スイート・イースト 不思議の国のリリアン

こういう映画が生まれるのもアメリカ映画の強み…

これは面白い! けれども難しい。それにこの面白さは心には残らない(ゴメン…)。

スイート・イースト 不思議の国のリリアン / 監督:ショーン・プライス・ウィリアムズ

不思議な国、あるいは鏡の国のアリスのもじり…

サウスカロライナ州の高校3年生リリアン(タリア・ライダー)がワシントンD.C.へ修学旅行(というものかどうかも?…)へ行き、皆でクラブへ繰り出したところ、銃撃事件に遭遇し、たまたま出会ったパンクな男の導きでクラブのトイレの鏡の裏にあったトンネルを抜けて、その後様々奇妙な世界を体験するという物語です。

邦題には親切に「不思議の国のリリアン」のサブタイトルがついていますので、この映画が「不思議の国のアリス」や「鏡の国のアリス」をもじっていることはおおよそ想像はつきます。

しかし、その後のリリアンの旅のそれぞれが何を意味しているのかが難しいんです。

漠然とは現在のアメリカの歪みみたいな奇妙な人物や集団を描いていることはわかるのですが、具体的に何をパロっているのかは、よほどアメリカ社会に精通しているか、実際にアメリカで暮らしていないとわからないのではないかと思います。

これは解説が必要…

で、ググっていましたら、町山智浩さんがショーン・プライス・ウィリアムズ監督にインタビューしている動画がありました。

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しばらくは字幕を出して見ていたのですが、さすがに内容も内容なだけに理解には覚束なく、さらにググってみたところ、そのインタビュー記事の一部が記事になっていました。

町山智浩さんの note です。

記事は途中まででその後は「『映画秘宝』をお読みください!」となっています。note では動画のおおよそ34分くらいまでがまとめられています。

アメリカ東海岸 Sweet East の旅…

といったあれこれを読んでみた結果、まずリリアンがワシントンD.C.のクラブで遭遇する銃撃事件は「ピザゲート」のもじりであり、トイレにいたことで難を逃れたリリアンは白ウサギたるパンク男ケイレブ(アール・ケイブ)に導かれて鏡の裏の秘密のトンネルから脱出します。

ケイレブがリリアンを連れて行った先は、「ANTIFA」もどきの反体制派集団で、ただ、これは町山氏が持ち出していますのでショーン・プライス・ウィリアムズ監督は乗っただけかもしれません。

その集団と別れたリリアンはネオナチの白人至上主義者たちと出会い、しばらく中年の教授ローレンス(サイモン・レックス)と過ごすことになります。ここでは二人で D・W・グリフィスの短編映画「エドガー・アラン・ポー」(らしい…)を見たりするも、リリアンはつまらないと言い、所在なくベッドルームへ行き下着姿になりローレンスの気を引こうとします。でもローレンスは何もしません。

まあ率直なところ、それぞれ登場人物の行動に現実的な意味があるわけではなく、また一貫した筋の通った物語がある映画ではありませんので、何を見せたかったのかはわかりません。

リリアンは、スキンヘッドの男たちがローレンスに預けていったバッグが気になるものですから、ローレンスに頼みごとをしてその隙にバッグを開けてみればそこには大金が入っています。リリアンはそれを持って逃げます。

書くもの面倒になってきましたが(笑)ここまで来たからということ続けますと、リリアンは映画監督のモーリー(アヨ・エデビリ)とプロデューサーのマッシュ(ジェレミー・O・ハリス)と出会い、主演に抜擢され、共演者の有名俳優イアン(ジェイコブ・エロルディ)と知り合い、二人で親しげにしているところをパパラッチされて居所を知られることとなり、撮影現場をネオナチたちに襲われます。

イアンなど出演者はみな殺されますが、撮影クルーのモハマド(リッシュ・シャー)に助けられ、モハマドの兄をリーダーとするイスラム・コミュニティに連れて行かれます。モハマドは兄に知られるとまずいと言い、リリアンを小屋に監禁します。このコミュニティの男たち、リリアンが窓から覗き見るその姿はやや奇妙で、リリアンはゲイコミュニティなんて言っていましたが多分イスラム過激派をパロっているのでしょう。

監禁されてどうなるのかなと思いましたが、特にどうということなく隙をみて逃げ、その後はちょっと記憶が曖昧ですが、倒れているところを聖職者に助けられたりしながら、目を覚ましますとそこはサウスカロライナの家です。

なぜか同級生は妊娠しており、家でテレビを見ていますと、フットボールスタジアムで爆弾テロ事件が発生したことが報じられています。

脚本:ニック・ピンカートン…

という、マジで見ればわけのわからない映画であり、ショーン・プライス・ウィリアムズ監督のこだわりを知ってみれば面白く見られる映画だと思います。

いずれにしても、出てくる人物や集団はみな反体制的な存在であり、ショーン・プライス・ウィリアムズ監督がそうした存在をどう見ているかははっきりしませんが、やや斜めに見つつもなにか感じるものがあるんだろうと思います。

それに脚本を書いているニック・ピンカートンさん、映画評論家なんですよね。この映画の様々なこだわりはきっとニック・ピンカートンさんのものでもあるのでしょう。どんな評論を書いているんだろうとググってみましたら、濱口竜介監督の「寝ても覚めても(Asako Ⅰ&Ⅱ)」と「ハッピーアワー」のレビューを書いているものがありました。

無茶苦茶ていねいに見ていますね。

最後に俳優のことを。リリアンを演じているタリア・ライダーさん、「17歳の瞳に映る世界」でスカイラーを演じていた俳優さんでした。

冒頭にこれは面白い! と書きましたが、今となっては面白かったのかどうなのか…?(笑)。