ホテル・ルワンダの監督が史実をベースに架空の人物を据えてアルメニア人大虐殺を描く
アルメニア人大虐殺のことを知ったのはいつだったんでしょう?
2年くらい前に見たファティ・アキン監督の「消えた声が、その名を呼ぶ」の頃にはもう知っていましたので、それよりも前、いずれにして映画からでしょう。
150万人が犠牲になったとも言われるオスマン帝国によるアルメニア人大虐殺、差別的対応は継続的にあったようですが、ウィキペディアは「ヨーロッパ諸国では、特に第一次世界大戦に起きたものをオスマン帝国政府による計画的で組織的な虐殺と見る意見が大勢である。」としています。その事件を扱った映画です。
監督:テリー・ジョージ
おそらくこの映画の主題は、史実に基づいてリアルに描こうとすることよりも、こうした事実があったことを広く知らしめようということに置かれているのだと思われます。
実際、オスマン帝国の継承国であるトルコ共和国は組織的な虐殺は否定していますので歴史的資料が出てくることなど期待できませんし、ましてや被害者であるアルメニア側に記録を残す余裕などなかったでしょう。
後半に描かれているように、村ごと強制移住を迫られたり、銃をとってトルコ軍と戦った集団もあったり、またフランス海軍の軍艦に難民が殺到したといった断片的な事実(ウィキペディアから)は確認されているようですので、それらのエピソードからの発想で映画は作られていると思われます。
こういう本もあるようです。
映画では、そうしたアルメニア人迫害の事実に、(映画上の)架空の3人の人物を登場させ、3人の愛情を絡めた物語を軸にしてドラマチックに進めていきます。「ホテル・ルワンダ」のテリー・ジョージ監督ですので、そのあたりはとてもうまく作られています。
山間の小さな村で暮らすミカエル(オスカー・アイザック)は、医師になって村に診療所をつくりたいとコンスタンチノープルの大学に進みます。希望に燃えて勉学に励むミカエルですが、時代の空気は次第に不穏さを増し、アルメニア人への差別感情も表立ってきます。
そんな中でミカエルは運命的な出会いをします。コンスタンチノープルで世話になっている叔父の家の家庭教師アナ(シャルロット・ルボン)に一目惚れします。しかしアナにはアメリカ人ジャーナリスト、クリス(クリスチャン・ベイル)という恋人がします。また、ミカエル自身も故郷の有力者の娘と婚約することで大学進学の資金を得ています。
その後、ミカエルは迫害を逃れ命からがら生まれ故郷へ戻り母親の強い望みで許嫁と結婚します。アナは孤児たちへの支援をしつつ、ミカエルとクリスへの思いの間で揺れ動きます。クリスは、アルメニア人迫害の現状を目の当たりにして、ジャーナリストとして見過ごすことはできず身の危険を顧みず真実を伝えようと奔走します。
映画は、そうした3人の様々な苦難を描いていきます。
そしてラスト、村ごと追われたアルメニア人の集団がモーセ山に逃れトルコ軍と戦う中で再会を果たし、フランス軍の救助で危機を脱します。しかしその中でアナは帰らぬ人となり、ミカエルは失意の中アメリカに脱出します。
このように、映画の軸となっている3人の物語はドラマチックに作られてはいますが、それは見るものの集中を持続させる程度に抑えられており好感が持てます。
残念ながら、人間の歴史の中で「差別」というものは消えることのないものらしく、いざ憎悪がむき出しになる戦争が起きれば、その感情は一気に吹き出し、取り返しのつかない残虐性を持ってとんでもないことをしでかすようです。
第一次世界大戦時のアルメニア人大虐殺、第二次世界大戦時のナチスのホロコースト、そして日本軍による南京大虐殺をはじめとする多くの戦争犯罪、アメリカによる原爆投下もそうでしょう。
そして今、我々はどこにいるのか、あらためて考えなくていはいけない時代に入っています。
憎悪をかきたて、差別を増長させる言動が満ち溢れています。