ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人

マイウェン監督、自らの自然体演技で貴族社会の滑稽さをあぶりだす…

あまり興味の持てないフランス王家ものですし、ジャンヌ・デュ・バリーという名も今回ググって初めて知ったくらいの興味のなさですが、マイウェン監督の映画は過去に「モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由」を見ていますのでちょっと興味をそそられたという映画です。

意外と面白かったです。

ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人 / 監督:マイウェン

ジャンヌ・デュ・バリー

ジャンヌ・デュ・バリーについてある程度知って見たほうがいい映画です。ナレーションで略歴程度は説明されつつ進みますが、知っていればそのナレーションもすっと入ってきます。

ウィキペディアでは「Madame du Barry デュ・バリー夫人」と表記されています。

ルイ15世(マリー・アントワネットの夫ルイ16世のおじいさん…)の公妾となった人です。公妾(こうしょう)ってすごい言葉ですね。Maîtresse royale(Royal mistress)の訳語で王の愛人という意味です。

ただ、公に認められた(これも変…)立場らしく、現実には第二夫人ということなんでしょう。キリスト教国は一夫一妻制ですので、いわゆる江戸時代頃の日本でいう側室やイスラムなどの第何婦人なんてことが認められなく考えられたものだと思います。欲望と制度維持のためなら教義なんてどうでもいいということです。

で、そのデュ・バリー夫人です。映画では母は料理人と言っていましたが、その婚外子として生まれています。与えられた生活環境に流されて生きるしかないという幼少時だと思います。映画では、母の結婚相手(かどうかはっきりしない…)に可愛がられて本を与えられ、知識を身につけます。修道院に入りますが、素行が悪かったらしく(シーンはない…)追い出されます。

なんだかんだで、デュ・バリー子爵(映画では伯爵?…)の愛人となり、その後、子爵の策略(出世のため?…)によりルイ15世と出会い、愛人となります。

ただ、まだ公妾ではありません。公妾となるためには貴族の称号が必要とか既婚じゃないといけないとかの決まり(?)があったらしく、デュ・バリー子爵(ウィキペディアでは子爵の弟…)と結婚し、デュ・バリー夫人となり、正式にルイ15世の公妾となります。

ということで、映画は主にこの後のジャンヌとルイ15世の関係、そしてルイ15世の娘たちとの確執や王太子(後のルイ16世…)の妻となるマリー・アントワネットとの関係が描かれていきます。

滑稽対自然体…

今どき、この手の話を歴史大作として史実に忠実に描こうという発想はありません(あるかも…)ので、貴族の出でもないジャンヌと国王や貴族たちとの関係をどう現代感覚で描くかということになります。

あまりはっきりはしていませんが、おそらくマイウェン監督の意識としては、滑稽な宮廷社会とそうした価値観に染まっていないジャンヌを対比させようとしているんだと思います。

デュ・バリー伯爵(メルヴィル・プポー)とリシュリュー公爵(ピエール・リシャール)の策略(というものが描かれるわけではない…)によりジャンヌ(マイウェン)が宮廷に送り込まれます。

ルイ15世(ジョニー・デップ)がジャンヌを見初めます。ジャンヌの持つ宮廷社会にはない自然児的な存在感に惹かれたと考えるべきでしょう。

ルイ15世の描き方は、王となるべき存在として生まれた以上その役割を演じるしかないという諦観しているようなところがあり、可能な範囲で逸脱を楽しんでいる人物です。ジャンヌが貴族の成すべき振る舞いをしないところや自分に媚びてこないところを楽しんでいるということです。

ジャンヌを演じているのはマイウェン監督自身です。ジャンヌの振る舞いはほぼ現代人です。それをかなり意識して演じているように感じます。演出的にも、ルイ15世との対面シーンでの振る舞いや王には背中を見せない下がり方をしないことなど、また髪をアップにせず下ろすことやドレスに現代柄を使ったりすることにも現れています。

一方、貴族たち、特に女性たちはかなり滑稽に描かれています。ルイ15世の娘3人が登場し、平民出であり貴族的振る舞いをしないジャンヌを疎ましく思い敵対的(滑稽的に…)行為に出ます。3人のうち一番年下のルイーズ(後に修道女となる…)だけ描き方を変えている意図はわかりませんが、上の2人の滑稽さはかなりあからさまです。

マイウェン監督がこうした描き方で何をしようとしたのかははっきりしませんが、時代の流れからいけば、多分権威的なものの滑稽さと人間の本質的なものへの信頼じゃないかと思います。

自然体はマイウェンさんのキャラクターか…

つまり、宮廷社会は虚飾ですが、そうではあってもジャンヌのある種の誠実さや無欲さはルイ15世に通じていますし、ジャンヌも公妾になったからといって権力的に振る舞ったり、誰かを蹴落とそうとするわけではありません。

むしろ、ルイ15世からの贈り物(時代的にはあり得たことでしょう…)の黒人の子どもを大切に育てたりするなど誰とでも対等な関係を持ちます。ルイ15世の侍従のような立場のラ・ボルド(バンジャマン・ラヴェルネ)との関係の描き方もそうです。

当時の国王夫人や公妾というのはかなり権力を持ち得たようで、同じくルイ15世の公妾であったポンバドール夫人は七年戦争で暗躍したようなことがウィキペディアにあります。

マリー・アントワネットも逸話の多い王妃でこの映画にも登場しますが、まだ少女っぽい雰囲気で描かれておりあまり重要な役回りとはなっていません。ルイ15世の娘たちに懐柔されて反ジャンヌになるみたいな描き方です。

結局、ルイ15世は天然痘に罹り、司教(かな?…)の進言にもとづいてジャンヌを遠ざけます。何かを災いのもととして権威を守るという意味でしょう。

ジャンヌは、ベルサイユを去る日、ルイ15世との最後の対面で感染を恐れることなくルイ15世にキスをして去っていきます。

ベタな場面ですが不思議と印象は悪くありません。マイウェンさんのキャラクターかもしれません。演技なのか地なのかはわかりませんが裏のない感じがします。純粋とも言えますがやはり自然体ということでしょう。

というマイウェン監督が楽しみながら作ったような映画でした。

ちなみに映画ではナレーションだけですが、ジャンヌの最期はフランス革命後の恐怖政治下で処刑されたとのことです。