恋に悩む男女におすすめ、大人になるために。
「恋人たちの失われた革命」以降ですのでごく最近のものしか見ていませんが、フィリップ・ガレル監督、一貫して男女の関係を撮っている印象です。
モノクロへの思いも強いのでしょうか、この「パリ、恋人たちの影」もそうですが、「恋人たちの失われた革命」「ジェラシー」「愛の残像」がそうでした。
それに、極めてシンプルに、余計なものは一切入れない、サイドストーリーなど問題外、メインの物語でもこれ以上ないというくらい絞り込んだ編集がなされているように思います。
監督:フィリップ・ガレル
夫・ピエールの才能を信じ、二人三脚でドキュメンタリー映画を制作する献身的な妻マノン。ピエールは、ある日、若い研修生のエリザベットと出会い、恋に落ちる。妻がいると知りつつもピエールと関係を続けるエリザベットは、立ち寄ったカフェでマノンが浮気相手と密会しているところを目撃。ピエールに告げるが――。愛されたいと彷徨う3人が行きつく先とは・・・。(公式サイト)
この映画も、物語はこれ以上ないというくらいシンプルです。
ピエール(スタニスラス・メラール)とマノン(クロティルド・クロー)の夫婦がいます。ピエールはエリザベット(レナ・ポーガム)と浮気をします。一方、マノンも浮気をしています。ピエールはマノンの浮気を知り、自分の浮気のことなど悪びれることなくマノンを責めます。ある日、マノンは、いつまでも責めるピエールにあなたも浮気をしているでしょうと告げ、結局二人は別れます。
一年後、再会した二人は互いに求めあっていることを確認しあいます。
笑ってしまいそうなるくらいシンプルですし、物語の骨格は昼メロとほとんど変わりません(笑)。
ところがこれが、フィリップ・ガレル監督にかかると見事に男女関係の核心をついた、そしてまたほとんど哲学的とも言える人間の本質に迫る物語になるのです。
ですので、この映画を言葉で説明しようとすればするほど陳腐になるだけです。
ただ、いくつか笑ってしまいそうになるくらい、そうだよなと思う(けれども肯定しているわけではありません(笑))ことを書いておきます。
ピエールは、自分が浮気しているにも関わらず、まさかマノンが自分と同じように浮気をしているとは露ほども考えていません。マノンの浮気を知った後も、自分のことは棚に上げて相手を責めます。
ピエールがマノンの浮気を知るのはエリザベットから知らされたからですが、マノンは、ピエールの浮気を「分かるの」と、実際に見たわけでもなく、誰かに知らされたからでもなく見抜きます。
やっぱり、どう書いてもだめですね(笑)。この映画の良さは見てもらうしかありません。
ただひとつ、オチとも言えるものが暗示に満ちています。
二人が撮っていた映画は第二次大戦時代のレジスタンスのドキュメンタリーなんですが、ラスト、その老レジスタンスが亡くなった葬式の場で二人は再会します。そこでマノンから語られるのが、老レジスタンスの話は嘘だった、レジスタンスなんかではなかったというものです。
さらにマノンが言います。
「偽物だったという映画にすればいいのよ」(こんな感じだったと思う)
終わってみれば(時間が経ってみれば)本物か偽物かが問題ではないということなのか、偽物でも意味があるということなのか、その偽レジスタンスが妻と思われる女性と仲睦まじく(みえた)暮らしていたことが妙に心に残る映画でした。
ところで、公式サイトの監督インタビューの「本作のテーマについて」が面白いです。一読をお勧めします。