梟 フクロウ

昭顕ソヒョン世子謎の死に迫る…

初めてエンタメ系の韓国映画を見るような気がします。日本の公式サイトの「圧倒的、没入感」のコピーに引っかかってしまいました(笑)。

梟 フクロウ / 監督:アン・テジン

没入はちょっと無理ではないか…

まあ人によりますが、この映画で没入は無理じゃないかと思います。

おもしろくないというわけではありませんが、そんなことを目指した映画じゃないんじゃないでしょうか。謎という謎もありませんし、中盤で陰謀の構図はわかるようにできていますし、緊迫感というものもさほどのものではありません。

朝鮮王朝実録にある史実をエンタメ的に解釈してみましたっていう映画です。

朝鮮に戻った王の子は、ほどなくして病にかかり、命を落とした。
彼の全身は黒く変色し、目や耳、鼻や口など七つの穴から鮮血を流し、さながら薬物中毒死のようであった。

公式サイト

という記述が朝鮮王朝実録にあるそうです。

確かにウィキペディアにも、漢文ですがあります。その記事によりますと、この映画が描いているような、父親である仁祖による息子昭顕の毒殺説というものも実際にあるようです。

明清交替と李氏朝鮮…

時代背景を知って見ますとわかりやすい映画です。

1645年の話です。背景は中国との関係を巡っての朝鮮王朝内の権力闘争です。ただ、あくまでも背景であってそれを描くことが主眼ではなさそうです。

当時の朝鮮は中国の王朝から、あなたを王様と認めてあげるから貢物をしなさい(もっといろいろあるが…)という冊封体制に組み込まれており、中国の王朝が明から清に変わるタイミングで起きたことです。ちなみに日本もその冊封体制に組み込まれていた時期があります。

朝鮮の王仁祖は明派として描かれています。仁祖は8年ほど前、明にとってかわって中国の北部を支配下においた清との戦争丙子の乱に破れており、世子(次の王…)である昭顕を清に人質としてとられています。

清からはかなりえげつない隷属関係を強いられたようですので反清というのは事実でしょう。

8年後、その昭顕が朝鮮に帰国することになります。いろいろ理由はあるのでしょうが、長く清で暮らした昭顕は清派となっており、仁祖には邪魔者にみえ、暗殺を企てたという話です。くどいようですが事実がどうであったかは誰にもわかりません。

これがこの映画のプロットのベースではありますが、そのことを前面に打ち出しているわけではありません。それがこの映画を中途半端にしている理由でもありますが、前面に出しているのは、まずは昭顕毒殺は仁祖の企てであるとの前提のもとに、その暗殺の現場を盲目の鍼灸師(灸はないかも…)が目撃したという仮説(というほどでもない…)で描こうとしたということです。

タイトルの「梟」とは…

盲目の鍼師ギョンス(リュ・ジュンヨル)はその腕を買われて宮廷の医師となります。宮廷には医局として多くの漢方の医師がいます。治療は鍼と漢方薬の処方です。

前半は状況説明に費やされておりかなりかったるいです。

王である仁祖が病に冒されていること、その息子であり世子である昭顕(33歳です…)が清から戻ってくること、仁祖が清を恨んでいること、臣下の中にも清派、明派がいるようであること(はっきりはしていない…)、そして昭顕が戻ります。

このあたりまでは、今なにがあったか思い出そうとしても思い出せないくらいかったるい流れです。

昭顕は喘息(ということだと思う…)の治療の受ける過程でギョンスに信頼感を持ちます。そして、ギョンスが実は夜だけ少し見ることができるを知ります。現実にそうした症状があるかどうかはわかりませんが、光に弱い視覚障害ということだと思います。

これがタイトルになっている「올빼미(梟)」、英題では The Night Owl(夜の梟)ということで、つまりは、夜には比較的自由に動き回れるギョンスを表しているわけです。実際、映画は夜のシーンがほとんどで、ギョンスは宮廷内を結構すばやく動き回っていました。

深夜、危篤状態の昭顕の治療のために医局長とギョンスが呼ばれます。医局長が鍼治療を装って昭顕に毒鍼を刺します。ギョンスはその現場を目撃します。ふたりの退出後、ギョンスは昭顕を助けようと忍び込んだ際、医局長が落としていった毒殺鍼を見つけます。医局長が鍼が足りないことに気づき戻ってきます。ギョンスは逃げますが、その際、足に怪我をします。

ということで、昭顕は毒殺され、医局長の何者かが逃げていき足に怪我をしているとの証言により犯人探しが始まり、このあたりから少し面白くなります。

ただ、あまりはっきりとは記憶していません(笑)。

ギョンスが昭顕の妻に真実を訴え、その妻が仁祖に訴えるも、実は仁祖が暗殺の首謀者であり、仁祖が医局長に命じて暗殺したことが判明し、妻は捕らわれます。その後、ことの次第を高官(私兵を持っているから親衛隊のトップのようなものかな…)に訴え、そのためには仁祖が医局長に命じた密書(左手で書かれている…)が仁祖の筆跡であることを証明する必要があり、ここが唯一緊迫感があるところかと思いますが、ギョンスが鍼を使って仁祖の右手を麻痺させて左手で公文書を書かせます。

これで解決、とはならず、頼りの高官が仁祖側に寝返ってしまい…、あれ、ギョンスはどうやって逃れたんでしたっけ? 忘れました。

とにかく、4年後、ギョンスが仁祖を鍼で殺害します。ギョンスはそれなりの地位についていたように見えましたので医局に残って出世したという設定なのかも知れません。

意図がわからない…

もし、この映画をサスペンスにしたいのであれば、ギョンスが夜には少しだけ見えるということを最後までとっておくのが一般的だと思います。でも、この映画はそれをしていません。ですのでサスペンスにしようとの意図はないのかも知れません。

ギョンスの足の怪我も生かされていませんし、盲目であることや夜に少しだけ見えるという、そのこともギョンスの行動にうまく使われていません。せっかく苦労して手に入れた筆跡証明の公文書も無駄にしていますし、高官の寝返りも描き方があまりにも直接的です。そう言えば、ギョンスの弟の話も置き去りにされています。サスペンスにするのであれば材料はいくらでもあります。

じゃあ、なにをやろうとしたのでしょう? それがなんだかわからない映画ということです。歴史の新解釈? それもないですね。寝返った高官のことも放ったらかしですし、確かに仁祖は4年後の1649年に亡くなっていますがギョンスによる殺害はやりすぎでしょう。

ということで狙いのはっきりしない映画ではあります。日本で言えば、吉良上野介が身代わりだったみたいなネタの映画かも知れません(ゴメン…)。

それにしても、過剰な宣伝コピーはやめてほしいものだと思います(笑)。