。
何を終わらせるのか…
原作の小説『It Ends with Us』が『ふたりで終わらせる』のタイトルで出版されているからでした。
その作者コリーン・フーヴァーさんのウィキペディアを読んでびっくりです!
2022年1月、『It Ends with Us』はニューヨーク・タイムズのベストセラーリストで1位となる。2019年の時点でこの小説は世界中で100万部以上売れており、20以上の言語に翻訳されている。
2022年 ニューヨーク・タイムズ紙のペーパーバック・フィクションのベストセラー・リストを独占。トップ10のうち6つを占める快挙を達成。(ウィキペディア)
とのことです。へぇー、そういう作家さんであり、そういう小説なんですね。
で、映画ですが、何をふたりで終わらせるかと言いますと、暴力の連鎖、もう少し正確に言いますと恋人や夫婦間の暴力、DVの連鎖を終わらせるということです。
日本ですと、親の虐待にあっていた子どもが大人になって子どもを虐待するといったことがよく言われますし、そうした親子関係を描いた映画もかなり多いです。
この映画の暴力の連鎖は、父親による母親への暴力を見て育ってきた女性と幼い頃に父親の銃で兄を撃ち殺してしまった男性の関係で描かれています。女性は父親の暴力行為の残像が頭から離れず結婚に踏み切れません(多分そういうこと…)。男性は幼い頃の出来事の罪悪感から自分の暴力性を恐れています(多分そういうこと…)。
しかし、事は起きてしまいます。ふたりは結婚はするものの男性の暴力により女性が傷つきます。そして女性が離婚を決断し、男性はそれを受け入れるという物語です。
が、そうしたテーマが前面に出ているかといいますとそうでもありません。いろいろ原因はあるかと思いますが、おそらく、一番の理由はこれがアメリカ映画だからでしょう。
ラブコメ的ラブストーリー…
大きな傾向としてですが、これが日本映画やヨーロッパ映画(一部の…)ですと、徹底して暴力というものに焦点を当ててテーマを追い続けますが、アメリカじゃそんなことをしたら興行的に成り立たないのでしょう(想像です…)。
この映画、ラブコメ的テイストを持った恋愛映画です。
リリー(ブレイク・ライブリー)の父親が亡くなります。リリーは教会での葬儀の場でお別れのスピーチをすることになりますが、何も語ることが出来ずにその場を去ってしまいます。
リリーと母親との会話の中だったか、フラッシュバックが入っていたか、記憶ははっきりしませんが父親の暴力があったことを匂わせています。
ボストンのとあるビルの屋上、なぜリリーがそんなところにいるかはツッコミ無用の映画ということで(笑)リリーが物思いにふけっています。ライル(ジャスティン・バルドーニ)がやってきて置いてあった椅子を蹴っ飛ばしたりと当たり散らしています。やがてライルはリリーに気づき、そしてアメリカ映画らしく(偏見です…)いきなり口説き始めます。
このシーンに耐えられないとこの映画は楽しめません(笑)。
リリーもまんざらではなさそうです。と言っていいいのか、大人の対応と言うべきなのか、いくらアメリカでもこれは映画でしか成り立たない展開だと思います。それにリリーの人物造形にはマイナスです。暴力に敏感になっていないとダメでしょう。
とにかく、なぜ苛立っているのかと尋ねるリリーにライルは自分は脳外科医だと言い、今、幼い子どもの手術をしたがだめだった、その子は父親の銃で遊んでいたときに誤って兄弟に撃たれたのだと語ります。一方、リリーは自分の初体験の相手はホームレスだったと語ります。
なぜわざわざそんなことを話すのなんて思い始めたらきりがない映画です。
リリーがボストンで花屋を開業します。ちなみにリリーのフルネームはリリー・ブロッサム・ブルームというジョークまで効かせてあります。開業準備中に見ず知らずの女性が入ってきて、なんだかよくわからないままに意気投合して働いてもらうことになります。その女性アリッサ(ジェニー・スレイト)はライルの妹です。オイ、オイ…。
ということでリリーとライルのラブストーリーが始まります。
初恋はハーレクイン・ロマンス…
その現代のラブストーリーと並行してフラッシュバックでリリーの初恋が何ヶ所かに挿入されていきます。
ハイスクール時代、リリーは向かいの空き家の窓から男子生徒が出てくるのを目撃します。その男子生徒アトラスはリリーと同じスクールバスに乗ります。陰でアトラスのことを臭いといった声が入っていたと思います。その日か翌日、リリーは窓の下に食べ物を置いておきます。
そして、親しく話すようになったリリーは、アトラスの手に傷があるのを見て親からの虐待にさらされていることを察します。アトラスは父親の暴力から逃げてきたと語ります。リリーは両親がいない時間にシャワーを使いに来ていいと言い、ふたりは愛し合うようになります。アトラスは木を彫ったハートをプレゼントし、リリーは肩あたりにハートのタトゥーを入れます。
そして、ある日、ふたりがベッドに入っているとき、父親が帰ってきます。父親はアトラスを組み伏せて殴り続けます。瀕死の体のアトラスが救急搬送されていきます。
DVを利用したラブストーリー…
並行して描かれていく現代のボストンではリリーとライルの関係がダラダラと続いています(ゴメン…)。
ライルは積極的な感じで描かれ、リリーは深い付き合いになることを拒んでいる様子です。しかし、ある瞬間、リリーはライルを愛してしまったと言い、その後、ライルがプロポーズして結婚します。
で、その過程でライルの暴力行為が描かれている(らしい…)のですが、映画はそれをその時にははっきりとは見せずに、映画の最後に、ライルがリリーを殴り、また階段から突き落とすシーンを見せる手法をとっています。
料理をしているときに何かが落ち、ごちゃごちゃとしてふたりが倒れリリーがケガをします。ん? とは思ったのですが、私にはライルが殴ったようには見えなかったです。また、あるとき喧嘩となり部屋を飛び出したリリーをライルが追っかけるシーンがありリリーが階段から転げ落ちます。これもラストにライルが突き落としたシーンを見せています。
そして決定的なことが起きます。このときふたりは結婚している状態ですが、ライルが嫉妬に狂いリリーをレイプしようとします。その行為自体が許されざる暴力ですが、ここでもそのシーンでは見せなかったものをラストに見せています。リリーの肩にはハートの刺青を噛み切ろうとした歯型がついているのです。
私が気づかなかっただけということでないと思いますので、やはり、正面切ってDVに向かい合うことを避けているんでしょう。それゆえラブコメ的ラブストーリーだと言っているわけですが、いずれにしても、ライル自身が自分の過去に向き合うシーンがなく妹のアリッサにライルを弁護するように言わせていたのはいただけません。
この映画にちょっと突っ込みすぎていますね(笑)。
突っ込み過ぎついでにもうひとつ。ラストシーンはリリーがアトラスに初恋の続きをしましょうと言っていましたが、アトラスの暴力の連鎖はどうなるんでしょう。レストランのシーンでライルに突っかかるところなんてかなり危ない感じがしましたけどね。
なお、この記事を映画未見の方が読むことはないだろうと思い書いていませんが、リリーはライルと出かけたレストランで偶然アトラスと再会しています。その前が最初のライルの暴力のシーンであり、アトラスはその傷を見てライルの暴力だと思い喧嘩をふっかけます。また、その後アトラスがリリーを心配して(と言うよりもよりを戻したい気持ちの現れで…)渡した電話番号をライルが見つけたことからレイプ事件になってしまいます。
『イット・スターツ・ウィズ・アス ふたりから始まる』続編らしいです。