弟とアンドロイドと僕

父親との確執と自己承認欲求かな…

宣伝コピーだとしても、阪本順治監督の言葉として「これを撮らなければ自分は先に進めない」とまで語る映画ですのでかなり強い個人的な思いがあるのでしょう。

それゆえでしょう、他人にはとてもわかりにくい映画です。

弟とアンドロイドと僕 / 監督:阪本順治

家族間のわだかまり映画か?

阪本順治監督の映画は、他にも何本か見ていると思いますが、記憶しているのは「闇の子どもたち」「半世界」くらいです。前作でレビューも書いているということで「一度も撃ってません」も上げておきますが、それぞれ方向性もずいぶん違い、私にはあまり色が感じられない監督さんです。

ですので、「これを撮らなければ自分は先に進めない」映画と言われれば無茶苦茶期待してしまいます。

主要な人物は、僕である桐生薫(豊川悦司)と弟である山下求(安藤政信)、そして僕のクローンであるアンドロイドです。もうひとり、少女(片山友希)が登場し、ラストシーンでアンドロイドを抱擁するシーンがありますのでかなり重要な役なんでしょうがよくわかりません。母親の代理かもしれません。

明確な物語はありません。いや、あるんでしょうが、映画的には表に出てきていません。とにかく、すべてが断片的にしか提示されませんので、映画を見ただけでひとつの物語として理解することは困難です。

結局、他人にはよくわからないトラウマになっているような家族関係がベースにあるような描き方になっています。もちろんこれは映画ですので、それが言葉通りに阪本監督のものであるかは誰にもわかりません。

いずれにしても、「弟」と「僕」の関係、あるいは「僕」と「母」との関係、そして「僕」と「父」との関係に何らかの怨念的わだかまりがあるという物語です。それ以上は脚本も書いている阪本監督自身が語らなければ誰にもわかりません。

ネタバレあらすじ

工学博士の薫は大学での講義もそこそこに住まいである、父親が寝たきりとなって廃院した桐生産科医院に戻り、自分そっくりのアンドロイドをつくっています。完成間近です。薫は、傍から見ればけんけんをしているようにしか見えない歩き方をしたりします。理由は自分の足を自分のものと感じられないということらしく、また鏡を見ても自分が映っていないと言います。自分が存在していないように感じるということで「見えていますか、僕が?」と言っています。

父親は植物人間となって入院しています。異母弟の求とその母が面倒を見ています。ある日、求が、父親が薫の名前をつぶやいたからといって訪ねてきます。求の目的ははっきりしていませんが、お金や医院の土地家屋のようにもみえます。求の母親は医院で働いていた女性です。

桐生医院はかなりはやっていたらしく大勢の女性たちが前室で診察を待っているシーンがフラッシュバックされています。よくわからないシーンが2、3度挿入されます。すりガラスの向こうで女性のうめき声がしており、なんとなく白衣の男性が女性に覆いかぶさっているようにもみえるシーンです。薫の母親の影がちらちらと感じられるシーンもあるのですが、これもよくわかりません。

という設定で話は進みます。とにかく断片的なシーンしかありませんので、おそらく物語を語るというよりも漠然としたイメージを映像化(視覚化)することが目的だったんじゃないかと思います。

で、起きるコトはと言えば、

  • 少女が医院にやってくる(実在ではないかも)
  • 薫は自分のライフマスクをとり、アンドロイドを完成させる
  • 延命治療を望んでいなかった父親に薫が延命治療をさせる
  • 求が医院にやってきてアンドロイドを発見し、首を切り落とす
  • 争いとなり、薫が求の首を絞め殺し、冷蔵庫に入れる
  • 父親が死亡したとの知らせを受け、薫は病院に駆けつける
  • 薫は興奮状態になり父親にのしかかり首を絞める
  • 求が息を吹き返し、薫を殺す
  • 警察の規制線が張られた医院に少女がやってきて、アンドロイドを抱擁する

こういうことです。

主題は父親への自己承認欲求か?

おそらく、薫は父親に自分が実在することを確認してほしかったというのが映画の主題でしょう。

それがなぜアンドロイドをつくることになるかはわかりませんが、そのあたりは特に意味付けがなくても映画的欲求で解決がつくのが創造というものです。

雨も同じような意味だと思います。ほぼ全編雨を降らせています。雨の中をフード付きのコートで歩くシーン、雨が降りしきる中自転車のライトをつけてトンネルを出てくるシーン、廃墟にも見える古めかしい木造の産科医院のシーン、暖炉のあるレトロな洋館の室内のシーン、オープニングに使われているサスペンスタッチで薫がエレベーターから歩いてくるシーン、それらもみな特に意味はなく映画的欲求で生まれた画だと思います。

結果としては「これを撮らなければ自分は先に進めない」の「これ」が何かはわかりませんでしたが、きっと次回作でそれを見せてくれるということなのでしょう。

半世界

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  • 稲垣吾郎
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