オランダから母娘のロードムービー、母はボニーとクライドを気取るも、娘は…
2023年のベルリン国際映画祭ジェネレーションKplus に出品されたオランダ映画です。Kplus は主人公が4歳以上の映画を対象としたコンペティションです。今年は横浜聡子監督の「海辺へ行く道」がスペシャルメンション(国際審査員特別賞)を受賞しています。
この枠は子ども向けの映画というわけではありません。私が見ている映画では「コット、はじまりの夏」や「悲しみに、こんにちは」がグランプリを受賞しています。

人物背景や事情は一切語られない…
11歳のルー(ローザ・ファン・レーウェン)は里親のもとで暮らしています。ある日、母親カリーナ(フリーダ・バーンハード)がやって来て、里親に無断でルーを連れ出し、自分の母親が暮らすポーランドまで旅をする話です。
それだけの話です。人物背景や事情の説明はまったくありません。たとえば、ウィキペディアや海外のサイトには養子縁組や里親となっていますので里親と書きましたが、日本の公式サイトでは児童養護施設となっています。オランダの制度ではわかりませんが日本でいえば施設というよりも里親といった感じでした。シーンとしても里親がカリーナからの電話を受けるところやルーに優しく対している2、3シーンがあるだけです。
カリーナはハリウッドの俳優だと言っていますが、そうでないことはわかりますし、後半になりルーに打ち明けますとルーは知っていると答えています。それ以外のカリーナの人物背景などはまったく語られず、ただ母親と確執があったことだけは本人が語っています。
ポーランドへ向かう理由は母親の家にお金を取りに行き、それで家を建てて二人で住もうと言っています。実際にラストシーンでバスルーム(かな…)の天井裏から大金を取り出していました。どういうお金なのかもまったく語られません。まあまともなお金ではないでしょう。
ポーランドの家に到着するもすでに母親は亡くなっており、家から姉(IMDbによるといとこ…)が出てきて追い返されていました。
わかるのはという設定だけです。なぜルーを里子に出しているのかとか、その経緯であるとか、あるいは大金にまつわる話であるとか、そうしたものでドラマを作ろうとしていない映画だということです。
ユニークな母と娘のロードムービー…
じゃあどういう映画かと言いますと、母と娘のロードムービー、ただそれだけです。
でもちょっとだけそのセンスがユニークです。
まず全体としてカラッとしていません。カリーナはいつもなにか思い悩んでいるような雰囲気を持っています。ルーの前では空元気を出しているように見えます。カリーナは「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」の母親のようなどうしようもないダメ親には描かれてません。
要はワルをするにもアメリカ映画のような突き抜け感がないのです。里親に黙ってルーを連れ出したり、旅の途中で無銭飲食をしたりするわけですがどこか思いっきりの悪さがつきまといます。
アメリカ映画とヨーロッパ、特に北の方の国のやや湿っぽい感じのする映画との違いのようなものを感じます。
というように私は感じましたが、ザラ・ドヴィンガー監督の狙いはもう少しシンプルで、ルーが思い描いていた母とは違う現実の母を知る映画と考えているのかも知れません。監督本人がそれっぽいことを語っています。
実際にそう見えないのは、ルーが何もかもわかっているように見えることもひとつの要因です。俳優本人のキャラクターだとは思いますが、ルーがいつも冷静で落ち着いた感じに見えますので、わかっていながら母が望む娘を演じているようにも見えるということです。
カリーナはしきりに自分たちを「ボニーとクライド」だと言っており、その映画の持つ哀愁感やレトロ感の影響もあると思います。カリーナはモーテルで白黒映画を見ながらいい映画は白黒映画だけだと言ったりしていました。「俺たちに明日はない(Bonnie and Clyde)」はカラーですけどね。
ねらいはファンタジー&コメディか…
一方、映画のつくりとしてはルーやカリーナの脳内イメージを映像として何か所かに挿入したりしてこれはシリアスじゃないよコメディだよと見せたり、特に章立てになっているわけでありませんが途中数個のサブタイトルが入ります。「all or nothing」だったか「ゼロか100か」と入り、カリーナがルーにそう言う場面もあります。ただ、映画は明確にそのサブタイトルで分かれているわけではありません。
音楽もノスタルジックで明るい曲が使われています。
つかの間の夢はルーに何をもたらすのか…
で結局、母娘の旅はちょっとしたエピソードを入れつつポーランドの母親の家に着き、ノックをすれば、姉が出てきて母親はもう5年前(だったか…)に死んだと突き放され、ドアをバタンと閉められるも、再び母娘で突入してバスルームの天井裏から大金を取り出し、そのお金で車を買い(ボロシボレーは故障して爆発していた…)、オランダの里親のもとに戻り、ルーが眠っている間にカリーナは車とお金を置いて消えてしまいます。
というユニークではあるけれどもポイントが定まらない感じもする映画です。
また、同じような意味ですが、この旅によってルーが何を感じたかまできっちり描かれていないことが気になるところです。映画ですので親がしょうもない人間でもいいわけですが、これですとわがままな親の自己満足を描いているだけじゃないかということです。ルーはこのカリーナにまだ夢を見るの? あるいは親離れしたの? あるいは絶望したの? ということです。
ザラ・ドヴィンガー監督、この「KIDDO キドー」が長編デビュー作みたいです。1990年生まれですから35歳くらいの方です。