スリーピング・ボイス〜沈黙の叫び〜/ベニート・サンブラノ監督

特別強い女性を画いているわけでもないのに、女性たちの生きざまは凛として気高く美しい

今月初めからシネマテークで「ラテン!ラテン!ラテン!」という企画ものをやっており、見たい映画が何本かあったのですが、あいにく体調が悪く、やっと最後の日に一本見ることが出来ました。

いやあ−、無茶苦茶いい映画でした。ただ、肩はこりますし、全編、涙が滲んで字幕が読めません(笑)。


スリーピング・ボイス〜沈黙の叫び〜予告編

スペイン内戦後のフランコ独裁政権下、敗れた人民戦線派の女性たち、多くは妻や家族であったというだけのようですが、協力者ということで逮捕され収監されています。

夫と共に活動し収監された妊娠中の姉、オルテンシア(インマ・クエスタ)を支えるため若いペピータ(マリア・レオン)は、姉の同志の母、セリアを頼ってマドリードに出てくる。
「マドリードでは、誰も信じてはならない」というセリアの紹介で共和国派シンパの元医師、フェルナンドの家でメイドの仕事を得る。フェルナンドの妻のアンパロは、共和国派に兄弟を殺害されていた。だが、ペピータが敬虔なカトリック信者であることを知り、雇い入れる。姉の件を内密にすることを条件に…(公式サイト

冒頭から、緊迫感に満ちています。

収監されたオルテンシアたちが不安な面持ちで身を寄せ合っているところへ看守とシスターがやってきます。その姿を見る前に「来るよ!」といった台詞で、何かのっぴきならぬことが起きることを予感させます。シスターはもちろん、看守も女性ですが、大柄で強面な俳優を使い、さらに図体を大きく見せるような制服を着ているわけですから、威圧感がさらに増します。看守が数人の名前を呼びます。名前を呼ばれた者の顔はこわばり、泣き崩れ、立ち上がることも出来ません。なぜなら、その者たちには銃殺刑が待っているからです。外に引き出された10人くらいの男女は、無造作に並ばされ、あっという間に銃殺されてしまいます。そして、その銃声をやや遠くに聞くオルテンシアたち。

その間、編集のリズムもよく、とてもスムーズに映画の世界へ導いてくれます。ただ、その後繰り広げられることは、見るのも辛いことばかりですが…。

姉妹役の俳優さんがとてもいいです。ふたりともよく泣いたりと感情を露わにしたりするのですが、弱々しさはなく、インマ・クエスタさん演じる姉オルテンシアは気高く、そして、アリア・レオンさん演じる妹ペピータは実に気丈です。マリア・レオンさんの太めの声がいい感じです。

で、見終わって思うことは、この映画、女性がいわゆる「女性」として画かれていないんです!

変な言い回しですが、どの女性にも男の影がないのです。もちろん、オルテンシアの夫も出てきますし、ペピータも逃亡中の人民戦線派の闘士と恋に落ちます。ラブシーンもあります。それも素敵なラブシーンです。でも、よくある、男あっての女を全く感じさせず、ひとりひとりの人間としての生き方が実によく伝わってきます。

映画全体としても男の影は薄く、といって特別強い女を描こうとしているわけでもなく、愛する夫の子を産み、愛する男の帰還を待ち望むごく普通の女たちなのですが、その姿は実に凛としており、とても美しく気高いのです。