冒頭、ブエノスアイレスの街を静止画的にとらえたカットが何枚も切り替えられて始まるのですが、最初の数枚は、ン?日本?と勘違いするくらいの風景、風景といっても、そうですね、今私は10階にいるのですが、ここから見る街の建物風景とさほど変わらない感じです。
さらに街カットは続き、ビルのガラスに写る風景をアーティスチックにとらえたり、ビルの無機質さを強調しているのか、次第に建築物の造形的な切り取り方が強調されたカットになっていきます。そして、街は靴箱のような建物、日本で言えばマンションですが、壁で仕切られた狭い空間で構成されていると語られ、やがてそこに暮らす二人の男女へと視点は移っていきます。
男は、人混み恐怖症で引きこもり気味のウェブデザイナー、マーティン(ハビエル・ドロラス)、そして女は、建築家なのにウィンドウディスプレーをやっている閉所恐怖症のマリアナ(ピラール・ロペス・デ・アヤラ)、映画は、やがて二人は出会うのだろうと予感させつつ進みます。
ただ、この映画は、そうしたストーリーよりも、ひとつひとつのシーンやカットを楽しむようにできているように思います。二人のそれぞれの住まいは狭いながらもオシャレですし、マリアナがウィンドウの中でディスプレイするシーンも、よくある撮り方とはいえ美しい構図ですし、特に、二人が壁をぶち破って窓をつくり(そんなことしていいのか?)互いに窓から相手を認めるシーンはなかなかのものです。とにかく、グスタボ・タレット監督は、全てにスタイリッシュさを心がけているようです。
それもそのはず、グスタボ・タレット監督は顔に似合わず(失礼)、広告業界出身でカンヌ広告映画祭の最高賞ゴールド・ライオンを受賞しているそうです。
それにしても、ポストインターネット時代では、あらゆることのボーダレス化が進んでいるようで、地球の裏側のブエノスアイレスと言えども、何ら日本の感覚と変わるところがないのは、あらためて驚きであり、恐いことでもあります。まあ、多少引きこもりもラテン系ではあるのですが…。
そうそう、エンドロールにマーティンとマリアナがマーヴィン・ゲイ&タミー・テレルの「Ain’t no Mountain High Enough」に二人で当て振りする「Mariana y Martin」というYoutube映像が使われていたので、これは実際にあるんだろうと思い、検索してみましたら、やっぱりありました。