夏の終わりに願うこと

少女の物語というよりも家族は小宇宙という話…

邦題やチラシなどのビジュアルから少女の感傷的な話の方に引っ張られそうになりますが、それは映画の一面であって全体としてはちょっと違うかもしれません。なにせ原題は「Tótem」ですし、本家のビジュアルも随分印象が違います。

夏の終わりに願うこと / 監督:リラ・アビレス

Tótem 小宇宙を感じさせる…

本家のはこれです。

映画全体としては、個人の話というよりも家族、あるいはもっと広い意味での人間のつながり、同族的なつながりを意識させます。さらに言えば、動物、植物を意識的に取り入れていることを考えれば、また、人が死にゆく時間(に立ち会う人々…)を描いているということを考え合わせれば、この映画には小宇宙があると言えるのではないかと思います。

物語としても7歳の少女ソル(ナイマ・センティエス)を追っているわけではなく、病床にあるソルの父親トマの誕生日、それもおそらく最後になるであろう誕生パーティーに集まる家族、そして友人たちの、そのことを知っているがゆえの複雑な興奮状態を描いています。

ソルについて言えば、最初は父親と会えることを楽しみにしているわけですが、叔母たちや介護士(のような人…)の振る舞い、そして実際に父親と会えばその様子からなにがしか予感するものもあるわけで、カメラ目線のラストカットはその心情の表現なんだろうと思います。

リラ・アビレス監督のインタビューを読みますと、実際に自分の娘が7歳のときに父親、つまりは監督の夫(未確認…)だと思いますが、亡くなっているようです。ということであれば、ラストカットには、さらにソルに父親という存在の喪失を乗り越えて強く生きていってほしいという監督のメッセージが込められているのかも知れません。

息苦しささえ感じさせる映像の意味…

息苦しく感じられるほどに、常にカメラが被写体に接近しています。それがソルを演じている8歳(らしい…)のナイマ・センティエスさん(ちゃん…)に対しても同じです。よくカメラ目線にならないなあと思います。もちろんそうなれば NG ということになり、かなり演出されているということなんでしょうが、それにしても自然に感じられます。

率直なところ、こうした映像は見ていて疲れますので好みではありませんが、何らかの意図があってやっているわけですから、何をやろうとしているんだろうと興味は湧きます。

細部の積み重ねで全体を描くということかなあと思います。実際、最後まで場所にしても人間関係にしても全体を見せてくれないのですが、それでもこの空間、この時間は小宇宙だなあと思う(のは私だけかも…)わけですから、もしそうした意図であれば成功しているということだと思います。

それと親密さの演出ということもあるのかも知れません。冒頭のシーンはどこかのレストルームでのソルと母親の相当に親密なシーンです。母娘のこれ以上ないという親密さが伝わってきます。

それ以降もほぼ同じように狭い空間での濃密な人間関係が描写されていきます。

家族構成などまったく説明はありませんが、なんとなくわかったところでは、ソルの祖父は精神分析医らしく自宅で患者を受け入れています。喉頭ガンで喉頭摘出手術をしたからなのか電動式人工喉頭を使っています。なにゆえこうした設定にしているのかわかりませんが、こういうところがうまいですしセンスがあります。

ソルの父親の姉妹は姉二人、ソルに金魚のプレゼントをくれた男が兄弟であるかどうかは把握できていません。きっとわかるようにはなっていたのでしょうが、とにかく常に狭い空間を撮り続けていますし、会話自体に全体的な意味での連続性がありませんのでとても分かりづらいです。ただ、そのことが映画全体の理解を妨げるものではありません。

ソルの母親はその祖父の家に到着早々、劇場に用があるといってラスト近くの父との対面まで登場しません。どういうことなんだろうと思って見ていましたが、今から思いますととてもうまいですね。ソルの母親と父親の親族がどういう関係にあるのかわかりませんが、ソルにしてみればそう頻繁に会うこともないのでしょうから、ひとり残されれれば相当に疎外感を感じると思います。おそらくそういう演出でしょう。それに、母親を残しておけば早い段階で父親と対面させなくてはいけませんし、ソルと叔母や介護士とのやり取りがなくなってしまいます。

なかなかうまく出来たシナリオです。

中南米の映画のおすすめ映画

というメキシコのアイデンティティが感じられる映画かと思います。

家族、自然、生命、死、魔術…。

メキシコに限らず中南米の映画にはいい映画(私にとっての…)が多いです。少しオススメしておきます。まだまだあるんですが、思い出しきれません。

この映画と同じように緑豊かな空間で描かれています。また、生と死の同居のような描き方もよく似ています。ただし、ラストは驚きます。

グアテマラの映画です。この映画も最後にびっくりします。

メキシコの映画です。マジックリアリズムか…。

ミシェル・フランコ監督

メキシコ出身の監督ですが、とにかくこの監督はすごい!