MilitaryWives軍人の妻たちの合唱もの映画
「フル・モンティ」のタイトルが目に入り、楽しく見たなあと思い出しながら、それ以降ピーター・カッタネオ監督の名前を見た記憶がありませんので一発屋かと思いましたら、テレビドラマをたくさん撮っている方でした(ペコリ)。
TheChoir:MilitaryWives
BBCのドキュメンタリーシリーズ「The Choir」の一本「TheChoir:MilitaryWives」をもとにした映画のようです。「TheChoir:MilitaryWives」でググれば見られます。
BBCの番組はギャレス・マローン(Gareth Malone)という合唱指揮者がイギリス国内のいろいろなところで合唱団を作っていくというドキュメンタリーのようです。「TheChoir:MilitaryWives」は2011年に放送されています。
映画ではそうした仕掛けられての合唱団ではなく、MilitaryWives、まさしく軍人の妻たちが自発的に、といいますか、軍人である夫の悪い知らせがいつ届くかもしれないという不安を紛らわせるために合唱を始めるという話になっています。
夫たちが出征する戦争はジョージ・ブッシュが始めたアフガン戦争です。軍人の死者はアメリカ側 3,562人、うちイギリスは456人、タリバン側 67,000〜72,000以上、アルカイダ 2,000以上とウィキペディアには出ています。
At 10 o’clock tonight…That’s 1:30 for you…
映画には特に新鮮なところはありません。こうした合唱もの映画のパターンである、なかなか皆がひとつにまとまらずに苦労するも最後にはひとつになり感動的な合唱曲で締めくくられるという流れになっています。そのクライマックスはロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで行われる戦没者追悼イベントで歌うシーンです。
BBCの「TheChoir:MilitaryWives」で歌われた曲は「Whereever You Are」というポール・ミーラー(Paul Mealor)さんによって書かれた曲ですが、映画で歌われているのは映画オリジナルの「Home Thoughts From Abroad」という曲で Spotify などで聞くことができます。
これには涙が出ます。歌詞は合唱団のメンバーそれぞれが夫とやり取りした手紙の中からのワンフレーズを使っているという設定になっています。
サビとして使われているこの歌詞、
At 10 o’clock tonight, I’ll be looking at the moon
(musixmatch)
That’s 1:30 for you, will you be out there too, ooh, ooh, ooh?
I know that it’ll be shining on me, and it shines for you
These simple things help me get through
直訳すれば、
今夜10時に私は月を見ます。
そちらは1時30分ですね、あなたも同じ月をみているのでしょうか?
この月の光は私と同じようにあなたも照らしているはずです。
そう考えるだけで私の気持ちは安らぎます。
という内容で、イギリスとアフガニスタンの時差1時間30分がうまく使われています。
音楽はいいが、映画は凡庸
ある駐屯地にアフガニスタンへの派兵命令が出ます。大佐の妻ケイト(クリスティン・スコット・トーマス)は、自分と同じように残された妻たちの不安やストレスを和らげようと皆で集まってなにかやろうと提案します。本来その役目は下士官の妻リサ(シャロン・ホーガン)がするもののようですが、まったく乗り気ではありません。
その二人の鞘当で映画は進みます。ただ、一見二人の刺々しいやり取りも、お互いに大人の余裕なのか、戦場に赴いた夫のことで頭がいっぱいなのか(そうは見えないけど)、イギリス人はそうしたものなのか、最後の最後の最後に爆発するくらいで、それまでの8割方はさらりと流されています。
ですので、クライマックスまでになにがあったんだっけと考えてみても大したことはなにもありませんでした(ペコリ)。若い兵士の妻に戦死の知らせが届くことが一番の出来事ですが、それでさえドラマ的に盛り上げようとはしておらず、この傾向は徹底しているように感じます。
そうしたことからもドラマとしても単調になっていますし、個々の人物を掘り下げようということでもありませんし、コメディ志向ではありそうですがツッコミが甘くクスリともできませんし、とにかく狙いのはっきりしない中途半端な映画です。
クライマックスに持っていくためにケイトの一人息子が戦死(最近だと思う)しているとの設定になっています。そもそものサークル活動の建前も兵士の妻たちのためと言っていますが、その実自分の悲しみを忘れるためということです。
そして、リサがつくることになった戦没者追悼イベントで歌う曲の歌詞で問題発生です。リサが悩みに悩んでも(それほどでもないが)一ヶ所だけどうしても埋まりません。リサはケイトから聞いていた、ケイトが心にしまっている息子の思い出の言葉「また一緒に笑える日まで(’Til we laugh again)」を無断で使ってしまいます。イベントへの出発の日、リサがそのことを伝えますと、ケイトが突然キレて、なぜか突然下ネタまで入った激しい言い合いになり、ケイトはイベントには行かないと去ってしまいます。
まあその後は言わずもがなで、直前にケイトが戻り合唱はロイヤル・アルバート・ホール満員の観客のスタンディングオベーションで幕を閉じます。
という、テレビドラマならともかく映画としてはかなり苦しい出来でした。