田園の守り人たち

絵画を見るようなフランス農村風景が美しい

思っていた以上にいい映画でした。

グザヴィエ・ボーヴォワ監督本人も語っているように、まったく戦場を描かない戦争映画という感じです。第一次世界大戦時のフランス、農業を営む一家の物語です。ふたりの息子と娘の夫、成人男性は皆戦場です。母と娘、そしてその一家に雇われた女、その三人の女性たちの物語です。

田園の守り人たち

田園の守り人たち / 監督:グザヴィエ・ボーヴォワ

フランスは農業国という話はよく聞きますし、随分昔、パリからブリュセルへタリスで移動した時に見た風景は美しい田園風景でした。ただ、この映画の田園のイメージは「緑」ではなく「黄金色」、作付けしているのは麦ですし、日本のような水田ではありません。それに時代が1915年から1920年の映画ですので、労働は過酷そうですし、労働が日常のような世界です。

原作は、エルネスト・ペロション(Ernest Pérochon)という作家の1924年の作品「Les Gardiennes」です。

60歳代でしょうか、オルタンス(ナタリー・バイ)は、すでに夫を亡くしているようで、一家の主としてすべてを仕切っています。息子コンスタンとジョルジュは戦争に駆り出されています。娘ソランジュ(ローラ・スメット)は結婚しており、夫クロヴィスは同様に戦場です。

オルタンスとソランジュが同居しているのか、あるいは近所なのか、家の位置関係や距離感がはっきりしませんが、ふたりで家の農業を守っている感じです。オルタンスの夫の父親アンリがいますが、農作業をするシーンはありません。見た目まだ元気で、オルタンスと同じくらいの年齢に見えましたので、なぜ手伝わないのだろうと見ていたのですが、俳優さんではないようです。働き手となる成人男性は皆戦場へ駆り出され、男性はいても高齢者、女性たちが家や農業を守っていることの表現なのでしょう。そうした人間関係や背景など、ほとんど説明されません。台詞も少ないです。

オルタンスは農作業の手伝いに人手を求めますが、女性しかいません。フランシーヌ(イリス・ブリー)がやってきます。映画の中ほどで20歳(21だったか?)の誕生日とか言っていました。孤児院で育ったようで両親はいません。

映画の前半は、フランシーヌがとてもよく働き、オルタンスもソランジュもフランシーヌを気に入り、日々の労働と美しい田園風景を見せることに注力されています。

公式サイトにも「ミレーの絵画を思わせる」との表現がある通り、フランスの美しい農村風景が続きます。ロケ地はどこなんだろうと調べてみましたら、こんなサイトがありました。

Film France : Ca s’est tourné près de chez vous

そのうちの一か所 Bonneuil のストリートビューです。確かにこんな感じでした。

麦の収穫のシーン、牛を使っての農耕シーン、種まきのシーン、雪に閉ざされたシーン、霧に覆われた森、黄金色に輝く夕日、などなど、とにかく美しいです。

それに特徴的なシーンがありました。収穫の途中の休憩です。女性たち20人くらい(かな?)が思い思いに何か食べたり話したりしています。それを正面からカメラがパンしていきます。女性たちは円になっていますからカメラが中央でぐるっと回る感じです。言葉はありません。女性たちの何となく充実した笑顔、労働からでしょう、高揚した顔もあります。とても印象的なカットでした。

そうした労働する女たちや農村風景をじっくりとらえたカットが続きます。

映画全体としては農作業の変化も描かれています。収穫シーン、最初はそれぞれが鎌を持って刈り取っていたのですが、一人で扱える複数の鎌が着いた道具、牛が引く回転式の収穫機と移り、映画の最後にはトラクター式収穫機が登場します。Fordsonのエンブレムがついていました。 

ということで、一見のどかで穏やかな農村ですが、時折男たちが休暇で戦場から戻ってきてはまた戦場に戻っていくことが繰り返されます。

まず、長男のコンスタンが戻ってきます。学校の教室を訪れるシーンがあり、見ている時はその意味がよくわからなかったんですが、コンスタンは教師とのことです。

コンスタンが教室に入りますと、ソランジュが子供たちに「ドイツ人は悪いやつ」といった長い標語のような詩を暗唱させます。その時のコンスタンの表情がかなり微妙に感じられましたが、どういう意図でこのシーンがあるのかなかなか難しく、後に、ソランジュの夫クロヴィスが戻った時には、ドイツ人も自分たちと同じように妻がいて、子がいて、母がいるんだ(こんなような意味)と語っていたことと対になっており、その際は逆にソランジュたち家族が微妙な表情を浮かべていました。

監督のメッセージ的なものがあるのでしょうが、どう取ればいいのかよくわからないシーンですね。

コンスタンは戦場に戻っていきますが、後半に戦死の知らせが入ります。オルタンスの悲しみは深いです。

時間軸は前後しますが、次男のジョルジュも休暇で帰ってきます。ジョルジュはフランシーヌに好意を持つようになり、手紙を欲しいと言い残し、再び戦場に向かいます。そして、ふたりは手紙を交わすうちに愛し合うようになります。

という感じで、前半は淡々と進み、いい感じだなあと思っていましたら、後半は一転して人間模様を描くことが中心になります。ただ、見通しはあまりよくなく、説明不足の割に長く感じるという印象です。

まず、ソランジュの夫クロヴィスが捕虜になったとの知らせが入ります。 ソランジュは当然動揺しますが、映画の流れとしては前半と同じように農作業シーンが続きますので、そうしたソランジュの気持ちが持続されているようには見えません。

そうした中で、アメリカ兵が登場します。これも結構唐突に感じますが、実際アメリカが参戦したのは1917年ですので時期的にはこういうことなんでしょうが、映画としては、数人のアメリカ兵が野菜を買いに来るというシーンで登場しますので、他に方法はなかったのかなあと思います。

とにかく、数人の陽気なアメリカ兵という感じで、それにソランジュが興味を示すといったカットがあり、これにはとても違和感が感じられます。

再びジョルジュが休暇で戻ってきます。あれだけ手紙で君の便りが救いだなんて書いてきていたんですから、すぐにでもフランシーヌと抱擁かと思いますが、映画はもたもたします。とにかく、ジョルジュはフランシーヌを自分の森(所有しているよう)へ素敵なものを見せると誘います。

ストーンヘンジ、正確にはカルナック列石です。

ストーンヘンジと言えばイギリスのストーンサークルですが、巨石建造物自体はヨーロッパ全域にあるらしく、今年の初めには、実はフランスのブルターニュ地方が発祥であるとの新説も発表されています。

とにかく、そこでふたりは結ばれます。その後もフランシーヌの部屋で愛を交わすシーンがあります。

そんなある日、オルタンスはソランジュがアメリカ兵と関係を持った(と見える)場面を目撃します。村ではオルタンスの家族の誰かがアメリカ兵を招き入れていると噂が立っているらしいです。らしいというのは映画ではそんな気配は一切感じられないからですが、とにかく、オルタンスは家(家族)を守るために、それをフランシーヌのせいにして、突然解雇してしまいます。

フランシーヌは、一生懸命働いたのにとか、あなたを信じていたのにとか、家族のつもりだったのにとか言います。そんなこと言わせなきゃいいのにとは思いましたが(笑)、怒るのではなく静かに言っていたのが救いではあります。

フランシーヌは新しい働き先をみつけます。夫が戦争に行っており、母娘で暮らしています。娘にはいつまでもいてねと慕われ、母親もいい人で、ああよかったと思った矢先、フランシーヌが妊娠していることがわかります。ジョルジュに幾度も手紙を送りますが戻ってきてしまいます。オルタンスに手紙を出しますが、なしのつぶて、オルタンスは手紙を燃してしまっています。

フランシーヌは(貯めた)お金はあるからとひとりで育てる決心をします。母娘の方は不幸に見舞われます。夫が戦死したとの知らせがきます。

戦争が終わり、ジョルジュも捕虜だったクロヴィスも戻ってきます。ジョルジュがフランシーヌのことをどうしたのか、子どもがいることを知っているのか、どう描かれていたのか記憶が蘇ってきません。そうした描写がなかったのかもしれません。

フランシーヌは元気な子を産み、洗礼(だったかな?)の日、たまたま(なぜだったか思い出せない)居合わせたジョルジュ、ふたりは目をあわせますが、フランシーヌは厳しい顔のまま去っていきます。

後日、どこかの(酒場?)、フランシーヌが歌っています。

とてもいい歌でしたし、見ていて違和感はなかったのですが、今考えてみると、何だかよくわからないシーンです。ただ、同じ歌であったかどうかはっきりしませんが、フランシーヌが歌うシーンは映画の中で2度ほどあり、いい雰囲気のシーンでした。本人が歌っているんでしょうか。

とてもいい映画でしたが、後半の人間模様が整理しきれていないと感じますし、後半のテンポを上げて前半とは違った印象でまとめれば完璧な映画になったように思います。

もう一度見てみるか…。

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