ミキ・デザキ監督のビデオ論文のような映画
こうした映画にネタバレというものがあるとは思いませんが、以下、この映画の結論について書いていますので、気になる方はご注意ください。
これは映画というよりもビデオ論文みたいなものです。だからダメという意味ではなく、ミキ・デザキ監督の論文を読んだ(映像作品で見た)という感覚の映画ということです。
で、映画の構成ですが、まず、ミキ・デザキ監督自身がこの従軍慰安婦問題を調べようとしたきっかけを説明する簡単な序論があり、続いて本論に入り、従軍慰安婦強制連行否定派の主張からいくつかの論点整理をし、強制連行否定、慰安婦の人数否定、性奴隷否定などにわけて、杉田水脈氏、ケント・ギルバート氏、櫻井よしこ氏などの主張をインタビュー映像で見せ、それに対して、その主張を否定する吉見義明氏、戸塚悦朗氏、林博史氏などのインタビュー映像をぶつけて論破し、結論として、それら否定派のバックには日本会議がいて、その中心人物が加瀬英明氏であるとまとめています。
これらの論点に対する否定派の主張はある程度知っていますので、驚くこともありませんが、ただ、あまりにもレベルの低い主張もあり、というか多く、結構作為的に選んでいるのかなあと思って見ていたのですが、どうやら秦郁彦氏には取材を申し込んだものの断られたようです。もしそうなら、それも映画の中で明かせばよかったのにとは思います。
それに、イラストを使っての否定派の背景に誰がいるかの件や加瀬英明氏のインタビューの挿入の仕方はかなり作為的ではあります。仮にそれが事実だとしても「検証と分析」をうたうのであれば、映画の中に論証がなさすぎます。
その点では YouTube的な映像に感じます。論点を効果音とともにスーパーでバーンと出したり、太鼓の音で煽ったりしているのもそうです。
そうしたことが効果的かどうかは微妙じゃないでしょうか。私は引いちゃいますけどね。
論文という意味では、慰安婦問題に関しての主張はその通りだと思いますが、この映像作品で提示されている論争はすでに行き着くところまでいっている感があり、新しい資料や証言を提示するか、新しい視点で切り込まないと単なるカウンターで終わってしまうのではないかと思います。ただ、サンフランシスコ市での慰安婦像設置についての公聴会(でいいのかな?)の映像がかなり使われていたのは新鮮でしたし、初めてみましたので、未編集の全編を見られるのなら見てみたいとは思います。
ということで、結局、ミキ・デザキ監督の狙いは結論にあるのかも知れません。つまり、こうした従軍慰安婦否定論が力を増してきたのは、2006年の安倍政権誕生以降であり、たとえば2006年(2007年?)に安倍首相が狭義の強制はなかったと国会答弁し矮小化してしまったことや河野談話を否定する動きがあり、ついには教科書から慰安婦記述が消えてしまっている、そしてそのバックには歴史修正主義の団体である日本会議がいる、こういうことなんだと思います。
ただ、論文としてみれば、結論については論証不足ですし、日本会議を得体の知れない黒幕化してしまわないかと心配にはなります。