ヒトラーが吹っ飛ぶ寓話的なヒューマンドラマ
ナチスを題材にしてコメディ映画を撮るとすれば、それがいいことかどうかは別にしますとヒトラーを茶化すことが一番に思いつきそうですし、そんな映画があったようにも思います。しかし、この「ジョジョ・ラビット」は、そうしたシニカルな手法をとらず、主人公に10歳の少年をおいて寓話的なヒューマンドラマに仕上げています。
原作があるようです。クリスティン・ルーネンズ著『Caging Skies』という小説で、映画のようなコメディタッチではなさそうです。
映画はいきなりビートルズの「I want to hold your hand」ドイツ語版で始まります。
ジョジョ(ローマン・グリフィン・デイビス)は、立派な(?)ナチス党員になることを夢見て、日々イマジナリーフレンドのヒトラー(タイカ・ワイティティ監督自身)と話をする少年です。
その気持ちの表現の選曲かとは思いますが、一瞬、え? と思います。さらに、その後に続く会話がすべて英語です。ジョジョも、ヒトラーも、ナチスの将校も皆英語を話します。
正直、かなりの違和感ですが、逆に言えばそういう映画なんだということがわかっていいのかもしれません。
ジョジョは10歳になりヒトラーユーゲントに入ります。教官(サム・ロックウェル)がジョジョにうさぎの首をひねって殺してみろと指示します。しかし、心優しきジョジョはうさぎをわざと逃してしまいます。皆にあざ笑われ、ジョジョ・ラビットと呼ばれることになります。
その教官も制服のボタンをとめないようなだらしない服装で登場しますし、周りの人物たちも皆コメディタッチのキャラです。
見る映画を間違えたかな(笑)というのが正直なところですが、これは私の趣味の問題で映画自体はよくできていると思います。
教官をやっているサム・ロックウェルさん、誰だっけ? と、顔に見覚えはあるのに映画が思い出せなかったのですが、「月に囚われた男」でした。見逃している「スリー・ビルボード」ではアカデミー賞助演男優賞を受賞しているようです。いい俳優さんですね。
この映画ではナチスの将校ながら剽軽な役回りで、ラストでは機転を利かせジョジョを救って自分が犠牲になっていました。
で、映画の肝は、そうしたジョジョがユダヤ人の少女との出会いにより徐々にナチス思想から解き放たれていく過程ということになります。
その少女エルサ(トーマシン・マッケンジー)は、なんとジョジョの家の秘密の部屋に匿われています。
この映画、全体にそうなんですが、いろいろな出来事がシンプルにあっさりと描かれています。シリアスドラマではありませんのでもう少しダイナミックさがあってもいいように思いますが、この出会いも、ジョジョが壁の奥に部屋があるのを見つけ、そこで少女を見つけびっくりするというもので、その後も特にどうこうということもなく自然に親しくなっていくという流れです。
なぜエルサが匿われているかは、ジョジョの両親が反ナチスだからで、父親は登場しませんが、母親(スカーレット・ヨハンソン)は反ナチ運動の活動家として秘密裏に反ナチの張り紙をしたりしていました。
この母親の描き方でこの映画の寓話性がかなり上がっているように思います。
そもそも母親はほとんど家にいませんし、何をしているかもわかりませんし、前半でジョジョが顔に怪我をしたときにはヒトラーユーゲントの教官のもとに行き膝蹴りを食らわしたり、ジョジョの方でもエルサのことを知っても母親に尋ねることもしませんし、そして、ラスト近く、なんとその母親は広場で処刑されているという、そしてそれをジョジョは吊り下げられている女性の靴で母と気づき、抱きしめるというシーンのみで母親との別れを表現しています。
つまり、物語の進め方がジョジョ視点でつくられているということだと思います。
ジョジョをやっているローマン・グリフィン・デイビスくん、この映画を撮ったときは11歳らしいです。お父さんはベン・デイヴィスさんという撮影監督をされている方で、お母さんはカミーユ・グリフィンさん、ショートの監督やいろんなことをされている方です。
うまいと言いますか、幼い頃から映画製作という環境の中で育ったんでしょう、気後れすることもなくのびのびとやっている感じがします。100分くらいの映画ですがほとんどジョジョのシーンです。
で、映画は、徐々にジョジョはエルサに惹かれていき、最後には子どもながらに愛していると言っていました。
ラスト、ナチス・ドイツの敗戦です。外の気配を感じたエルサがジョジョに尋ねます。どっちが勝った? ジョジョはドイツと答えます。といってもシリアスな展開にはなりません。ジョジョは、ふたりでパリへ脱出しようとエルサを導きます。外に出たエルサはドイツの敗戦に気づきジョジョの頬を打ちます。ジョジョは、当然だよねとつぶやきます。
そこに静かに音楽が入って、エルサがリズムを取り始めます。しばらくするとジョジョも同じようにリズムを取り始めます。
デヴィッド・ボウイ「ヒーローズ」です。
JOJO RABBIT (VA) Various Artists Score || 06 – Helden (2002 Remaster).
という、ちょっと大人には物足りない映画ではありますが、これはこれでよくできた映画だとは思います。