パスト ライブス/再会

韓国、アメリカ、アイデンティティのゆらぎ…

これもよくタイトルを目にした映画です。公開時に見なかったのはアメリカ映画のラブストーリーはつまらないからなんですが(ゴメン…)、見てみましたら結構面白かったです。

パスト ライブス/再会 / 監督:セリーヌ・ソン

韓国人はノーベル賞をとれない…

ただ、面白かったのはほぼ終盤のノラとアーサーのベッドの中での会話シーンとヘソンを加えた3人のバーでの会話シーンだけです。

その点では会話シーンのシナリオはよくできているということになります。それ以外のシーンは物語自体もそうですが、それ以上に画がカラオケの背景映像みたいなシーンばかりでさすがにDVDでは持たないです。

物語はこんなにシンプルでいいのかと思うくらいシンプルです。

場所はソウル、12歳のノラとヘソンは幼馴染でお互いに意識し合う初恋の相手ということです。ノラは両親とともにカナダへ移住します。父親は映画監督、母親は画家です。

学校でノラが友達からどうして移住するのと聞かれて「韓国人はノーベル賞をとれないから」って答えていました。脚本も書いているセリーヌ・ソン監督にはどういう思いがある台詞なんでしょう。監督も12歳のときにカナダへ移住しているらしく、もちろん両親の意思だとは思いますがなんだか興味深い台詞ですね。

書くまでもありませんが、昨年のノーベル文学賞は韓国人のハン・ガンさんです。

ノーベル文学賞は作品ではなく人への賞ですのでこの小説が対象というわけではありませんが、国際ブッカー賞(翻訳作品…)を受賞している小説ですので主要な作品として評価されていると思います。

いつだったかしばらく前に日本でも大きく紹介されていた時に読みましたが、女性への抑圧構造が3篇にわたって書かれている連作小説で、私はおもしろく(興味深く…)読みました。女性が心を病んでいく内容ですので人によってはかなりきつい小説です。

韓国、アメリカ、アイデンティティのゆらぎ…

映画冒頭はノラ(グレタ・リー)とヘソン(ユ・テオ)とアーサー(ジョン・マガロ)がバーで話をする現在のシーンです。カウンターに3人が並んでおり、そこにカウンターのこちら側の男女が3人の関係をああだこうだと詮索する会話が入ります。アメリカ人(とは限らないけど Who
do
you
think
they
are
to
each other? と英語ではある…)もそんなことするのかなあとは思いますが、あえてこんなシーンから入っているわけですからセリーン・ソン監督もこの3人の関係に焦点を当てているということになります。

結局この映画はノラとヘソンのラブストーリーを軸に描いてはいますが、テーマとしては韓国とアメリカ(カナダも含め…)の間で揺れるノラのアイデンティティの映画だと思います。とすれば、セリーヌ・ソン監督のセルフ・ポートレートなのかも知れません。

続いて映画は、24年前とスーパーが入りノラとヘソン12歳のパートが簡単にあり、わずか10分くらいで同じく12年前と入り二人は24歳になっています。ヘソンは韓国で兵役に就いており、ノラはニューヨークに出て劇作家として活躍しています(目指している?…)。ノラがフェイスブックでヘソンを検索しますとヘソンが自分を探していることがわかります。このあたりはかなり説明的に進みます。

24歳のパートはビデオチャットで進みます。当然会いたいのに会えないわけですから恋しさが募ります。仕事が手につかなくなったノラはしばらくチャットを休みたいと言い、24歳の二人のパートは終わります。

ノラがアーサーと出会います。ノラが田舎へ行くシーンがあり、壁にノラ・ムン1212年と書いていたのがどういうことなのかよくわからなかったんですが、劇作家や作家の会議なのか研修のようなものだったようです。

そして12年後、36歳です。ノラとアーサーは結婚しています。ノラは劇作家として、アーサーは作家として成功しています。ヘソンがニューヨークに来ることになります。

ここまで映画半分くらいです。

イニョンにこだわり過ぎか…

ニューヨークでの再会シーン、向かい合った二人、そしてノラはヘソンを強くハグします。やや戸惑い気味のヘソンです。韓国もハグ文化だといいますのでここは二人の意識の差でしょう。ヘソンはずっとノラという人物に恋をしていますが、ノラは12歳のヘソン、というよりも12歳まで過ごし自分の中にある韓国というアイデンティティと向き合っているだけでヘソンという人物に恋をしているわけではありません。

で、しばらくはかなり退屈な二人のデートシーンが続きます。

そして夜になり、別れた後の二人の対比が面白いです。ヘソンはホテルの部屋でひとりです。ノラは家に帰り、アーサーに「あなたの言った通りだった。彼は私に会いに来た」と言います。そしてノラはアーサーにヘソンの話をします。「韓国人らしい韓国人だった。」とメイクを落としながら「コリアン」という単語を10回くらい連発して喋ります。つまり、ノラはヘソンにヘソン本人というよりも韓国(人)という漠然とした概念を感じており「彼といると自分が韓国人じゃなく思える」と言います。

そんなノラにアーサーが「彼に惹かれたのか」と尋ねますと、ノラは「そんなことはない」と否定します。ノラははっきりと「私はソウルが恋しかった」と言っています。

それでもアーサーは心穏やかじゃないですわね(笑)。ジョン・マガロさん、うまいですね。

そしてベッドでの会話になります。アーサーが僕には勝ち目がない、君たちは運命の出会いだ、僕の出会いは退屈そのものだ、出会ってともに独り身だったからすぐに寝て、家賃の節約のために一緒に住んで、そして結婚し、君はグリーンカードを手にしたと自虐的に語ります。もちろん冗談半分、本音半分です。

ノラは「ここが私のいるべき場所」と答え「愛している」と言います。

長くなりますのでもうひとつだけ。アーサーがノラに君の寝言は韓国語だけ、ときどき怖くなる、君の中に僕の行けない場所があると言います。

そしてヘソンが韓国へ帰る日です。再び退屈な(ごめん…)二人のデートシーンがあり、ノラの家でヘソンとアーサーが対面し、そしてバーでの3人のシーンになります。

しばらくはカタコトの英語で話したり、ノラがアーサーに通訳していたのですが、やがてヘソンが韓国語で、君の夫がいい人でつらいと言い出し、12年前の話を持ち出し、あの時ニューヨークに来ていたら付き合っていたのかなあとか結婚していたかなあなどと泣き言を言います。

ノラは、あなたは12歳のノラに恋している、私は24年前あなたの心のなかにその子を置いてきたと言います。

で、最後は「イニョン」の話になってちょっとつまりません(ゴメン…)。

別れのシーンでもヘソンはノラのことを韓国名のナヨンと呼び、またもイニョンを持ち出し、僕達の今が前世だとしたら来世はどうなっていると思う?なんて言っています。ノラはもちろん、わからないと答えます。

まあ「イニョン」を持ち出し過ぎだとは思いますが、でもとにかく3人のシーンはうまいですし、台詞もいいです。

セリーヌ・ソン監督、これがデビュー作ですが、IMDbには脚本監督の「Materialists」という作品がポストプロダクションになっています。

もう少し物語として面白いといいんですけどね。