私が審査委員長なら、パルムドールでも、金熊でも、金獅子でも何でもあげちゃいますこれは「映画」です!
余計なことは語らない、余計な演技はしない。画が全てであり、画にとらえられた人が全てです。
そして、ラストカットのカタルシス。いや、この映画の場合、たしかにストンと心に落ちはしますが、カタルシスという言葉は当たらないかもしれません。なぜなら、二人の子どもたちにとっては、あまりに残酷な結末です。
両親が放牧する土地を求め、より奥地の草原に移住しているため、兄のバーテルは祖父のもとで暮らし、弟アディカーは学校の寮に住んでいる。兄は弟が母親の愛情を独り占めしていると思い込み、弟は兄ばかりが目をかけられていると感じ、互いに嫉妬し合っている。夏休みが来ても父が迎えに来なかったことから、アディカーは拗ねる兄バーテルを説得して父母を探すため、2人きりの旅に出る。広大な砂漠をラクダにまたがり、干上がってしまった河の跡を道しるべに、ひたすら荒野をたどって行く―。
痩せて枯れてしまった大地、見捨てられた廃村、そして崩壊した遺跡、回廊の変わりゆく風景は、光り輝いた土地が工業化のために消滅し、伝統が新しい社会へと変貌していく様をまざまざと見せつける。そして、いつしか2人の旅は、彼ら《ユグル族》としてのアイデンティティーの探求へと変わっていく…。(公式サイト)
バーテルとアディカー兄弟を演っているタン・ロンくんとグオ・ソンタオくんがとにかく画になります。
二人の兄弟が、自分たちと離れて放牧をしている両親の「家」へ旅する話ですから、映画は、八割がた荒涼たる台地と二人のシーンだけです。
兄バーテルは、弟が生まれると同時におじいさんに預けられて育ちましたので、両親から捨てられたとひがみ、弟を疎んでいます。弟もまた、父親が兄ばかりに優しいとひがんでいます。ですから、二人の会話はほとんどありません。
それでも全く飽きることはありません。
中国の奥地、河西回廊の圧倒的な風景、その中をラクダに跨がりとぼとぼと進む二人、自分たちの位置を確かめるために小高い丘に登り辺りを見回すアディカー、夜ラクダとともに眠る二人、けんかになり取っ組み合う二人などなど、まだまだいっぱいありますが、そうしたワンシーン、ワンカットすべてが絵になっているのです。
それにびっくりするのですが、この二人、アップの表情がむちゃくちゃいいのです。グオ・ソンタオくんの方は、リー・ルイジュン監督の前作「礼物」に出演しているようですが、兄役のタン・ロンくんは、監督が「実際にそこに住んでいる子どもたちに出演してもらった*1」と言っているその一人かどうかは分かりませんが、ユグルの子供とのことで、いずれにしても演技経験はないでしょう。
この映画の二人を見ていますと、なんだか生きることの原点みたいなものを感じます。旅の途中、水がなくなり、普通ならそれは生死を分けるようなことなのですが、不安になりながらも動じないその様とか、一人でも生き抜く力とか、広大な土地の中への収まり方とか、家族や兄弟の距離感とか…。話はいきなり飛びますが、やっぱり人間、原点は定住生活ではなく、遊牧生活ですよ(笑)。
で、ラストですね。
メッセージ的なことが書かれたりしているものもありますが、私はそれよりも「お父さん」ですかね…。まあ見てください。
もう一つ。公式サイトを見ていましたら、プロデューサーのファン・リーさんのことが書かれていまして、この方、ロウ・イエ監督の「天安門、恋人たち」やリー・ユー監督の「ブッダ・マウンテン」など何作かのプロデューサーなんですね。
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