久しぶりのスティーブン・ソダーバーグ監督です。「コンテイジョン」以来ですので12年ぶりに見ました。ですので、この「マジック・マイク」がシリーズものであり、また、この映画が三作目であることも今回知ったわけです。過去二作ともに興行成績もかなりよく人気シリーズみたいです。
ソダーバーグ監督の苦労のあとか…
男性ストリップダンスの映画といいますと、1997年のイギリスのコメディタッチの映画「フル・モンティ」くらいしか思い浮かびませんが、この映画はマジなダンス映画でした。
ただダンス映画といっても2時間踊り続けるような映画じゃ見ていても疲れてしまいますので、やはり基本はドラマであり、いかにクライマックスのダンスシーンまで集中力を持続させていくかということが重要になります。
その点ではスティーブン・ソダーバーグ監督もかなり苦労している印象です。
女性の声で理屈っぽいナレーションが全体を通して入ります。初っ端から入っていたんじゃないかと思いますが、最後の最後までその内容が画に結びつかず、結局それは富豪の妻マクサンドラ(マックス)の娘ゼイディが「ダンスとはなにか」を語っていたわけです。
はっきり記憶していませんが、ダンスは人間の本能的なもので理性には従わない(違っているかも…)みたいなことでした。さすがにダンス映画にこの手はまずいでしょう(笑)。
それに今はもうジェンダーやセクシュアリティに無自覚な映画は受け入れられませんので、題材が題材なだけに、その点でもかなり気を使って作られています。
マイク(チャニング・テイタム)がマックス(サルマ・ハエック)に対してセクシーダンスを見せるシーンでもマックスに「触れていいか?」と尋ねさせていますし、クライマックスのステージショーではそれまで演じられていた古典的な演劇のイザベル役の俳優にショーの進行役をさせています。
この進行役の女性ハンナ(ジュリエット・モタメッド)は、女性が従属的な立場ではないことを示し、また、セックスにしても女性自ら楽しむものでもあると言っているんだと思います。
ただ、結局このハンナもマイクを手にして言葉で語るしかないというのはダンス映画の演出としてもまずいでしょう。
ダンスシーンは編集しちゃいけない…
それなりに見られる映画ではありますが、結局そうした言葉で語るしかないということは、裏返せば、肝心のダンスシーンやクライマックスにいたるドラマが満足のいくものではないことを示していることになります。
マックス(サルマ・ハエック)がフロリダでチャリティーパーティーを開いています。マックスはイギリスの富豪の妻なんですが、なぜフロリダなのかはおそらく前作との連続性のためでしょう。
そのパーティーでマイク(チャニング・テイタム)がバーテンダーをしています。マイクは前作で破産しているらしく、そのためにバーテンダーをやっているということのようです。
パーティー終了後、マックスがマイクを呼びつけて「いくら?」と尋ねます。これまでの経緯を知りませんのでてっきりセックスパートナーかと思いましたら(笑)、パーソナルセクシーダンスをやってほしいということでした。あれこれ駆け引きがあり、結局マイクは踊ります。
このシーンのダンスは完全にセックスを模したセクシーダンスでした。確かにチャニング・テイタムさんのダンスはうまいのですが、かなり編集されていますので実際のところそのセクシーさもあまり伝わってきません。ダンスシーンというのは編集しちゃダメなんですよね。
とにかく、マックスはなにかに目覚め(よくわからないけど…)マイクに一緒にロンドンへ来てと言い、あれこれあって結局マイクは何をするのかわからないままにロンドンへついて行きます。
マックスは離婚調停中です。説明はされませんが、原因は夫の浮気がきっかけのようで、ただドラマ的には夫の抑圧からの開放のようなことがイメージされています。中途半端ですけどね。
マックスは離婚調停の結果(多分…)夫が所有していた劇場のオーナーになっています。現在その劇場では古典的な演劇が上演されています。ワンシーンだけでしたのではっきりわかりませんが、イザベラという女性が二人の男性のどちらかを選ぶという話のようでした。おそらく女性が男性を選ぶことでしか幸せを得られない、つまり従属的な立場にあるという意味だと思います。
マックスはマイクを引き連れ劇場に乗り込み、この出し物は中止にし、ひと月後にマイクの演出で新作を上演すると宣言します。
ドラマもダンスシーンも物足りない…
中盤から後半にかけてはこのステージショーの制作過程が描かれ、そしてクライマックスのダンスショーとなります。それだけではドラマにならないと思ったのか、その間にはマックスの愛の苦悩(ということもないけど…)が挿入されます。
この映画にはマックスとマイクのラブストーリーという側面もあるのですが、描かれ方としては、マックスがマイクと出会うまでの抑圧的な立場から開放されて自らマイクに愛を感じていくということだと思います。はっきりしていませんけどね。
ステージショーの制作過程のドラマもこれといったものがなく、中盤は退屈です。ダンサーのオーディションをしたり、イタリアだったかスペインだったかのバレエダンサーをスカウトしたり(違うかも…)、また途中でマックスの夫の妨害が入ったりするというありきたりのドラマです。
ああ、その過程で、夫の妨害による上演不許可をひっくり返そうと、堅物の女性の役人を落とすためにダンサーたちがバスの中でダンスを見せるシーンがあり、あれは面白かったです。ああいうシーンをもっとつくればいいのにと思います。
ただ、このバスの中のダンス自体はよかったにしても、なぜこのダンスで役人が認可したのかわからないなど、ほかにもいくつかドラマの種がまいてあるようにみえるのですがどれも中途半端に終わっています。
とにかく、ダンスショーが上演されます。さらなる夫の妨害があったようですが強引にやっていました(よくわからないけど…(笑))。
ダンスショーはこれまでどおりの古典的な劇で始まり、イザベルがどちらかの男性を選ぶ段になりユニコーンを呼びます。ユニコーンを何の象徴として描いているのかはイザベルの台詞の原語を聞き取れていませんのでよくわかりませんが、前後の流れでいけば女性の心の奥底からの純なる気持ち、あるいは欲望みたいなことじゃないかと思います。
イザベルの呼びかけにマイクがユニコーンとして声だけで応えます。そして、イザベルに選ばれるべき男性二人がタキシードを脱ぎ、他の数人のダンサーも登場しダンスシーンとなります。
正直、ちょっとダサいです(ペコリ)。
そしてイザベルがスタンダップコメディのようにマイクを持ち会場の空気を煽りつつダンサーを紹介してダンスが繰り広げられます。ダンスはブレイキンのようなダンスでストリップダンスというわけではありません。マイクがマックスに対して踊っていたセクシーダンスを3組のダンサーが会場の女性相手に踊るシーンもありますが、二番煎じですのでちょっとだけでした。
そしてクライマックスです。突然ですが(笑)ステージに雨が降り、その中でマックスと女性ダンサーがデュエットで踊ります。セクシーダンスではありません。セックスを思わせる振りもありますが基本的にはコンテンポラリーダンスです。マックスとマイクのラブストーリーの表現です。
あの女性ダンサーは Kylie Shea というアメリカのバレエダンサーで Spectrum Dance Theater の元プリンシパルダンサーです。さすがにうまいですし、このシーンは結構みられます。
そしてマックスとマイクが愛を確かめあって終わります。
いろんな映画を撮るソダーバーグ監督
長編デビュー作でいきなりカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した「セックスと嘘とビデオテープ」から「オーシャンズ11」シリーズまで、チェ・ゲバラの二部作もありましたが、そんな多彩な作品の中からのおすすめの1本は「Bubble/バブル」です。
74分の中編ですしマイナーな作品ですので知らない方のほうが多いと思いますが、リンク先で詳しく紹介していますので一度ご覧ください。
DVDは「ガールフレンド・エクスペリエンス」のB面のような売り方だったんですが、今は単独で配信されていますね。いや、日本じゃ見られないみたいです(ペコリ)。