春画先生

塩田明彦監督、才能と知識の無駄使い…

塩田明彦監督は「麻希のいる世界」を見て、内容はともかくとしてうまいなあと思い、DVDで「害虫」を見てみたところ、結局、少女が大人の男たちの性的視線に晒され続ける映画かと残念に思ったという経緯の監督です。

さて、「春画先生」…。

春画先生 / 監督:塩田明彦

展開はほぼ AV ストーリー…

まあDVDですので集中してみているわけではありませんが、それでも10分くらいは期待を抱かせます。

春画先生(内野聖陽)が弓子(北香那)の前に春画を出し「性器ばかりに気を取られないで。他にも多くのことが描かれている」と言って文鎮をその部分に置きますと、弓子が「見えてきました」と言って描かれている女の心の内を想像するあたりでは、ふーん、そういうものなのねと、てっきりその後も春画について描かれていくのかと思いましたら、春画は導入に利用されているだけで物語の展開はほぼ AV ストーリーでした。

いわゆる女が性に目覚めていくのを男が覗き見るというパターンです。そんな AV があるかどうかは知りませんが何となくありそうだという程度の話です。

ああ、でも弓子は最初から目覚めていましたね。そもそも春画先生がカフェのテーブルに広げた春画を見たときも拒否する顔ではありませんでしたし、翌日には誘われて春画先生宅を訪ねているわけですし、その日の夜も持って返った春画を見てきゃっきゃっと興奮していました。何かが起きそうだという期待ですかね。

まあ、性の目覚めパターンじゃないにしても性のマンスプレイニングパターンであることには違いはありません。

ところで、上に書いた「性器ばかりに…」のシーンの後、春画先生は応挙の「雪松図屏風」を出してきて、この雪の白は地の紙の白なんだ、歌麿の春画「歌まくら 料亭の二階」もそれと同じだ、すごいじゃないかと畳み掛けていくわけで、その時はなるほどなんて思いましたが、考えてみれば、歌麿の方は版画ですから当たり前ですよね(笑)。

カメラを通して北香那を覗き見たかった塩田監督…

という、出だしはちょっと期待したけれども後半になりますともう映画ですらなくなるという映画(ゴメン…)なんですが、後々すっかり忘れて、どんな映画だったっけと再び見ることもないようにざっとストーリーを書いておこうと思います。

弓子(北香那)がどういう人生を歩んできているのかはわかりません(若干説明あり…)が、冒頭に「私の人生にこの先、面白いことなど何ひとつ起こらないだろうと…」と入って始まりますのでそれなりに人生経験もあるのでしょう。

そしてすでに上に書いた出会いがあり、弓子は春画先生の週2の家政婦になります。

ある日、家政婦仕事の弓子が鰹節を削るアップの画などというあざといカットが入った後、春画先生は弓子に亡き妻イトのドレスを着せてパーティーに連れ出します。弓子はそこで下世話な客に対して突如大きな声で怒るわけですが、その帰りの車の中で春画先生は「君の顔、美しかった。あんな素敵な顔、誰にでも見せてやる必要はない」と口説くのです。で、その夜、とはならずに、庭のホタルのシーンでは春画先生にイトが帰ってきたと言わせ、今だ亡き妻に心を奪われている様子を見せています。

弓子は春画先生に心を奪われ、そして体の関係(肉体関係)を待ち望むということになります。そしてさらに春画先生の心を奪っているイトに嫉妬します。

ということで、ここまで約1/3です。後半はひどいと書きましたが、ということは残り2/3がひどいということですね(ゴメン…)。

出版社の編集者(柄本佑)が登場します。編集者は弓子の気持ちにつけ込み、春画先生とイトの過去の伝説「7日間のお籠り」の話をし、弓子の気持ちを煽って体の関係を持ちます。

映画の流れ的にはここらでセックスシーンをということなんでしょう。

ただ、これは春画先生が弓子のよがり声を聞きたいと編集者を使ってその声をスマホで中継させたということでした。この後はこの AV パターンがエスカレートしていきます。あいにくそうした行為を表現する言葉を持ち合わせていませんので興味があれば実際にご覧ください。

才能と知識の無駄使いをする塩田監督…

イトは双子らしく、イチハ(安達祐実)が登場します。春画先生がイチハと行方をくらまします。

弓子は狂います。そんなとき、春画先生から連絡が入り、ラブホテル(なんで?…)へ行ってみれば、なんと!春画先生はある春画を手に入れるために弓子にその所有者と寝てくれと頼むのです。

どう考えても AV ストーリーですね。

弓子はやりますと答え、代わりに私にも伝説の「7日間のお籠り」を経験させてほしいと頼むのです。

もう書くのも面倒になってきましたが、実はその相手というのはイチハであり、SM もどきのシーンなどがあり、声を上げる弓子、ベッドの下では春画先生がその声を聞いています。弓子は気づきます。春画先生が M でもあるということに。

そして弓子と春画先生の SM シーンとなり、ふたりは結ばれます。ここに弓子のナレーションが入るのですが恥ずかしく書けません(笑)。

そのふたりを見ていたイチハが「イトとそっくり」と言い、そして、和泉式部が詠んだ和歌をつぶやきます。

物思へば沢の蛍も我が身よりあくがれ出づるたまかとぞ見る

その後、伝説の「7日間のお籠り」を体験して満ち足りた弓子でした。

セキレイ…

鶺鴒(せきれい)というのは具体的に何を指すのかはよくわかりませんが、ウィキペディアの「セキレイ」のページを開き「日本書紀」でページ内検索してください。また「四十八手 (アダルト用語)」のページで「せきれい」もよろしいかと。

映画の中の弓子の妄想で鎧を着た春画先生が体を震わせながらセックスをしていたのは鶺鴒の羽根の動きを模していたということでしょう。

それにどこかで鳥が飛んでいましたね。ありました。弓子が初めて春画先生の家を訪ねるシーンです。

まあ、コメディと言えばコメディ、しかし、見方を変えればそこに逃げているということでしょう。

塩田明彦監督の才能からいけば、もう少しセンスよく撮れるんじゃないのとは思います。