かそけきサンカヨウ

人間関係にツッコミが足りず、かなり古くさい

今泉力哉監督の映画は「知らない、ふたり」以降それなりに見ていますが、そろそろもういいかなと、これは単に個人的趣味の話ではあるのですが、そう思っていたところ志田彩良さんの名前が目に入り、ん?だれっけ?とググりましたら、「ひかりのたび」でした。

結構印象に残っている俳優さんですので、もう1本ということで見た映画です。

かそけきサンカヨウ

かそけきサンカヨウ / 監督:今泉力哉

なんだかちぐはぐ感があらわで…

物語はともかく、各シーン各シーンの間合いがとても悪く感じます。各シーンの最後のカットでもうひと台詞あるなと思って待っていてもそのまま無言のまま終わってしまいます。そういうシーンがとても多いです。

俳優の表情や台詞のない間合いで見せる演出なんでしょうが、俳優が皆しっくりきていません。間が持たない感覚を俳優が感じているのではないかとさえ思えてきます。

家族や友人との日常の人間関係の映画ですので言葉ではない何かを描こうとした映画なんでしょうが、まあこれは感覚的な問題でもありますので、それこそ映画と私の間合いが合わなかったということかもしれません。

ひとつ例をあげておきますと、「え?」と聞き返す台詞が非常に多く不自然です。

志田紗良さん

ということもあり、表情やふるまいで演技ができる志田紗良さんですが、ワンパターンに陥っています。

ただ、父親役の井浦新さんとのふたりのシーンでは勝っていました。演技は勝ち負けではありませんので勝ったというのはなんですが(笑)、実の母親の展覧会から帰った日の寝室でのやり取りでは井浦新さんがなんだかやりにくそうでした。

その志田紗良さんの力もあったのか、ここでも最初に書いたちぐはぐ感を感じています。あれは娘の部屋に入った父親の戸惑いの演出じゃないですよね。

そもそも、父親が娘の部屋に入って娘が眠っているのをじっと見ているって設定は違和感があります。そういう父娘がいるいないはわかりませんが、この映画の直(井浦新)と陽(志田紗良)はそうした父娘関係が築けているようには思えません。

ネタバレあらすじ

ポイントがあまりはっきりした映画ではないのですが、陽(志田紗良)の家族関係と恋愛感情を含んだ友人関係の2つが軸になっています。

陽のあたらしい家族

ファーストシーンは、陽と陸(鈴鹿央士)たち高校の同級生5人が行きつけの喫茶店でだべっています。このシーンですでに2つの軸が提示されます。

ひとつは、陽が陸を見つめる目が陸への好意を示しています。

そしてもうひとつは、陸が皆に「思い出せる一番最初の記憶は何?(こんな感じの台詞)」と聞きます。ここでは陽は夕食の支度があるからと帰ってしまいますのでなにも語りませんが、すぐにフラッシュバックで物心もつかない幼児の自分が母親におんぶされ、母親がこの花がサンカヨウよと言うシーンが入ります。

それが陽にとって母親との記憶の最初で最後のものです。

陽の母親は陽が幼い頃に家を出ています。それ以来、父、直(井浦新)とのふたりの生活であり、今では家事は陽がすべてやっているようです。

その日、遅く帰った直は話があるといい、恋人が出来た、結婚しようと思うと言います。

後日、4、5歳(かな?)の娘を連れた美子(菊池亜希子)との食事会がもうけられます。陽は甲斐甲斐しく幼子の世話をやく父親を無表情に眺めています。

この時の陽の気持ちが原作やシナリオにどう書かれているのかがまったくわからないシーンでした。後に陽が美子に直接、あの時怖かった(だったと思う)と言い、聞き返され、ううん、そうじゃなく、うれしかったの(だったと思う)と言っていましたが、よくわからない台詞です。

この映画はとにかく平板です。それぞれの心情がよくわかりません。

最初は恋愛、次は友情

これ、最初は友情と、逆だったかもしれませんが、実はこれを陽が語るワンカットが本当のファーストシーンで、突然入りますので意味不明だったのですが、後半に直が陽に2つの別の音楽をつけたひとつの映像を見せてどう思ったかと聞くシーンがあり、それに対する陽の答えということでした。直は映画かテレビドラマの仕事をしているようです。

その言葉が陽と陸の関係、恋愛なのか友情ななのかといった青春にありがちな感情の描写に反映されているかどうかははっきりしませんが、まず、陸が陽に今度一緒にどこかへ行かないと誘います。

そして、陽が選んだ先が陽の実の母親佐千代(石田ひかり)の絵の展覧会です。そのギャラリーに行きますと、男性がいて、妻は子どものなにかで出掛けているなんてことを言います。やがて佐千子が戻ってきます。しかし、陽のことに気づきません。陽はいたたまれなくなり、陸を残して帰ってしまいます。

このシーンも何だかちぐはぐなんですよね。佐千代が陽に気づいた素振りは全くありません。それでもその夜、落ち込んでいる陽に直が、気づいていたんだよ、ちゃんとメールを送ってきているよと陽に見せます。

いやー、それはないでしょう、というくらい、佐千代にそんな気配は全くありませんでした。

陽の家族関係、すべてが良好に

陽の実の母佐千代はそれ以降登場していなかったと思います。

陽が展覧会に行き、母親が自分に気づかなかったその日、問題発生です。陽が家に戻りますと、直、美子、そして幼児がのんびりくつろぎ幸せな家族を演じています。陽が自分の部屋に入りますと、大切にしている佐千代の画集がびりびりに破られています。陽は庭に下り、幼児にあたります。

そして、自分の部屋に戻り眠ってしまい、目が覚めると直がベッドの脇に座っているという例のシーンです。

普通なら怒ると思いますけど…。

ということでこの事件を契機に、陽は佐千代とメールのやり取りや時に会ったりすることになり、また美子親子ともうまくいくようになり、陽は美子にお母さんと呼んでいい?などと尋ね、すべてがまるく収まります。

きっと原作がこうなんでしょう。このパターンならテレビのホームドラマです。

陽と陸、恋愛、友情、そして…

映画では陸の家庭環境も描かれます。父親が海外赴任で陸は母親と祖母と同居です。祖母は口うるさくあれこれ言う人で、陸目線では、母親も窮屈そうに見えます。

陸は心臓に何らかの病を抱えており手術することになります。そうしたことにも祖母はうるさく気を使い、陸自身も鬱陶しく感じているようです。

ただ、この映画全体にそうなんですが、とにかくいろんなことが雑に放り出されており、あっという間に陸の手術も終わり、ただ少し走ればうずくまってしまうようなシーンもあり、結構適当に描かれています。

とにかく、手術の前だったか後だったか忘れましたが、陽が陸に好きですと告白します。陸はなんだか答えに窮するような素振りを見せ、自分が陽と同じように好きなのかどうかわからないとか言います。

こうやって書いていて面倒くさくなってきましたが(笑)、もうひとりこのふたりに絡んでくる沙樹(中井友望)という同級生がいます。沙樹は母子家庭で沙樹自身もアルバイトをしています。

ん…、いまどき高校生がアルバイトって普通じゃないんですかね。

つまり、陸は沙樹のことが気になっているようなんですが、沙樹の方は母子家庭だからといって同情しないでと突っぱねてしまいます。

このあたりはとにかくよくわかりません。原作のものなのか、シナリオなのか、演出なのか、私には人間関係をステレオタイプにしか見ていないように思えます。

まあとにかく、昔風のこの年代の友情、恋愛感覚のようなことがあり、陽は、自分の誕生日会に陸を誘い、陸が来るかどうかがひとつの山場(でもないか…)になっています。

結局、陸は来ます。そして、あらためてふたりでその距離感を確認しあい(他に言いようがない)、壁にはられて佐千代の作品であるサンカヨウの絵、陽が描いた美子のデッサン、そして陸が書いた陽のデッサンをながめています。

そして、すでに書いた直が陽に映像を見せてどちらの音楽がいい? どう感じる? と聞き、最初は恋愛、次は友情と答えます。

で、終わっていたように思いますが、まだ何かあったかもしれません。

足りないものが多すぎる

物語が足りない、台詞が足りない、起伏が足りない、メリハリが足りない、ツッコミが足りない、とにかく足りないものが多すぎる映画です。