白人男性を類型化して描いているのが印象的
差別と分断の時代、21世紀は後にこう呼ばれることになるかも知れません。日々のニュースには、排除、排斥、ヘイト、テロなどの言葉がやたら目立つようになっています。
考えてみれば、映画もそうしたテーマのものが多くなっているようにも思います。
もちろん描き方は様々で、さすがに差別を肯定するものは見かけませんが、差別の現実を描くもの、更に深く人間の内面に潜む差別意識に切り込むもの、あるいは過去の差別をあらためて捉えなおそうとするものなどいろいろですが、さて、アメリカの人種差別を描くこの映画、どんなもんでしょう?
監督: セオドア・メルフィ
1960年代初頭、アメリカが威信をかけて推進していたマーキュリー計画。黒人の女性数学者たちは人種差別に直面しさまざまな苦難に見舞われる。しかし卓越した知性、たゆまぬ努力、不屈のガッツで次々とハードルを突破。そんな驚くべき道のりを軽妙なユーモアにくるんだサクセスストーリーに誰もが魅了されずにいられない。
いやあ、むちゃくちゃ単純化された映画ですね。
アメリカ初の有人宇宙飛行成功の裏に知られざる3人の黒人女性数学者たちの力があったという実話をもとにした映画です。
全く知らない話でしたが、この映画の主役ともいえるキャサリン・G・ジョンソンさんは、2015年にオバマ大統領から自由勲章を授与されているとのことですので、アメリカではよく知られた人たちなのかも知れません。
実話をもとにしているとは言ってもハリウッド映画ですので、宇宙飛行に関する事実以外の人物像やエピソードはほとんど創作でしょう。
徹底的に人種差別社会を描き続けます。Whites only, Colored の表示がいたるところに出てきます。トイレ、飲食、そもそもの職場自体が差別的に分離されています。
ただ、なにせハリウッドですので、それを悲劇的に描くことはありません。NASAの実権を握る白人の男たちよりも、3人を含む黒人の女性たちの方が圧倒的に優秀に描かれます。
キャサリン(タラジ・P・ヘンソン)は、その天才的頭脳をもって、白人の男性が束になってもできない宇宙船の軌道計算をひとりで見事に成し遂げます。
管理職を目指すドロシー(オクタヴィア・スペンサー)は、NASAにコンピューターが導入されることを知り、いち早くプログラミングをマスターし、ついには白人たちが教えを乞うポジションにつきます。
エンジニアを目指すメアリー(ジャネール・モネイ)は、人種差別法のせいだと思いますが、白人しか入学できない学校に、白人の判事を説得して見事に入学します。
そうした過程が、アメリカ初の有人宇宙飛行成功の物語の中で描かれていきます。
まあ正直なところ、これでもかこれでもかと黒人差別を見せられるのは、結局のところ、最後には白人側が誤りに気づき黒人側を受け入れてちゃんちゃんと終わらせるための布石であることは分かっているわけですので、ここは我慢してみなくっちゃとは思っていたんですが、かなりうんざりでした。
それにしても、映画内のエピソードは作り物だとしても、こうした人達がいたということを知っただけでも意味があったかなという映画でした。
たったひとつ(笑)印象に残ったシーンがあります。
ラスト近く、ドロシーに対して差別的だった上司が「もともと偏見はなかったのよ」と徐々に変わり始めたことを見せるシーンで、ドロシーに「そう思い込んでいたことは分かっていました」と言わせていたのは、さすがに最近ではハリウッドもこの程度まではいくんだと思ったシーンでした(失礼…)。