TATAMI

スポーツにおけるイラン当局の理不尽さを描いているが映画としては単調で一本調子…

タイトルが TATAMI ですし、メインヴィジュアルを見ても柔道の話だとわかります。柔道では IPPON とか WAZAARI とか MATE など競技用語が日本語ですので TATAMI もそのひとつなんでしょうか(未確認…)。

TATAMI / 監督:ガイ・ナッティヴ&ザーラ・アミール

実話ベースとあるので調べてみた…

映画.comに「実話をベースにした社会派ドラマ」とありましたのでググってみましたらこれですね。

上の記事をまとめますと、2019年に東京で行われた世界柔道選手権でイランのサイード・モラエイ選手がイスラエルの選手と対戦する可能性があることからイラン柔道連盟の会長やイランのオリンピック委員会から準決勝を棄権するよう指示されたと国際柔道連盟に申告したということです。

国際柔道連盟は調査の上イラン柔道連盟に無期限の資格停止処分を科し、それに対しイラン柔道連盟はスポーツ仲裁裁判所に異議を申し立て、スポーツ仲裁裁判所はイランが重大な違反を犯していることは認めながら無期限の資格停止には根拠がないとして差し戻し、国際柔道連盟はあらためて4年間の資格停止処分としたそうです。

なお、その世界柔道選手権ではサイード・モラエイ選手はイラン当局からの脅しに抵抗して試合に出場したものの準決勝で敗れてイスラエルの選手と対戦することはありませんでした。その後、サイード・モラエイ選手はドイツで難民認定を受け、2019年12月にモンゴル国籍を取得して2021年の東京オリンピックに出場し銀メダルを獲得したとのことです。

映像の力は強いのでよく見極めながら見なくっちゃ…

で、映画ですが、上にまとめた経緯のうち試合会場であったと思われることが描かれています。ただ、映画ですので当然ながら台詞もシーンも創作ですし、家族まで拘束したとか、選手の夫も亡命したといったことはおそらく創作だと思われます(未確認…)。映像の力は強いですので、そのあたりのことを見極めながら見なくちゃいけない映画だと思います。

監督はイスラエル出身のガイ・ナッティヴさんとイラン出身の俳優でもあるザーラ・アミールさんです。ザーラ・アミールさんは2022年のカンヌ国際映画祭に出品されたアリ・アッバシ監督の「聖地には蜘蛛が巣を張る」で最優秀女優賞を受賞しています。

主演のザーラ・アミール・エブラヒミさんもテヘラン生まれなんですが、2008年にパリに移住して、現在はフランス国籍のようです。ウィキペディアを読みますと移住の理由は投獄の危険があったからとあります。アミール・エブラヒムさんはイランではかなり有名な俳優さんだったのですが、プライベートな映像が流出するというスキャンダルに巻き込まれて、婚外交渉の罪で起訴され、99回の鞭打ちと懲役刑の可能性があったという記事があります。
聖地には蜘蛛が巣を張る

ですのでこの映画はイラン映画というわけではありません。また、映画では女性選手となっています。

世界柔道選手権の会場はジョージアのトビリシです。レイラ・ホセイニ(アリエンヌ・マンディ)は順調に勝ち進んでいます。テヘランでは夫や友人たちが集まりテレビを見て応援しています。

イランチームの監督マルヤム・ガンバリをこの映画の共同監督であるザーラ・アミールさん自身が演じています。そのマルヤムにイラン柔道連盟の会長から電話が入り、レイラに棄権させるよう指示があります。マルヤムは抵抗しますが聞き入れられるはずもなく、またレイラに棄権するよう言えるはずもなくひとりでどうするべきか抱えるしかありません。

そしているうちにもレイラは勝ち進んできます。マルヤムは会場にやって来たイラン大使館の職員から脅され、家族に危害が及ぶかもしれないとなり、やむなくレイラに棄権するよう伝えます。レイラは拒否します。そしてすぐに状況を理解し、電話で夫に家を離れるように伝えます。

夫が家の外を見ますとすでにイラン当局のものと思われる車が止まっています。夫は子ども(幼児…)を連れてテヘランから国境を越えようとします。また、レイラの両親が拘束され、当局の指示でレイラに棄権するよう電話をしてきます。

レイラはさらに勝ち進み、次の準決勝に勝てばイスラエルの選手と対戦する可能性が大きくなってきます。逃亡中の夫は電話で最後までやり抜けと後押しします。レイラは準決勝に出場する決心します。

その準決勝、レイラが押されています。それまで板挟み状態でセコンドにつくこともできなかったマルヤムが試合会場に入りレイラに応援の指示を出します。しかし、レイラは敗れます。事実と同じようにイスラエルの選手と対戦することはありませんでした。

そして、レイラとマルヤムは世界柔道連盟のサポートを受けて亡命します。レイラの夫と子どもも国外へ脱出しています。

単調で一本調子…

映画はモノクロのスタンダードサイズで撮られています。窮屈な感じで生々しさもなくよかったのかも知れません。

ただ、映画全体としては物語が単調で一本調子ですし、数試合ある柔道の対戦映像もその展開やカット割りなど手法が同じ繰り返しで映画的には物足りません。

また、イランの政治体制を批判的に描くことが前面に出過ぎていますので映画的にはマイナスだと思います。

それにしてもイラン当局はイスラエルの選手との対戦に何を恐れているんでしょう。スポーツにおいてもイスラエルを認めていないということなのか、あるいは対戦して仮に負けることがあった場合を考えているのかもしれません(想像です…)。