盤上の向日葵

火曜サスペンス劇場的昭和の2時間ドラマ…

孤狼の血」の柚月裕子さん原作の『盤上の向日葵』の映画化です。監督は熊澤尚人さんです。

私はこういうベタな昭和ものはダメです(ゴメン…)。その時代たくさんつくられていた2時間ドラマのような映画です。

盤上の向日葵 / 監督:熊澤尚人

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ネタバレあらすじ

火サス的ドラマパターン

映画冒頭に将棋の新人戦があり、無名のアマチュア棋士の上条圭介(坂口健太郎)がいきなり優勝します。

その数年後(くらいかと思う…)、山中で身元不明の白骨死体が発見されます。死因は腹部を刃物で刺されたことであり、胸には初代菊水月作の将棋の駒が両手で抱かれるように置かれています。その駒は7組しか現存していない希少なもので、金銭的価値は600万円と言われるものです。

時を同じくして、タイトル戦が行われようとしています。奨励会生え抜きの棋士対突如彗星の如く現れてプロになった圭介です。

これが映画上の現在で、刑事の石破(佐々木蔵之助)と佐野(高杉真宙)が事件の捜査に当たります。

死体は誰なのか、犯人は誰なのか、そして、なぜわざわざ足がつく可能性のある希少な駒が残されているのか、映画を見る側はおそらく犯人は圭介だろうと思いながらも何かがあるに違いないと刑事たちの捜査の進展を待つことになります。

こうした犯罪もののパターンのひとつであり、テレビドラマの犯罪ものではたくさんつくられてきたドラマです。火曜サスペンス劇場、いわゆる「火サス」的ドラマです。

疑問が生まれる、答が出る、疑問が生まれる、答がでるの繰り返しです。

それを時間軸にそって整理するとこういう話です。

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新聞配達の少年、圭介

まず現在です。死体の身元はすぐにわかります。東明重慶(渡辺謙)、賭け将棋で生きている男です。プロ棋士ではないものの無類の強さを誇ります。一方、菊水月作の駒の持ち主もわかります。信州だったか、ある地方の引退した教育者唐沢光一郎(小日向文世)です。また、その捜査の途中でもう一体身元不明の死体が別の地方で発見されます。

ということで、刑事の捜査による関係者の証言により圭介の過去が明らかになっていきます。

およそ20年ほど前のことです。すでに教師を引退している唐沢(小日向文世)は家の前に出しておいた将棋雑誌を新聞配達の子どもが持っていくのを目撃します。少年は上条圭介(子役)です。圭介の母親は精神を病んで自殺、父親は酒と賭け麻雀に溺れて身を持ち崩して圭介に食事を与えることもせず虐待もしています。それを知った唐沢は圭介を援助し、また将棋を教えます。

圭介に才能を見い出した唐沢は奨励会に入会させようと父親に掛け合います。しかし、受け入れない父親は逆に圭介に暴力をふるい、ここまで育ててやったのにと嘆きます。それを見た圭介は父親に寄り添います。

その後唐沢と圭介の交流は途絶え、唐沢は死に際に圭介に菊水月作の将棋の駒を贈ります。

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圭介、東大入学

圭介(坂口健太郎)が東大に入ります。あの親でどうやって進学できたのかといった疑問には、圭介の言葉として、大学に入っていい会社に就職すればお金が稼げると説得したと語られるだけです。

大学時代はアルバイトに明け暮れる毎日と語られますが、ワンシーン、将棋部を訪れて部員たちと将棋を指して勝ち続け、入部してくれと言われるもののバイトがあると去っていくシーンがあります。昭和ドラマの典型的なパターンです。

バイト終わりの帰り道でしょうか、圭介が町で将棋倶楽部を覗いていますと、指したいんだろうと東明重慶(渡辺謙)が声を掛けてきます。本物の将棋を見せてやる、ついてこいと言われて東明の凄さを知ります。東明の存在は将棋雑誌で知っているという流れになっています。

東明は掛け将棋で暮らしているいわゆる極道です。その東明とともに東北へ賭け将棋の旅に出ます。相手は兼崎元治(柄本明)、一局の掛け金は100万円の七局勝負です。その際、圭介は菊水月作の駒を担保にさせられます。勝負は東明が勝ちますが、東明は掛け金を持って逃げてしまいます。

圭介は大学を卒業し、外資系のトレーダーとして働き、目覚ましい活躍をして皆を驚かせ、2年(と言っていたと思う…)で退職し、稼いだ金で菊水月作の駒を買い戻します。

と、語られるだけで卒業後のシーンはありません。

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圭介、ひまわり農園へ

仕事をやめた圭介、24、5歳になっています(のはずです…)。あてもなく訪れた(ということでしょう…)、ある地方(死体が発見されたところ…)でひまわり畑を見て、その農園で働くことになります。ひまわりというのは圭介が育ったところにひまわり畑があり、圭介にとっての母親の思い出は、ひまわりの中で佇む真っ赤なドレスを着た母として目に焼き付いているという設定です。

父親がその農園にお金をたかりにきます。その後もたびたびやってくる父親にさすがの圭介もキレて、この1000万円をやるから金輪際近寄らないと念書を書けと迫ります。父親は隙をみて金を持って逃げます。もみ合いとなり、父親が思わぬことを言い出します。お前は俺の子ではない、俺が働いていた味噌蔵の娘とその兄の子だ、その兄は自殺し、娘は俺に結婚を持ちかけてきた、娘はお前を産んで、しばらくして自殺したと言います。

絶望の淵に立たされた圭介が自ら命を絶とうとしています。同じ頃、東明も圭介のもとに姿を現しています。その時、東明はパチン、パチンと将棋の駒音を立てることで圭介を思いとどまらせます。そして掛け勝負を持ちかけます。殺して欲しいと思っている奴がいるだろう、お前が勝ったら俺が殺してやるから借りをチャラにしろと言います。

数カ月後か1年後とかの後日、圭介のもとに東明がやってきます。東明はすっかりやつれています。約束は果たしたと言います。そして、菊水月作の駒での最後の賭け将棋を持ちかけます。俺が勝ったら俺を殺してここに埋めてくれと言います。圭介が勝ったら…は忘れました。

で、よくわかりませんでしたが東明が勝ったのでしょう。東明は刃物を出し、お前には才能があるプロになれと言い、圭介に刃物を握らせ自ら体をぶつけてその刃物に刺されます。圭介は穴を掘り、東明を横たえ、菊水月作の駒を胸に抱かせて土をかぶせます。

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圭介、タイトル戦へ

圭介は農園を去り、新人戦で優勝しプロ棋士への道を歩み始めます。

数年後、白骨化した死体が見つかり、もう一体の死体は圭介の父と判明した映画の中の現在です。

タイトル戦が行われようとしています。その記者会見場です。圭介がやってきます。会見場では相手棋士がフラッシュを浴びています。会場に向かう圭介の前に刑事の石破と佐野が立ちはだかります。立ち止まり、逃げようとするかのように振り返る圭介、その目にはひまわり畑が広がっています。圭介は会見場に向かって歩いていきます。

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感想:なんでもありのドラマ

という、よくもまあこんな話をつくるものだと驚くようなドラマです。

思いつくだけの悪しきものをぶっ込んでみましたみたいに進みます。殺人がなきゃこういったドラマは成り立ちませんのでそれは置くとしても、幼児虐待、ネグレクト、売買春とネグレクト(東明のひとこと…)、近親相姦、自殺、賭博、脅し、たかり、どれも現実感のあるものではなくちょっと入れときました程度ではありますが、ドラマをつくるためだけに簡単に利用し過ぎています。

圭介の生い立ちの都合のよさも度が過ぎています。あっという間に東大に入っていますし、外資系の会社では稼ぎまくり、ひまわり農園に行けばいろんな企画で農園をもり立て、肝心の将棋界でもあっという間にタイトル戦です。

棋士としてのスーパーマンぶりはドラマですのでいいとしてもプロ棋士への制度みたいなものは現実に則っているんですかね。年齢とか参加資格とかのことです。

そうしたプロット上のこと以外で一番気になったのは刑事役の佐々木蔵之助さんの無茶苦茶力の入った台詞回しです。あれは本人の役作りを越えていますので監督の演出なんでしょう。なんでそんなに力んでるのって最初から最後まで違和感感じまくりでした。