みんなのヴァカンス

即興性とドラマ性のバランスの良さ

ギヨーム・ブラック監督の最新作、といっても2020年の映画「みんなのヴァカンス」です。あわせて特集上映ということで過去のほとんどの作品が上映されています。

遭難者 女っ気なし」「やさしい人」「7月の物語 勇者たちの休息

「7月の物語」とこの映画の間にもう一本「宝島」というドキュメンタリーがあるのですが、劇場公開はされずに今年の春にJAIHOで配信されていたようです。この機会に公開してくれればいいのにと思いますが、なにか契約でもあるんでしょうか。

みんなのヴァカンス / 監督:ギヨーム・ブラック

即興性とドラマ性

この映画は、ギヨーム・ブラック監督がフランス国立高等演劇学校(CNSAD)のディレクターから学生のために長編映画を撮ってほしいと依頼され、2019年の夏から秋にかけて撮られたものです。前々作の「7月の物語」も同じように CNSAD の学生たちとのコラボレーションとして撮られた映画でした。

ですので出演しているのは学生たちということになります。

学生たちが生き生きしていますし、それぞれ人物にとても現実感があります。皆演技を学んでいる人たちですので、課題が与えられればそこから広がっていくことも多いでしょうし、逆に新鮮な発想も生まれてくるのではないかと思います。そうした現場感覚と言いますか、映画を撮りながら映画が生まれていくといった力強さ感じられ、かつ映画として完成度の高さも感じられる映画です。

即興性(にもみえるということ…)とドラマ性のバランスがとれた映画です。

(男たちの)ヴァカンス映画

ある夏の夜、フェリックスはセーヌ川沿いのダンスイベントでアルマと出会い、盛り上がり、そのまま公園で朝を迎えます。目覚めたアルマは帰らなくっちゃ(行かなくっちゃだったか?)と急いで駅に向かいます。おそらく皆学生という設定だと思いますので、夏休みに実家に帰る(または家族とともに南仏にリゾートに出かける)ということでしょう。

フェリックスはアルマを追うべきかどうか迷っています。介護(アルバイトか?)をしている老人にその気持ちをぶつけ、自分の気持に踏ん切りをつけ、友人のシェリフを誘い、南仏のリゾート地に向かいます。シェリフはスーパーマーケットのアルバイトをしており、オーナーに父親が亡くなったと嘘を言い一週間の休みをもらいます。ただ、オーナーには本当に父親が亡くなったときには休みはないぞと言われていました(笑)。

こういう笑える場面がたくさんあります。その意味ではコメディです。リゾート地へ向かう道中(手段)もそうで、ふたりは女性のアカウントを使い、実家に帰るエドゥアールの車に同乗させてもらいます。つまり、エドゥアールもナンパ目的で相乗り希望者を募っていたということです。ふたりもそれをわかって女性名を使っているわけです。

どちらのケースもあまりにも危険ですので現実にはないように思いますが、どうなんでしょう、フランスならこういうこともあるんでしょうか。それにこの設定を冷静に見てみますと、フェリックスもシェリフもリゾートどころか夏休みもなく働かなくてはいけない環境にもみえます。ふたりは黒人です。現実を反映しているのかも知れません。

とにかく、エドゥアールは気のいいやつということでいやいやながらもふたりを同乗させ、途中車が故障したことで、結局エドゥアールも含め3人で目的地のリゾート地で数日間を過ごすということになります。

その後描かれるのは、その3人にアルマ、その姉、子連れの女性、そして現地で出会ったふたりの男たちを加えた若者たちの、ひと夏の青春的な恋(にもならない)の駆け引き、失恋、友情(みたいなもの)といったきわめてフランス的叙情性あふれたほろ苦くも切ない青春物語です。ただ、男たちのです。

物語の詳細に大きな意味があるわけではなく、俳優たちのリアルな間合いで笑いながら楽しむ映画ですので記録のためにざっと書いておきますと、まず、フェリックスにはそれなりに自信、つまりアルマも自分を好いていてくれるとの自信があったのですが、アルマはそうでもなかったようで、サプライズだというフェリックスを冷たくあしらったり、次の日にはごめんなさいと謝ったり、泳ぎにいけばそれなりに濃厚なキスをしたり、別のナンパ男に傾いたりを繰り返しながら、結局縁がなかったのだと失恋の結果となります。

シェリフは非モテ男を自認している設定で、単独行動が多く、子連れ(まだ乳幼児)の女性と、その赤ん坊へのアピールを介して親しくなり、結局ラストシーンでは一夜をともにすることになります。これは「女っ気なし」とほぼ同じパターンです。

この2つが映画の軸となってはいますが、特別それらを前面に出しているわけではなく、エドゥアールやアルマの姉やナンパ男にドイツ人(といっていたと思う)の哲学男らを含めた群像劇風のつくりになっています。

言葉では説明できない映画ですので見ないと面白さはわからないでしょう。

ナンパ映画

で、上にもちらっと書きましたが、この映画「みんなのヴァカンス」ではなく「男たちのヴァカンス」です。

良くも悪くも青春というのはそういう面(現在の価値観ではという意味)がありますので批判というわけではありませんが、男は女をナンパしようとし、女は男を見定めようとするという映画です。これが一対一であれば「女っ気なし」や「やさしい人」になりますが、集団になりますとこういう映画になるということです。

同じような制作過程の「7月の物語」では、男たちはこの映画とほぼ同じナンパ男系ですが、女たちはこの映画とはちょっと違って能動的に行動しますので、この映画のすべてがギヨーム・ブラック監督の意思ということではなく、学生たちの意向が強く入っている映画と思われます。ただ、ギヨーム・ブラック監督が描く男女関係は、この映画にも現れている、もてない男が女性に好かれるという男の願望パターンなのは間違いないです。

学生たちから得られたもの

そうしたギヨーム・ブラック監督の特徴的な傾向が現れた映画ではありますが、むしろこの映画が面白いのは、最初に書いた即興性とドラマ性のバランスの良さだと思います。きっと俳優である学生たちも楽しく演じられたんだろうと思います。また、ギヨーム・ブラック監督にしても俳優たちとの創造的なコミュニケーションで作り出された映画にかなりの満足感を感じているのではないかと思います。

ギヨーム・ブラック監督の次なる映画はさらにこの傾向が強くなるのかも知れません。