メイデン

喪失と孤独が甘き青春の夢を見る…

「グラハム・フォイ監督の長編デビュー作『メイデン』は、彼自身が育ったカナダ西部のアルバータ州カルガリーで撮影を行ったメランコリックな青春映画」と、日本の公式サイトにあります。16ミリフィルムで撮られています。

メイデン / 監督:グラハム・フォイ

神秘さと退屈さの境界線上…

神秘さと退屈さの境界線上にあるような映画です。言い方を変えれば、頑張って集中しようとしなければ置いてけぼりを食うかも知れません。

引いた画の長回しが多いですし、台詞もほとんどありませんし、物語らしい物語もありません。スケボーや人物が走る姿を並走して撮ったシーンがとても多いですし、それぞれが長いです。その長さに見合うだけのもの、見る者がそこに意味を見いだせるなにかがその前のシーンにあればそこから何某かの思いが生まれ、あれこれ想像したり考えたりすることもできますが、それがなければ単に移動しているだけのシーンに見えてしまうということです。

前半を喪失感だけで引っ張り過ぎているということです。もう少しカイルとコルトンの関係を描いておけばよかったのにと思いますけどね。

15、6歳の設定でしょうか、カイル(ジャクソン・スルイター)とコルトン(マルセル・T・ヒメネス)は日々行動をともにする親友のようです。コルトンがカイルの後ろをついていくという感じです。町中でスケボーを走らせたり、カイルは草むらの斜面を難なく下りますがコルトンにはできないとか、建設現場(廃墟じゃないよね…)に捨てられたラジカセをいじったり、死んだ猫を弔ったり、鉄橋の橋脚に「The MAIDEN」と落書きしたりしてつるんでいます。

夜です。線路上の二人、カイルが線路上を暗闇の中に消えていきます。貨物列車がやってきます。シーンはありませんがカイルが亡くなります。

これ以降、映画2/3くらいまでコルトンの喪失感が描かれます。すでに書きましたように、残念ながら見る者がこの喪失感に共感できるだけのものが用意されていないということです。

後半はスピリチュアルなシーンへ…

映画の残り1/3は全く次元が異なります。

しばらく前の夜、カイルが亡くなった辺りを彷徨うコルトン、暗闇をたくさんのライトがうごめいています。ホイットニー、ホイットニーと声がしています。

後日、コルトンは鉄橋下の河原でノートを見つけます。それはホイットニーの日記のようです。コルトンはその日記を読むことでホイットニーの孤独を追体験し、そしてさらにホイットニーが死後の世界でカイルと出会うことを妄想し、カイルとともにある自分、またカイルに追いついた自分を感じます。

コルトンの追体験です。ホイットニー(ヘイリー・ネス)とジューンは友達です。ジューンは社交的な性格で人の輪の中にいることが好きです。ホイットニーは全く逆の性格で、ジューンの後ろについていくことでかろうじて友達関係が保たれている感じです。

ジューンが同級生の男たちの輪の中で楽しんでいます。ホイットニーは耐えられないと帰ってしまいます。男友達と3人でドライブに行きます。ホイットニーはこれまた耐えられなく降ろしてと降りてしまいます。そして、ジューンからこれからは別々に行きましょとメールがきます。

その後はシーンとしては描かれませんが、ホイットニーは失踪し自殺したのでしょう。ここまでがコルトンがホイットニーの日記を読んで追体験したシーンと思われます。

河原の草むらでホイットニーがカイルと出会います。ホイットニーがカイルの後を追う何カットかがかなり長くあり、二人は極めて自然に話し始めます。ホイットニーにはまったく人見知り感がありません。むしろ積極的に話しかけています。

会話の内容に大した意味はなかったと思います。なにせかなり集中力を欠いていましたのであまりはっきりとは記憶していません(涙)。

そして、ラストシーンは建築現場のカルトンで終わっていたと思います。合理的な意味合いではありませんが、言うなればカルトンはホイットニーの日記を読み、その孤独に共感することで少しだけ気持ちが楽になり、あのカイルであれば人見知りのホイットニーもその殻を破ることができるだろうと二人の出会いを妄想し、ホイットニーに自己の代理行為をさせることでカイルと対等な自分を妄想します。

カルトンは黒猫を抱きながらそんなことを考えていたんだろうと思います。ホントか?(笑)

青春はいつもノスタルジー…

映画はカナダのカルガリーで撮られており、グラハム・フォイ監督自身が青春を過ごしたところだそうです。

グラハム・フォイ監督は1987年生まれの37、8歳くらいの方です。ということからすれば、結局のところ青春のノスタルジーかと思います。

この「The MAIDEN」が初の長編のようです。2022年のヴェネツィア国際映画祭 Giornate degli Autori (GdA) 未来映画賞を受賞しています。

Giornate degli Autori というのはカンヌ国際映画祭でいうところの監督週間のような位置付けらしいです。イタリア語で「作家たちの日々」と言った意味合いのようです。

この「The MAIDEN」が受賞した Cinema of the Future award(未来映画賞)というのは、GdA のメインの賞ではなく、five students of the CSC – National Film School 5名の国立映画学校の学生によって選ばれた賞のようです。

ぼんやりとした孤独というのは青春特有のものですのでその世代の人たちには感情移入できるのだと思います。