安易に情緒的な親子ものに走らず、社会的矛盾を重層的に描いていて好感が持てます。
実際に起きた誘拐事件をもとに撮られた映画だそうです。
確かに、エンドロールのバックで、モデルとなった実在の人たちと思われるカットか何枚か入っていました。切り替えも早かったですし、字幕を読んだりしているうちに、誰が誰とも理解できず、あの中に誘拐犯の妻にあたる人はいたのでしょうか?
出演した俳優たちが、モデルとなった人たちと対面する様子でしたので、もしあの中に誘拐犯の妻がいたとしたら、現実は多少救いがあったということなのでしょう。
中国・深圳の街なかで、突然姿を消した3歳の息子ポンポン。両親は必死で息子を捜すが、その消息はつかめない。3年後、ついに両親は深圳から遠く離れた農村に暮らす息子を見つけ出す。だが、6歳になった彼は何一つ覚えておらず、 “最愛の母”との別れを嘆き悲しむのだった。そして、育ての親である誘拐犯の妻もまた、子を奪われた母として、我が子を捜しに深圳へと向かう。
映画は、全く救いがありません。
救いがない映画は結構趣味ですので、(安易な決着をつけるドラマはもう結構という意味なんですが、)これが「親子もの」でなければ、多分絶賛して、トップページの「当サイトおすすめ映画直近の4作品」に入れていたと思います。何のトラウマがあるわけでもないのに、なぜか「親子もの」はダメなんですね(笑)。
でも、これはいい映画でした。
泣かせようという意図もなく、展開もうまいですし、俳優もいいです。
展開という意味では、カメラが追う対象が大きくは2つ、まずは誘拐される子どもの両親ティエン(ホアン・ボー)とジュアン(ハオ・レイ)、そして後半は、誘拐した側の育ての母親リー(ヴィッキー・チャオ)へと移っていき、それぞれその中にもうひとつずつ、前半には、誘拐された親たちの被害者グループのリーダー、ハン(チャン・イー)、後半には、リーを助ける弁護士カオ(トン・ダーウェイ)を置いて、目先を変えることで一本調子を避け、またテーマを重層的に浮かび上がらせています。
テーマを単純化してしまえば、ティエンのパートが主として担う「一人っ子政策による社会的矛盾」、リーのパートが担う「親子愛の不条理」、ハンの存在によってあからさまになる「集団と個の不調和と妬みの問題」、そして、これも全体を通して各所に出てくるのですが、カオが弁護士であるゆえに言葉として明らかにされる「社会的格差の問題」、そのどれもが今の中国のリアルな問題だと思います。
いや、そうも言えなく日本の問題でもありますね。
さすがに子どもの誘拐については映画のようというわけではありませんが、アメリカの報告書によれば、日本は人身売買の送り先として常に問題視されています。格差、貧困、老後、都会と地方の問題も他人事ではありませんね。
話がそれてしまいましたが、この映画、そうした社会的矛盾から来るずっしり重い空気が全編を覆っています。
それを象徴するのが、エンディング。これは創作だと思いますが、映画的にはとてもうまいです。ネタバレしちゃいけない部類のことだと思いますので書きませんが、不条理そのものです。本当はこのまま終わって、エンドロールの映像などないほうが映画として締まったのではないかと思います。
いずれにしても、内容の重さの割には、結構見やすい映画で、フィルメックスで観客賞をとったというのも納得がいきます。
俳優で言えば、誘拐された父親を演っていたホアン・ボーさん、いい感じでした。母親は「天安門、恋人たち」「二重生活」のハオ・レイさん、誘拐犯の妻役のヴィッキー・チャオさんは「デスパレート 愛されてた記憶 」をDVDで見たような記憶があります。
ということで、親子ものでなければ(笑)「おすすめ映画」に入るいい映画でした。