逆です。作り話っぽい話は作り話っぽくやらないと現実感は生まれませんよ…
「山女」のタイトルや映画.comの概要を読む限りではさすがに興味は持てませんでしたが、割といい印象が残っている「アイヌモシリ」のタイトルが目に飛び込んできましたので見てみました。
ファンタジーで描くべきじゃないの…
さすがにこれは見ていてつらいですね。
18世紀後半の東北の極貧の村の話をやっているのですが、むちゃくちゃリアルにやろうとしています。でも、この方法ではやればやるほど嘘っぽくなります。
物語のほとんどが現実感のないエピソード的作り話だからです。これでは俳優たちがどんなに熱演したとしても300年前のリアリティは生まれません。脇役を含めて個々の人物に生活感がまるでありません。
現実感を出そうとするのなら、窮状を訴えるシーンばかりではなく、もっと個々の百姓の日常を描くべきですし、脇役の百姓をその他大勢的に集団で描かないことです。高圧的な庄屋のシーンも作り話的でうんざりします。僅かな米にたかるようなシーンや正面切って人を罵倒したりするシーンでは緊迫感は生まれません。
逆でしょう。凛(山田杏奈)と山男(森山未來)のシーンを膨らませてファンタジーで描くべきだったと思います。山や森のシーンを見ていますとその意志も感じられはしますが、いかんせん、編集の間合いも悪く、音楽もワンパターンでイメージがふくらみません。
結果としてどっちつかずの中途半端な映画になってしまいました。
『遠野物語』から都合よくトピックを取り出しても…
冷害のため凶作続きの村です。その上、凛(山田杏奈)の家は父親伊兵衛(永瀬正敏)の曾祖父が火をつけた(みたいなことを言っていた…)ことがあるために庄屋(村長っていっていた?)に田畑を取り上げられた水呑百姓です。
ですので、食うために村人たちが忌み嫌うことを引き受けて食い扶持の施しをうけているようです。冒頭のシーンは、ある家で子どもが生まれ、父親が生まれたばかりの子どもを絞め殺し、外で待ち受ける凛に処分を任せるシーンです。凛は川に流しに行きます。
こうしたことは実際にあったようです。
ある日、伊兵衛が米を盗んできます。庄屋以下村人たちが伊兵衛を捕まえに来ます。知らないと言いはる伊兵衛、しかし、米が見つかってしまいます。言い逃れができなくなった伊兵衛、その時凛が私が盗んだと言い出します。伊兵衛が凛をなんてやつだ!と殴りつけます。
その夜、凛は家を捨て山に入っていきます。そして、山男(森山未來)に出会います。山男は何も喋りません。凛は怖がる様子もなく、あなたは山男ねと言ってともに暮らし始めます。
一方、村では巫女が神に(山の神?)に生贄を捧げなくてはいけないと言い出し、庄屋たちは一計を案じて山に入った凛を探し出す手はずを整えます。
凛は山から引き戻され、火刑のように縛り付けられて燃やされそうになります。村人が火をつけたその時、一天にわかにかき曇り大粒の雨が降り出し火は消えてしまいます。
すくっと立ち上がる凛、村人たちは恐れおののいてひれ伏しています。そして、凛は山へ入っていきました。
『遠野物語』に着想を得ての映画ということですが、それらしさが感じられません。個々のトピックを取り出して都合よく組み合わせても物語は生まれません。
つじつま合わせの脇ネタが鬱陶しい
物語が作りものくさい理由は、もちろん本筋もそうなんですが、そのつじつまを合わせようとして脇ネタが鬱陶しいほどに入っていることです。
凛に思いを寄せる泰蔵(二ノ宮隆太郎)という男がいます。泰蔵も兄弟が多いか何かで田畑がもらえないのでしょう、行商に出ています。あんないい馬を持っていていいのかとは思いますが、とにかく、凛が山に入ったと聞き、庄屋たちに凛を探しに行かせてくれと頼みます。泰蔵は、たまたま出会ったマタギとともに山に入ります。
庄屋に頼まなくても探しに行けばいいのですが、なぜそうしたかは、庄屋たちが凛を生贄にしようと策略をねったと見せるためです。
さらにもうひとつ、上に庄屋たちと書きましたが、庄屋ともうひとり副庄屋のような男(でんでん)がいます。その男には孫(三浦透子)がいて、早い段階で泰蔵と無理やり一緒にさせています。誰を生贄にするかを話し合う場で、その男は俺の孫はもう生娘じゃないと言います。
シナリオ段階で問題ありという映画です。
もうひとつありました。たまたま出会ったマタギたち、あれは山男を撃ち殺すために登場させているということです。
見慣れた俳優を使いすぎ…
森山未來、三浦透子、山口崇、白石和子、でんでん、永瀬正敏、そりゃ、皆うまいですしそつなくこなすでしょう。
でも、こうした時代ものの内容をリアルに描こうとの意識があるのなら、見慣れた俳優は極力避けるべきです。
余計なことですが、その製作費で撮影期間を長くとってじっくり撮るべきかと思います。くどいようですが本当に余計なことでした(ペコリ)。