EVA エヴァ

イザベル・ユペールはジャンヌ・モローを越えたか?

イザベル・ユペールはイザベル・ユペールしか演じない。

…の典型的な映画ですね。こういう物語性の強い映画でイザベル・ユペールに何を期待したのかよくわかりませんが、ただ、逆に「悪女イブ」的男目線の Eve 像を覆す可能性もあったのにとは思います。

公式サイト / 監督:ブノワ・ジャコー

とにかく、映画としての難点は最後まで何が軸なのかわからないことです。

どんなパワーを使ってかは別にして、基本は、エヴァ(イザベル・ユペール)がベルトラン(ギャスパー・ウリエル)を支配していく話だと思いますが、二人の関係が最後の最後まで見えてきません。

エヴァはそもそも相手に興味など抱かなくていいわけですから、ベルトランがエヴァに執着していく過程を見せなければ物語になりません。

ブノワ・ジャコー監督の映画は、「マリー・アントワネットに別れをつげて」しか見ていませんが、読み返してみますと、「つかみどころのない映画」などと同じようなことを書いています。それに、朗読係シドニーのマリー・アントワネットへの執着が見えないと、これまた、この映画と同じ感想を持ったようです。

多分、人間関係の機微を撮る監督ではないんですね。

まず、映画全体からしますと冒頭のシーンが意味深過ぎますね。あれ、ベルトランは介護士という設定なんでしょうか? それに、あの老人は有名作家という設定なんでしょうか?

映画全体から見ますと違和感の強い始め方です。

ベルトランは、老作家の介護のために来ているようです。老作家は英国出身で、今も一作書き上げたところだがもう自分の時代ではないといったようなことを話しながら、風呂へ入りたいと言います。ベルトランが介助し風呂へ入れますと、老作家は一緒に入ろうとお金を渡します。

これからしますと、これまでも同じようなことがあったと考えられますので、ベルトランは何らかの性的なサービスを求められ、それに応えていたと考えられます。

ベルトランが服を脱ぎかけたその時、老作家は発作を起こして死んでしまいます。ベルトランは、老作家が書き上げた作品(戯曲)を持って、その場を去ります。

その後ベルトランは、その戯曲を自分のものとして発表し、一躍脚光を浴びるという展開になっていくのですが、この冒頭のシーン、これからエヴァとベルトランの人間関係を描こうとする映画にしては、意味不明の濃厚さです。

この導入で行くのであれば、ベルトランを軸に物語を作っていくべきでしょう。

ただ、その意図はあったのかもしれず、その後のベルトランは、(演劇の)プロデューサーのような人物から、次作、次作とせかされ、当然書けるわけはないのですから、たまたま出会ったエヴァとのことを二作目の題材にしようとするわけです。

そうですよね、ここに焦点を絞るべきでしたね(余計なこと(笑))。

書けない、書けないと、(役柄としては苦悩はしないでしょうから)イライラとかしつつエヴァとの関係にはまっていき、(映画のように)MacBook にしょうもない会話を打ち込んだりするような中途半端な扱いではなく、エヴァとベルトランのシーンがあるとしたら、それをベルトランが思い出しながら繰り返したりすれば、ベルトランが脳内執着していくように描けますし、エヴァのミステリアスさも出せたのに思いますが、ホント余計なことですね(笑)。

でも、おそらくそういう映画にしようとしたんだと思います。ベルトランが、件のプロデューサーのような人物にエヴァを紹介し、彼が実際に会うシーンを入れていたのも、ちょっとばかり意味不明でしたが何か意図があったのでしょう。

とにかく結論を書いちゃいますと、この映画、ギャスパー・ウリエルのミスキャストか、ベルトランに対する監督の演出ミスのどちらかです(ペコリ)。

物語の結末としては、(まったくそうは見えなかったんですが、)ベルトランはエヴァに執着するがあまり、婚約者カロリーヌ(ジュリア・ロイ)を裏切り、あろうことかカロリーヌの別荘でエヴァと一緒にいるところを見られてしまいます。カロリーヌは、別荘を飛び出し車をぶっ飛ばして崖から転落し死んでしまいます。

その後、おそらく作家としての道も断たれたのでしょう、ラストのベルトランは髭がもじゃもじゃでした。そうは見えませんでしたが、落ちぶれたことの演出でしょうか。

で、一方のエヴァですが、あれ、なぜ娼婦をやっているんでしょう? 夫が刑務所に入っていましたし、豪邸に住んでいましたからお金が必要だったんですかね。

まあとにかく、イザベル・ユペールの娼婦は、たとえば IT企業の経営者が、次々と入るアポイントメントをてきぱきとこなしていく様にも見え、あら? ほとんど「エル ELLE」のミシェルやね(笑)と、思わず笑ってしまいました。

これが「イザベル・ユペールはイザベル・ユペールしか演じない。」という意味なんですが、これは何をやっても同じという意味ではなく、いやいや実はそういうことなんですが(笑)、映画を自分のものにしてしまう俳優ということです。

イザベル・ユペールは女王様なんですよ。といっても、この映画のような鞭はいりません。イザベル・ユペール自身が鞭みたいなもの、見えない鞭ですけどね。

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