ボイリング・ポイント/沸騰

90分全編ワンカットでみるレストランオープントラブルもの

90分ワンカットが売りの映画です。何年かに一度全編ワンカットにとらわれた映画制作者が現れます。映画制作者にはひきつける何かがあるようです。

ボイリング・ポイント/沸騰 / 監督:フィリップ・バランティーニ

全編ワンカットの魅力とは

あらためて言うまでもなく、全編フイルム(現在はデータ)を切り刻むことなく撮ったまんまの映画ということです。過去にも試みられた映画があります。私が見ているものでは、「ヴィクトリア」「マジシャンズ」、それにワンカットで撮ったように見せていた「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」や「1917」という映画もありました。

全編ではなくとも長回しが宣伝に使われるケースというのは多々あります。ワンシーンワンカットという映画もあります。映画って、ある意味編集の妙というようにも思うのですが、映画制作者にとってはワンカットにひかれるなにか魅力があるのでしょう。

おそらく一番は難しいことに挑戦したいということじゃないかと思います。そりゃ、90分間俳優もスタッフも相当な緊張感を強いられるわけですからやり遂げた時の達成感といったらないでしょう。打ち上げが三日三晩続きそうです(笑)。

でも、うまくいく、と言いますか、意味のある全編ワンカットってこれまでにあるのでしょうか? 私が見た中では「マジシャンズ」によい印象が残っているくらいで、「ヴィクトリア」はいいシーンが多かっただけにワンカットじゃなければ数段よくなっていたのにと思ったくらいです。

映画の話に入らずに何をうだうだ書いているかはこの映画がつまらなかったからです。

何を撮ろうとしたのかわからない

結局、ドラマであれドキュメンタリーであれ、映画って何を撮ろうとしているのかが見えてこなければ見ていても飽きてきます。それにその撮ろうとしているものが新鮮なものでなければなおさらです。

この映画は、ロンドンのあるレストランのオープンの日のごたごたをカメラがそのレストランの中を動き回って撮っているだけです。

出演者はそのレストランの共同出資者の半分オーナーシェフ、共同出資者の娘のマネージャー兼ホール責任者、スーシェフ(副料理長)、そして大勢のスタッフたち、そして客として来店するのは、シェフの元雇い主や料理評論家、プロポーズを予定している男とその相手、その他嫌な客たちです。ああ、保健所(日本でいえば)の検査員もいました。

シェフのアンディ(スティーヴン・グレアム)はもう初っ端から煮詰まっています。開店準備で大変だったのでしょう、何日か家にも帰れず事務所に寝泊まりしているといっています。家庭トラブルを抱えているようで頻繁に妻(元?)や息子と電話をしています。そうしたことからか、オープンその日に遅刻しますし、食材の発注がされていませんし、とにかくやたら当たり散らします(と見える)。

スーシェフのカーリー(ヴィネット・ロビンソン)は比較的冷静ですが、突如爆発してマネージャーを罵倒しまくります。そのマネージャーもそれに堪えたのかトイレに入り泣き崩れています(それほどでもないけど)。

スタッフたちもあれこれいろんな問題を抱えているのか、遅刻をしたり、サボったり、泣いたり、喚いたりしています。あんなレストランへは行きたくないなあという感じです。

保健所の検査員は今まさに開店しようというときに来て、衛生管理の点数が5点から3点になると言って帰っていきます。元雇い主は、シェフが自分の店を辞めていったからなのか抜き打ちで評論家を連れてきて貸したお金を返せとシェフを脅します。

トラブルオンパレード

結局、撮るべきものが見えていないのでしょう、細々したトラブルで登場人物に口論をさせるしか映画を引っ張るものがありません。

そんなシーンが9割方続きます。そしてラスト、プロポーズを予定していたカップルの女性がアレルギー発作で倒れます。原因はナッツはダメと事前にいわれているのに、ドレッシングに入っていたためです。そのミスの原因は複合的ではありますが、最終的にはシェフの責任です。

シェフは心身ともに疲れているのでしょう、参ってしまいひとり事務所に入ります。そもそもアル中気味で仕事中もマイボトルから飲んでいるのですが、さらに、ボトルから酒を飲み、クスリをやります。ただ、突然これじゃダメだと思ったのか、ボトルの酒を流し、クスリも捨てて厨房に戻っていきます。そして倒れます。

この企画ならコメディかハッピーなもの

90分間些細なトラブルを見せられてもつまらないだけです。この設定で全編ワンカットを企画するのであればコメディーかハッピーなものにすべきでしょう。