シリーズ化必至か? 連載漫画的な今どきの物語。
ルームロンダリング。
そもそもそんな言葉はないのに、何となくその意味を知っているような気がしてきます。そんな仕事が存在するとは思えないのに、何となくあるかもしれないと思えてきます。
「企画」としては成功でしょう。
と、あえて括弧付きにしたのは、この映画が、「TSUTAYA CREATORS’PROGRAM(TCP)」という、映画の企画コンペから生まれたということを知ったからなんですが、それだけではなく、私自身も、タイトルとさわりの文章だけで興味を持ったからでもあります。
で、映画はどうだったかといいますと、企画倒れにはなっておらず、映画としてもそつなくうまくまとまっていました。
そつなくうまくをもう少し説明しますと、この映画、ルームロンダリングが物語のメインかと思いきや、そうではなく、ルームロンダリングそのものはサブ的なものとして、メインには、母娘物語を持ってきているのです。
映画って、母娘に限らず親子ものをやっておけば大きく失敗することはまずあり得ません。あとは、それにどうメリハリをつけるかだけですので、この映画ですと、ルームロンダリング、というよりも基本プロットは幽霊話なんですが、それがうまくはまっているということです。
もう少し突っ込んだ言い方をしますと、この映画の基本プロットは、幽霊と共存できる一族の物語です。
幽霊が見えるだけではなく、怖れることなく、親しく話すことも、意見することもできるという、超々特殊能力を持つ御子(池田エライザ)は、幼い頃に母親に捨てられたと思い込んでおり、引きこもりがちの性格です。高校生の時に、それまで育ててくれた祖母が亡くなり、突然やってきた母の弟悟郎(オダギリジョー)に面倒を見てもらうことになります。
悟郎は不動産業をやっており、以前からなのかどうかはわかりませんが、ワケあり物件に一度誰かを住まわせてそのワケを消す(消せるわけはないけど(笑))ルームロンダリングで稼いでおり、今はその役割を御子が担っています。
ひとつ目の物件は将来を悲観して自殺したパックロッカーのアパート。御子は気さくにパンクな幽霊と話します。パンクな幽霊は、デモテープ(カセット)を作ったものの自信がなく送っていないことが心残りです。いくら映画とはいえ自殺の動機としてはちょっとばかり弱いのですが、渋川清彦さんのうまさで持ちこたえています。
次が、ストーカー殺人の犠牲者、コスプレ女子のマンション。さすがにこちらは恨みつらみが爆発寸前で、こちらの物語が主要な軸となって物語は進んでいきます。
こちらの話には、事件当日、悲鳴を聞いたのに関わりたくないがために嘘をついた、隣の部屋の気弱で真面目なコンビニ店員の青年が関わってきます。ちなみに、この青年は幽霊ではありません(笑)。
で、あれやこれや話は進み、幽霊同士の相憐れむ同情感情やコンビニ青年と御子の恋愛に発展しそうな脇ネタがあり、生ある者、死する者、皆協力して、ストーカー殺人犯をやっつけることになります。
という幽霊たちの未練晴らしに御子が一役買うというのが、メインにみせたサブストーリーです。
で、メインストーリーはと言えば、御子の母はなぜ御子を捨てたのか、今生きているのか、そして悟郎は何者かということです。
これ、結構最初からうまく散りばめられており、悟郎の登場にしても、突然祖母の葬式に現れ、そのシーンではやや違和感が感じられるわけですが、これも実は、悟郎には見える、しかし御子にはまだ見えていない祖母の幽霊に話しかけているということがラストに明かされます。
また、中程では、悟郎と御子の母親のシーンがあり、それまで誰だこいつは?と思っていたのが(笑)、ああ弟なのかとわかり、悟郎がルームロンダリングだけではなく、偽造パスポートのやばい仕事で稼いでいるのも、実は御子を美大へ入学させる(御子は絵を書くことが好き)資金を稼いでいるのだと、いわゆる親子(家族)ものの常套ストーリーを入れています。
で、ラスト、悟郎は、御子を母親に会わせます。母親は、幽霊が見えることで精神を病み、施設に入るために御子を祖母に預けたということです。
そして現在、母も亡くなっています。
御子には幽霊も見えるわけですから母親も実在しているわけで、つじつまが合ううまいオチだと思います。ただ、こうした場面を特別盛り上げようとすることなく、あっさり進めているのは好感が持てます。今どきで、くどくなく、嫌味なく、いいと思います。
という映画なんですが、これ、(当たれば)シリーズ化必至の企画ですね。ルームロンダリングなんてのはいろんなケースが考えられますので、幽霊と共存できる御子一族を軸におけば、いくらでも物語を作ることができそうです。
御子一族にしてみれば、自殺や殺人など人が未練を残して死んでいったワケあり物件をクリーンにするというルームロンダリングは、まさに天職ともいえるわけです、ってか(笑)。
ああ、連載マンガ化でも受けそうです。
ということで、企画コンペの優秀作品らしい映画でした。
それにしても、オダギリジョーは、こういうキャラ、はまり役ですね。