MY (K)NIGHT マイ・ナイト

中川龍太郎監督、EXILE HIRO企画をウォン・カーウァイ風映像で遊ぶ…

劇場公開日の数日前に中川龍太郎監督の映画ということだけでポチッとしておいたこの映画、見る少し前にどんな映画だろうと公式サイト見てびっくり! 企画プロデュースに EXILE HIRO氏の名前が出ていました。

中川龍太郎監督の映画を何本か見てきた者としては、え? どういうこと? という驚きですが、まあオファーということなんでしょう。青山真治監督も、岩田剛典さん主演の「空に住む」ってのを撮っていますから、むしろ EXILE HIRO氏の見る目が確かということでもあります。

MY (K)NIGHT マイ・ナイト / 監督:中川龍太郎

EXILE HIRO 氏の企画はどこまでなんだろう…

この映画のどこまでが EXILE HIRO氏の企画なんでしょう?

このことにすごい興味があります(笑)。中川龍太郎監督のセンスを知る上でもとても重要なことです。

まずは EXILE 所属のタレント(歌手? 俳優?)、この映画では THE RAMPAGE from EXILE TRIBE のメンバーである川村壱馬さん、RAKUさん、吉野北人さんの3人が主演であることは必須でしょう。

そして、タイトルと物語の骨子も EXILE HIRO氏サイド(本人だけということでないという意味で…)のものじゃないかと思います。

タイトルの「MY (K)NIGHT」は「騎士 knight」と「夜 night」をかけています。ここまでは間違いなく EXILE HIRO氏サイドのものだと思います。そして、そこから発想されたであろう「世界を救う[MY KNIGHT]の“デートセラピスト”=一夜かぎりの恋人たち──」、ナイト三人三様と女性三人三様の設定、ここらあたりまでが EXILE HIRO氏サイドのものじゃないかと思います。

おそらくこれ以降の、3人にまつわるそれぞれの物語は中川龍太郎監督のものじゃないかと思います。あるいはミーティングでふくらんでいったということもありそうです。

なぜこんなことにこだわっているかといいますと、あるいは、これまでにない企画(中川龍太郎監督にとってこれまでにない企画…)に中川龍太郎監督がノリノリになってしまったということがあれば、それはそれ、とても面白いことじゃないかと思うからです(笑)。

ウォン・カーウァイ風映像で遊ぶ…

中川龍太郎監督のこれまでにない映像で映画がつくられています。

スローシャッター映像、ブレ映像の多用、動き回る(と見せた…)カメラ、これらはウォン・カーウァイ風映像と言えます。

当然、それをわかってやっているわけ(だと思う…)ですから、簡単に言えば遊んでいるということです。完全なる想像で言えば、中川龍太郎監督は無茶苦茶楽しかったんじゃないかと思います。

3人3組はそれぞれまったく別の行動なんですが、それをひとつの物語のように構成しています。この手法はすでにオーソドックスなものですので誰のものということはありませんが、かなりうまくできています。

中川龍太郎監督、こうしたベタな(ゴメン…)ドラマも結構いけますね。おもしろかったです。

煙草、立ちション、ニンニク増し増し…

夫の浮気に思い悩み、年若い男とのデートを体験しようとする沙都子(安達祐実)と刻(吉野北人)、インスタにフォロワー7万人を持つ女性 miyupo(夏子)とイチヤ(RIKU)、病で先のない母親に婚約者を見せたい灯(穂志もえか)と刹那(川村壱馬)、この三組の男女の一夜の行動が描かれていきます。

それにしても設定といい、人物名といい、やはりこれは EXILE HIRO氏サイドのものだと思います。

で、それぞれの物語ですが、まず沙都子(安達祐実)と刻(吉野北人)の物語はありきたりではありますが一番ドラマとしてまとまりがあります。さすがにレストランのあーんしてとかのシーンには気恥ずかしくなり、中川監督よく頑張りましたという感じではありますが、その後一気に方向転換させて見られるものにしていました。

きっと沙都子は勢いでここまで来てしまった自分が嫌になったんでしょう、帰ると言います。刻が演技をやめて「さっちゃんが本当にしたいことをやろう」と本音で話しますと、沙都子は本当の刻の生活が見たいと言います。刻は自分が暮らす中華街(かな…)へ連れていきます。

これ以降の映像は本当にウォン・カーウァイ風で、場末感ただよう路地、安アパートがまるで九龍城のようでした。

そこには人付き合いに壁がありません。刻が沙都子を一緒に暮している女性に紹介しても、その女性はクサー!(にんにく増し増しラーメンを食べてきているので…)と言うだけで、日々会っている人たちとまったく変わらない対し方です。

で、ドラマとしては、近所の女性がストーカーに追っかけられてきたところを沙都子がパンチ一発でやっつけたりというコメディなども入れながら、結局、沙都子が気取りのない人間関係を体験したことで変わるというオチになっています。

沙都子は刻に、夫と正面切って話してみると言って去っていきます。

救われるナイトたち…

miyupo(夏子)とイチヤ(RIKU)の組は、そもそも miyupo がどんな癒やしを求めているのかわからない話で、むしろイチヤのほうが救われる話です。

miyupo はイチヤを連れ回してインスタに上げる写真を撮らせています。最初から miyupo は上機嫌ですし、イチヤは沈んだ感じです。これが演出なのかどうかはわかりません。デートセラピスト(なにこれ?)としてのネタが見つからなかった、ってことはないとは思いますが、ごく一般的なカップルにしか見えなかったです。

miyapo はイチヤが撮った写真を見て、え? どうしてこんなにうまいの? なんて言っています。そして、たまたま見かけた写真展の会場にひとりで入っていってしまいます。戸惑うイチヤ、でも後について入っていきます。

ああ、そういうことね、なんですが、イチヤは写真家だということです。さらにその写真展の出展者はイチヤがよく知る人物であり、イチヤは挫折して写真から遠ざかっている身ということです。

出展者がスピーチをしています。今や誰もがスマホで写真を撮り写真がなんとかだ(解体されてしまったとかそんなことだったか、忘れました…)と力説しています。イチヤが止めるのもきかず、miyapo はすっと手を上げ、インスタの写真はダメなんですか、いい写真にはいいねでいいと思いますと、インスタグラマーらしい主張をします。会場には冷気が流れています(笑)。

倉庫のようなシーン、吹っ切れた!と叫ぶイチヤ、miyapo は、私もバレエを諦めたのと言いながら踊り始めます。幾度もスマホのシャッターを切るイチヤです。

灯(穂志もえか)と刹那(川村壱馬)の物語が一番中途半端です。

灯は、余命幾ばくもない母親に婚約者を会わせようと刹那を婚約者にして病院に面会にいきます。灯は親離れしていな女性で、刹那を母親好みの男性に仕立て上げようとネクタイを変えさせたりします。

病室に入り、灯が刹那を婚約者だと紹介しますと、母親(坂井真紀)は「私を捨てるのね」とにべもありません。灯が飛び出していきます。後を追った刹那に、灯は子どもの頃から母親の言うなりで育ってきたと言い、自分の好きなものを買おうとしても母親がどう思うかと考え、母親好みのものを買ってしまうと言います。刹那はオレに任せてと言い病室に戻っていきます。

お、さすがデートセラピスト! きっと母親から好かれる奥の手でもあるんだろうと大いに期待したんですが、何のことはない、結局母親に主導権を握られていました。

母親は、ちょっと付き合ってと言い、廊下にでてタバコを吸い始めます。そして、あの子は親離れしなくっちゃいけないのよ、なんて言っています。

正直なところ、どういう意味かわかりませんでした。あんたが子どもを縛り付けてきたんじゃないの、そうじゃなきゃ、婚約者を連れてきた娘に、私を捨てるのかなんて言わないでしょう。

結局、刹那自身も母親との関係がうまくいっていないという設定だったらしく、母親に会いに行くと電話を入れていました。たしかに映画冒頭のシーンは刹那が港の海に向かってタバコを吸いながら母親からの留守電を聞くシーンで始まっていました。

この話も、刹那のほうが救われるという物語にしたかったようです。

ただ、なぜこの中途半端な刹那のパートで締めたのかはわかりませんが、あるいは中川監督は妙に盛り上げてベタな終わり方をしたくなかったのかも知れません。

ん? いやいや、その後のシーンは、三人が MY (K)NIGHT のオーナー(村上淳)と一緒に港の埠頭をカッコよく(かどうかの感じ方は人それぞれ…)歩いてくるシーンで終わっていました。無茶苦茶ベタですやん(笑)。

ということで、中川龍太郎監督にはなかなか難しいオファーだったのかも知れません。最初に書きましたように、ノリノリで楽しめたらよかったのですが。