私、オルガ・ヘプナロヴァー

私たちは幸せなときは常に善き人ですが、善き人であるときは必ずしも幸せとは限りません(引用)

1973年のプラハ、路面電車を待つ群衆の中へトラックで突っ込み、8人を殺害、12人を負傷させ、翌年23歳で絞首刑に処せられた女性オルガ・ヘプナロヴァーの映画です。

映画のスタイルはちょっと変わっていますが、基本的には伝記映画です。オルガを演じているのは「ゆれる人魚」「マチルダ 禁断の恋」のミハリナ・オルシャンスカ(ミハリーナ・オルシャンスカ)さんです。

私、オルガ・ヘプナロヴァー / トマーシュ・ヴァインレプ&ペトル・カズダ

死刑の恐怖に喚き散らすオルガが主題か…

この映画は2016年製作の映画で、その年のベルリン国際映画祭パノラマ部門のオープニングで上映されたそうです。監督はトマーシュ・ヴァインレプさんとペトル・カズダさん、現在41歳と45歳、この映画が長編デビュー作です。7年前ですから34歳と38歳のころに撮っている映画です。

映画はモノクロでほぼすべてフィックス、極端に情緒的なものが排除されています。ミハリナ・オルシャンスカさんの演技もそうですが、編集には見るものの意識をつないでいこうとの意識がまったくなく、文章でいえばあらすじを読んでいるようなものです。

何歳の設定かはわかりませんが、寝ている(目をあけて横になっている…)オルガに母親が学校へ行きないと声をかける場面に始まり、絞首刑で死亡するまで、公式サイトのストーリーがそのままスチル(スチルじゃないけど…)で繋がれたような映画です。

ただ、ワンシーンだけオルガが感情を爆発させるシーンがあります。絞首刑になる前です。それまで群衆の中に突っ込んだ後でも顔色ひとつ変えることのなかったオルガが刑務官に引き立てられていくときには、恐怖でしょう、喚き散らして抵抗していました。

ということは、これがトマーシュ・ヴァインレプ、ペトル・カズダ両監督のこの映画の主題ということでしょう。

ストーリー(公式サイトから引用)

映画からはあまり多くのことは感じられません。もちろん人によりますが、それを意図してつくられてはいません。とりあえずどういう話かは公式サイトのストーリーを引用しておきます。

凍りついた実家を象徴する、永遠に続くかのように多くのドアが閉ざされた裸の廊下。無口で内向的な彼女は、ベッドに横たわっている。オルガは気分が乗らないという理由だけで学校に行きたがらない。オルガはつねに不機嫌で、自分の殻に閉じこもり、本を読み日記をつけている。13歳のときから深い鬱病に悩まされていたオルガは、精神安定剤メプロバメートを過剰摂取し、自殺を図る。未遂に終わったオルガは、精神科の病院に入る。そこで初めて同性同士のカップリングや未成年者の喫煙に直面する。病院でも異質な存在として見られるオルガは、シャワー室で集団リンチを受けるのだった。退院後、オルガは家族から距離を置くようになる。誕生日の願いは家族から離れること。

煩わしい親元を離れ、一人で暮らす森の中の質素な家具しかない小屋は、彼女の孤独の象徴となる。世間への反抗の証にとばかりに髪をボーイッシュなボブに切り、目立たないように頭を下げ、タバコを吸いながら、ガレージでのトラック運転手として働く。職場で出会った美しいイトカに自分と同じような匂いを感じ取ったオルガは、自分の性癖を発見する。だがイトカには別の恋人がおり、オルガとの蜜月の日々は長く続かなかった。イトカに捨てられたオルガは、孤独のどん底に突き落とされる。灰皿は吸い殻で溢れるようになり、以前にも増して自暴自棄となるのだった。

何度も母親に相談するが、結局、処方箋を無言で渡されるだけ。精神科クリニックもオルガを突き放す。そんな中でも、オルガに声を掛けてきた奇特な酒好きの中年男ミラと一時、心の安寧を得る。それでも満たされることのないオルガに残るのはタバコと薬、日記や手紙を書くことだけ。オルガの内なる怒りが時間をかけて蓄積され、とうとう最後の行動に出る…。

公式サイト

人はなぜ無差別殺人を犯すのか…

言うまでもなく世界中で無差別殺人が起きています。人はなぜその凶行に走るのか、もちろんこの映画はそれに迫ろうとしているわけではありませんが、2016年という7年前であれ、現実に起きている数々の無差別殺人に無関心でこの映画を撮れるはずはありません。

でも、わかんないんですよね。なぜ今(2016年)このオルガ・ヘプナロヴァーを映画にしようとしたのか。

その答えではありませんが、ミハリナ・オルシャンスカさんとトマーシュ・ヴァインレプ監督のインタビューを読んでいましたら多少参考になるものがありました。

オルシャンスカさんは雄弁ですね。ところで、あのチェコ語は吹き替えらしいです。もちろんオルシャンスカさんはチェコ語を喋っているのですが、ポーランド人ですのでアクセントが違って不自然だったようです。

で、そのオルシャンスカさん、インタビュアーのこの映画のどこに惹かれたかの質問に、とても興味深く挑戦的だったと答え、さらに、

But I think the bad guys – as long as they’re not pure villains like in Disney movies – are the most interesting people because, like Oscar Wilde said, “when we are happy we are always good, but when we are good we are not always happy”.

The Upcoming

しかし、ディズニー映画のような純粋な悪役でない限り、悪い人こそが最も興味深い人物だと思います。なぜなら、オスカー・ワイルドが言ったように「私たちは幸せなときは常に善き人ですが、善き人であるときは必ずしも幸せとは限りません」

すごいですね、オルシャンスカさん。もっと引用したいんですが長くなりますのでもうひとつだけワンフレーズ引用しますと「something happens when you feel lonely(孤独を感じるときなにかが起きる)」とも語っています。

トマーシュ・ヴァインレプ監督の方はいろいろ喋ってはいますが、わたしの英語力では何を言っているのかよくわかりません(笑)。それに、オルシャンスカさんにくわれています(笑)。

結局、ラスト、オルガが死刑を前にして感情をあらわにするシーンもオルシャンスカさんのものようです。彼女は犯罪者ではなくひとりの女性を描きたかったと言っています。