愛にイナズマ

松岡茉優さんと窪田正孝さんのバーのシーンは必見!愛にイナズマが走ります。

先日「」を見たばかりの石井裕也監督ですが、こちらはオリジナル脚本のコメディらしく、きっとぴったりはまった面白い映画になるでしょう。それに、主演は松岡茉優さんと窪田正孝さん、どちらもうまい俳優さんですので間違いないと思われます。

愛にイナズマ / 監督:石井裕也

石井裕也監督らしい映画…

やはり、石井裕也監督はこういう軽快なタッチで物語を進めていくのはとてもうまいですね。おもしろかったです。「」では石井裕也監督らしくない映画と書きましたが、この映画はとてもいいです。気になるのは終盤を引っ張りすぎていることと前半の業界人の描写があざとすぎる(笑)ところでしょうか。

また、俳優たちが皆うまいですしピッタリはまっています。松岡茉優さんのうまさは今さらどうこう言うことはありませんし、今回の映画で言えば最初のバーのシーンで窪田正孝さん演じる男にどんどん心が惹かれていくときの表情なんて、そりゃ男の方だってキスしたくもなります(笑)。あれ、カメラ目線でしたよね、すごいですね。

窪田正孝さんはこういう気弱な感じだけれども動じない人物ってのはよくあいます。弱く見えるけれどもちょっと怖いみたいな感じでしょうか。

その他そうそうたる俳優陣です。佐藤浩市さん、池松壮亮さん、若葉竜也さん、濃いい家族です。仲野太賀さんは早々に自殺させられていました。MEGUMIさんと三浦貴大さんの業界人演技はあざとすぎます(笑)。もちろん演出がです。

前半は、映画業界のウラ話…?

折村花子(松岡茉優)は新人監督です。自分の家族の物語「消えた女」の企画が通ったらしく1500万円の製作予算がついています。シナリオ執筆のためなのかロケハンを兼ねてなのか街中のヒトやモノを撮りながら構想をねっています。

ビルの屋上から飛び降り自殺志願の人物に遭遇します。下には人が集まり、皆スマホを向けて飛び降りを待っているかのようです。ある男が、早く飛び降りろよ!オレは腹が減ってんだよ!と叫んでいます。

制作会社での企画会議です。花子は自殺騒ぎをシナリオに入れたようで、プロデューサーのMEGUMIさん(役名じゃなくてゴメン…)と助監督の三浦貴大さんにボロクソに言われています。直接言っていることは早く死ねみたいな不謹慎なことをいう人間はいないとかですが、要は自分たちのほうが映画のことをよく知っているんだから言うことを聞けとか、業界の常識を守れということで、助監督の決め台詞は常に君はまだ若いからです。

こういったシーンが数シーンあり、そのあざとさにはややうんざりなんですが、それだけ石井監督も苦労したということでしょう(涙…)。

病院でのロケハンのシーンでは、助監督に普通はロケハンでカメラなんて回さないって言われています。さすがに花子も私のやり方でやります!とキレます。

その実際の撮影シーン、助監督がカット!と声をかけています。花子は降ろされてしまいました。このあたりの展開の早さはこれが前置きであることをしてしています(笑)。

ところで、その撮影シーンの父親役の俳優の中野英雄さんは仲野太賀さんのお父さんですね。このシーンの出演だけでした。

愛はイナズマ、ではなく愛にイナズマ…

という前半の業界のウラ話的な話は前置きと言いますか、石井監督の憂さ晴らしみたいなものだと思いますが(笑)、その前置きの間に花子と正男(窪田正孝)の出会いがあります。

花子は赤色が好きだと言い、たまたま赤い自転車に乗る男が気になり、その後たまたまその男が路上での喧嘩に巻き込まれて殴られるところを目撃し、さらにたまたま寄ったバーでその男舘正男と出会います。

このシーンはおもしろいですしうまいです。会話が徐々に盛り上がっていくふたりの切り返し、花子が正男に恋をする瞬間のとらえ方、そして花子の気持ちがどんどん盛り上がっていく花子のアップ、松岡茉優さんあってのシーンではありますが、愛はイナズマのシーンでした。愛にイナズマでした(笑)。

ただ、その後は花子にイナズマのように愛が走るシーンはなく、むしろ正夫のほうがイナズマに打たれたように花子に恋をしていきます。

その正夫についてはあまり詳しくは語られませんが、親を知らないという設定にされており、これはこの映画の主題である家族物語への振りでもあるわけですが、豚の肉をさばく食肉工場で働いており、東京の真ん中で毎日豚が殺されていると、ちょっと訳のわからないことを言っていました。

これは自殺者を出すような鬱屈した都会というものを語りたかったんでしょうが、友人である仲野太賀さん(実名でゴメン…)をいくらなんでも契約が解除(花子の映画に出演予定の俳優だった…)されたからといって首を吊って自殺させるというのはやりすぎです。太賀さんをもっと絡ませればさらに面白くなったように思います。

ということで、前半の映画業界編は終わり、後半へと続きます。

後半は家族物語へ…

序盤から中盤にかけての展開は結構キレがよく、あれよあれよという間によくわからないながらも、花子と正夫が花子の実の家族を映画に撮るということで、父親折村治(佐藤浩市)、長男誠一(池松壮亮)、次男雄二(若葉竜也)、そして花子と正夫だけの物語になります。

当初の花子の映画タイトル「消えた女」というのは、花子が子どもの頃に母親がいなくなってしまったことからのタイトルであり、それが映画の軸となって進みます。

花子は自分の家族の物語の企画から降ろされ、しばらくは意気消沈していたようですが、正夫に発破をかけられ自力で映画を撮ることにし、父親のもとに帰り撮影を始めます。

そもそもこの家族は子どもたちの父親への反感が原因と思われる理由で長く交流がない状態です。父親治は傷害事件で服役したことがあるという過去を持っています。また、現在胃がんで余命一年という宣告を受けています。

花子の映画制作に巻き込まれた治は、訳がわからないと言いながらも長男誠一と次男雄二を呼び寄せます。誠一はアブナイ会社の社長秘書をやっており BMW で乗り付けます。雄二はカトリックの聖職者見習い(のような…)です。

という設定で、これ以後、基本コメディ、時に人情風をまじえながらの家族物語が進行します。楽しく見られますし、個々の俳優の見せ場のシーンが続きます。

その過程を楽しく見る映画ではありますが、細かく書くのも面倒(笑)ですし、正直あまり記憶していませんのでオチだけ書きますと、父親治の傷害事件というのは、実は友人の娘が男に弄ばれて自殺したためにその男に復讐したのであり、その後治はそれがために(よくわからないけど…)荒れるようになり、妻がそれを持て余し、また他の男を好きになり出ていったということです。

治は妻が出ていく時、せめて今の携帯はそのまま持っていってくれと言い、料金は治が払っていると言います。しきりに母親のことを言う花子に、治はこれまで一度も掛けたこともなく掛かってきたこともない妻の携帯に電話をしてみることにします。男が出ます。その男は、治の妻であった花子の母親はすでに亡くなり、治たち家族の思い出の海に散骨してくれと言っていたと言い、その通りにしたと答えます。

その日、家族は皆酔いつぶれ、4人支え合いながら抱き合うようにもつれながら布団の上に倒れ込んでいきます。このことを後に正男は皆でハグしていた、ハグとは存在を確かめあることだと言います。

そして、一年後、治は亡くなっています。花子たち3人は母親の遺灰を散骨したという海に治の遺灰を散骨するのです。

イナズマはいつ走る…?

石井裕也監督40歳、家族、家族というにはまだ早いようには思いますが、「茜色に焼かれる」や「生きちゃった」でも親子ものにその終着点を持ってきていましたので、その根底にはなにか家族というものへの思いがあるのかも知れません。

願わくば、本音がどうとか、人は皆演技しているとか、そんなことは皆わかっていることですので、あまり声高に叫ばずにドキッとするような映画を撮ってほしいものだと思います。さらに言えば、この理不尽な社会の中での愛にイナズマ路線を突き詰めてほしいと思います。親子ものに走らない「生きちゃった」路線ということです。

ちょっと意味のわからない締めになりました。