愛に乱暴

「原作に乱暴」過ぎないか…

吉田修一さんの『愛に乱暴』が映画化されることを知り、わざわざ原作を読み…、というわけでもなく、吉田修一さんの小説はほとんど読んでいるのにこの『愛に乱暴』を知りませんでしたので読んだということで、その結果、原作を読んで映画に臨んだ(笑)みたいなことになりました。

愛に乱暴 / 監督:森ガキ侑大

こんな話じゃないんだけどなあ…

予想通り、本質的なところでは原作の面影はまったくありませんでした(涙)。

原作者がどういう契約で映画化を承諾するかですのでどうこう言うことでもないとは思いますが、吉田修一さんは好きにやってタイプなんでしょう。

単に、夫に不倫された専業主婦の怒りと悲しみの話になっていました。

それにしても日本の脚本家や映画監督はひどいですね。原作の設定だけ借りて原作の持っている本質的なところを捨てちゃうんですから。いや、違いますね、これが原作の本質的なところだと受け取ったということなんでしょう。

まあ、映画にしろ、小説にしろ、そこから何を受け取るかは人それぞれですからどうこう言っても始まりません。

ちなみに原作はこういう話です。

ちょっとだけ、どうこう言っておこう…

でも、ちょっとだけ、どうこう言っておこうと思います(笑)。

桃子(江口のりこ)が床下から掘り出すものが過去に自分が埋めた子供服ってのはダメでしょ!

だって、自分が埋めたのならわざわざチェンソーなんて使う必要ないですし、チェンソーに執着して匂いななんて嗅ぐ必要ないでしょ。え、夫の浮気に怒り狂って何もかもぶっ壊そうとした?

確かに大黒柱をぶった切っていました(笑)。

原作の桃子は夫の浮気そのものにはさほど怒っていませんし、ほとんど夫に執着していませんよ。桃子が執着しているのは「家」ですよ、「家」。

映画では布団の中で桃子が夫に求めるシーンが2度あり、2度とも夫に拒絶されていましたが(こういうシーンをつくること自体がダサい…)、原作ではそんな場面はなく、逆に夫が桃子を求めてきて、その最中桃子は行為自体には上の空で、なぜか夫のおじいさんの愛人時江の亡霊にとりつかれるように妄想し、その後、6畳間の床下に執着していくのです。

この時江の話をカットしてしまったら、この原作を映画化する意味なんてありません。

桃子が自分を50年ほど前の時江、夫のおじいさんの愛人に重ね合わせていく過程がこの原作の肝なんです(個人の意見です(笑)…)。

原作を読んでいない方のために少し書いておきますと、桃子たちが暮らす離れは、夫のおじいさんが建てたもので、おじいさんの妻には子どもがいなく、だからかどうかはわかりませんが、愛人と間に出来た子どもを嫡男として「家」に入れ、その愛人時江を離れに住まわせていたんです。ですので、夫のお父さん(つまり、その子ども…)は、離れで暮らす時江が実の母と知りながら「離れのおばさん」と呼ばさせられて育ってきたんです。

このことに触れ始めますと長くなってしまいますので、興味があるようでしたら原作のレビューをお読みください。

とにかく、原作の肝は時江です。放火事件も時江が放火魔と疑われたという話と結びついているんです!

いかん、いかん、怒りで興奮してきてしまった(笑)。

日本の脚本家や映画監督はひどいなあ…

夫の母親が桃子に離れをあげるなんてこと言っていましたが、これはダメでしょ!

桃子の方から夫に

「私、ここから出ていく気ないから」
「私、この離れはもらうから。私と離婚したいんだったらすればいいじゃない。離婚して、その女と暮せばいいんじゃない。でも、私はここから出ていかない」

って、言うんです。桃子イコール時江なんです。これを変えちゃったらダメですね。

映画化にあたってこの原作から取り出したのは、桃子は自分がやったことのしっぺ返しを食らうということなんでしょうかね。桃子も夫に妻がいるときに付き合い始め、子どもが出来たことで結婚したという過去があり、ただ桃子はその子を流産しており、それを言い出せずに結婚したということです。

この映画の脚本家たちはそこに気持ちがいっちゃったんですね。トリックとして使われていますので気持ちはわからなくはありませんが、それだけですと話に奥行きがなくなります。もしそこに焦点を当てるのなら、それならそれでそこをもっとクローズアップして桃子の多様な悲しみを描くという方法もあったんじゃないかと思います。この映画の桃子の悲しみは一面的です。「ありがとう」で救われるという捉え方だけではね。

いずれにしても原作から変え過ぎです。こんなに変えるのならオリジナルで考えればいいのにと思います。脚本は監督以下3名の連名「森ガキ侑大、山﨑佐保子、鈴木史子」になっています。

森ガキ侑大監督って名前(というよりも字面…)になんとなく記憶があり、このサイト内を検索してみましたら1本見ていました。

ゴメン…、この映画も評価低いです。