音楽映画だと思ったら、ギャング映画だった…
ファティ・アキン監督は「クロッシング・ザ・ブリッジ 〜サウンド・オブ・イスタンブール〜」という音楽映画を撮っていますし、趣味は DJ Superdjango としてクラブに出演することという話もあり、音楽映画だろうと思って見に行きましたら…
ラインの黄金…
ギャング映画でした(笑)。
ドイツの音楽界で Xatar として知られるラッパー&音楽プロデューサーのジワ・ハジャビという人物の半生を描いた映画です。音楽シーンは最後の10分くらいしかなく、ほとんどギャングシーンの映画です。
タイトルの「RHEINGOLD ラインゴールド」はワーグナーのオペラ「ラインの黄金」から取られており、この映画がなければ、おそらく検索1位はそのオペラのウィキペディアでしょう。
映画のラストシーンがまさしくそれで、ライン川の川底に眠る黄金を3人の人魚が護っていました。オペラの物語はそこから始まり、その黄金をニーベルング族のアルベリヒという男が盗んで指輪にして力を得るという話です。「ニーベルングの指環」という15時間にもおよぶ4部作オペラの第1部です。
映画の物語はオペラとは全く関係ありません(笑)。ギャングたちが金を盗むという話で、その金をどこに隠したんだ? というオチに、ライン川の川底の金を3人の娘たちが護っているというくだりが使われているだけです。それにその金も火葬場の係員が死者の金歯を盗んで集めたものという設定です。貨物自動車の荷台がいっぱいになってしましたが、さすがにあんなには集まらないでしょう(笑)。
という、コメディの味わいもある映画ですので、実在の人物の半生を描いているといっても相当フィクションが入っているんだと思います。冒頭に実話にヒントを得た物語といったスーパーが入っていました。
イラン革命からの亡命…
カターことジワ・ハジャビ(エミリオ・サクラヤ)ら3人がシリアで拘束されるところから始まります。後にドイツに送還されますので一応シリアの正規軍ということでしょう。指揮官のような人物がジワに金をどこに隠した?と尋問しますがジワは何のことだとしらばっくれています。ジワが、俺が持っている金はこれだけだと奥歯を見せますといきなり押さえつけられてペンチでその金歯を抜かれます。
いきなりヤバっ! って感じですが、痛いシーンはここだけです。後にはボコボコにされたり、ボコボコにしたりするシーンもありますが、その頃には映画のトーンもわかってきますので笑って(でもないけど…)見ていられます。
映画は140分となっていますので、ここから約2時間はジワが生まれる前の両親の話から冒頭のシリアでの拘束、そしてドイツへ送還されるまでのかなり慌ただしい人生を見せられたことになります。中東とヨーロッパを行ったり来たり、かなり頻繁に移動します。
という結構動きのある映画なんですが、ちょっと中だるみしています。もう少しテンポを上げて、と言うよりももっと音楽シーンを多くして見せればよかったのに思います。
ジワの両親はイラン(テヘランと出ていたか?…)で暮らすクルド人(正確にはわからない…)です。両親ともに西洋音楽を学んだ音楽家です。父親が、多分西洋音楽とペルシャ音楽を融合させた自作の曲だと思いますが、オーケストラを指揮するシーンがあります。母親はオーケストラの一員(ヴァイオリンだったか…)で、お腹にジワがいます。演奏中に当然男たちが乱入してきて銃を乱射します。1978年のイラン革命です。
その場を逃れた両親は革命に抵抗するレジスタンス(パフラヴィー王朝側…)として戦います。戦闘の最中、母親はジワを生み落とします。まさしく言葉通りで、ひとりで洞窟に入り、立ったままいきんで生み落とし、へその緒を石で叩き切っていました。
母親は一貫して強い人物として描かれています。父親はこと音楽にはうるさいのですがそれ以外では軟弱者です(笑)。家族はつてを頼ってパリ、そしてドイツに渡ります。父親はそれなりに音楽家として活動できるようになるとこれまた楽団の女性と浮気をして去っていきます。
ギャングからラッパーに…
ジワ・ハジャビは10歳くらいから3人の俳優によって演じられます。
ジワの少年期、パリからドイツのボンに移ります。中東からの移民が多く暮らす地域と思われます。後に妻となるシリンとの出会いがあり、父親が浮気をして去り、母親が一家を支えジワと妹を育てることになります。
ジワは音楽教育を受けているようなことが語られますが、シーンとしてはほとんどありません。いわゆるやんちゃな子どものシーンが続きます。アダルトビデオをダビングして売りさばいたり、そのうちドラッグ(大麻かな?…)を扱うようになり、対立するグループ(かな…)からボコボコにされます。
仕返しを誓ったジワはボクシングジムに行き、そこにいたマッチョ男からケンカボクシングを習います。まともなボクシングではありません(笑)。そしてボコボコにされた相手をひとりひとり狙い、順番に仕返しをしていきます。
ここらあたりから青年期の俳優に変わっていました。かなりもたついていますので何があったかあまり記憶に残っていません。一度服役していたように思いますが、なぜだったかも記憶にありません。
出所後からは3人目の俳優エミリオ・サクラヤさんになります。初めて見る俳優さんですが、かなりの役作りでとてもよかったです。
出所してからは移民マフィアのような裏の顔役のおっちゃんに買われて裏の道に入ります。しかし、それに失敗し、その借りを返すために金を盗むという流れになります。金はきっちり処分してマフィアに借りを返したのですが、犯罪がばれてシリアに逃げて拘束されてドイツに送還されて冒頭のシーンに繋がります。
そして、最後、印象としては残り20分くらいです。刑務所に入り、以前から知り合いの打ち込みミュージシャンと連絡を取り合いながら曲をつくり、Xatar として世に出ることになります。
映画からは Xatar がどの程度のミュージシャンかは伝わってきません。ドイツでは名の知れたラッパーかもしれませんが、まったく知らない者には、ああ、そうなので終わってしまいます。
ラストシーンは、すでに出所し、ラッパー&音楽プロデューサーとしての地位も確立し、シリンとも結婚しています。10歳くらいの娘を学校まで迎えに行きます。娘は不機嫌です。どうしたのだ? と尋ねますと、友達からお前のパパは犯罪者だと言われたと言い、そうなの? と聞いてきます。
ジワはやや戸惑いながらも、パパの最初の記憶は刑務所の中だったと語ります。
この「愛より強く」の DVD を入れておきますと、多分 AdSense でアダルト認定されると思います。