このドラマをもってしか、この少年の、この感情を描けないものだろうか…
「Girl/ガール」のルーカス・ドン監督です。相変わらず際どいことをする監督です。
少年の友情とセクシュアリティ
昨年2022年のカンヌ国際映画祭でグランプリを受賞しています。「逆転のトライアングル」がパルムドールを受賞した年ですので判断のほどはなんとも言えませんが、ただ、主演のエデン・ダンブリンくんの演技とそれを引き出したルーカス・ドン監督はその評価に値すると思います。エデン・ダンブリンくんは2006年か2007年生まれらしく、現在17歳くらい、撮影当時は14歳だったようです。
物語は極めてシンプルです。レオ(エデン・ダンブリン)とレミ(グスタフ・ドゥ・ワエル)は同い年の13歳、幼なじみらしくいつもいっしょに行動しています。探検ごっこのような遊びから入り、野原(お花畑…)を駆け回り、夜はレミの家で一緒に眠り、兄弟以上の親しさです。
若干セクシュアリティの意味合いを感じさせるようにつくられています。
ベルギーの学制は初等教育6年、中等教育6年らしく、ふたりは中学に入ります。日本の中学と同じ年代です。学校でもふたりは一緒に行動します。映画ですのでそれを意識的に見せていますが、現実を考えれば、知らない集団(初等からの続きじゃないのだろうか…)に入っていくわけですからふたりが一緒に行動するのはあたりまえです。しかし、これも映画ですからまわりからその親しさを揶揄されます。女子からはふたりはカップル?などと聞かれ、レオは否定しています。
レオはそうした周囲からの目を意識するようになります。この映画はレオの映画ですのでレミがどう思っているかは描かれませんが、行動としてはまったく意識していないように描かれています。
ガラスの少年時代
前作の「Girl/ガール」でもそうでしたが、ルーカス・ドン監督はただひとりレオを追い続けます。
レオはレミを避けるようになります。意識的に他の子と話すようになり、アイスホッケーを始めます。また、ある夜、いつものようにレミの家で一緒に寝ている時、目覚めたレオはレミのベッドから下りて下で眠ることにします。翌朝、目覚めますとレミがレオの隣で眠っています。レオはレミを責め取っ組み合いになります。
いつもは一緒に自転車を走らせて通学していたふたりですが、ある日(その日かな…)レオが先に行ってしまいます。学校に着いたレミはどうして?とレオを責めます。言い訳をするレオをさらに責めるレミ、そして取っ組み合いの喧嘩になります。
後日、課外活動の日、レミが来ません。喧嘩の後味の悪さを抱えているレオを撮り続けているわけですから、映画は悪い予感を感じさせています。課外活動から戻ってきたバスの中から見える学校はいつもと違います。教師が皆に両親が待っているからと話します。レオは動けません。母親がやってきます。何があったの?と尋ねるレオにも何も答えられません。しばらくして母親は絞り出すように、レミはもういないのと言います。
言葉足らずの過剰さ…
後半も悶々とするレオを追い続けます。
シーンとしてはアイスホッケーに打ち込むシーンや家業の手伝いをするシーンが多くなります。クラスのセラピー授業のようなシーンでは、クラスメイトがレミのことをこんな子だったと語ることに何を知っているのだ?!とつっかかります。眠れない夜には兄の部屋に行きベッドに潜り込んだりします。アイスホッケーでの友人だったかと思いますが、泊まりに行くシーンもあります。このシーンでも、夜目覚めて横に眠る友人をじっと見つめるカットを入れたりしています。レミのことを思い出しているという意味かと思います。
アイスホッケーの練習中にレミの母親がやってきます。母親はレオがなにか知っているのではと思って来ているのですが、互いに挨拶程度の言葉しかかわせません。
後日、レオはレミの母親の職場(病院の産科…)を訪ねます。訝しむ母親ですが、とにかくレオを車で送ろうとしたのでしょう、そして、その車の中で、レオは自分がレミを突き放したせいだと言います。沈黙の後、母親はレオに降りて!と強く言います。
こうしたシーンでも言葉足らずの過剰さを感じます。
レオは森の中に入っていきます。しばらくして、母親は自分の言葉を後悔したのでしょう、レオ! レオ! とレオを追いかけます。レオが棒切れ(木の枝…)を持って構えています。ゆっくり近づく母親、そしてレオをしっかりと抱きしめます。
棒切れ…? レオの心情をどう描きたかったのかよくわかりません。
あざとくないか…
んー、レミの自殺といい、この母親といい、それにラストのレオといい、ギリギリをもう越えていると思います。
レミに自殺させなければ、レオのこうした心情を描けないものだろうかと疑問を感じます。それに、人の心の中はわかりませんので一概には言えませんが、映画的にもレミの自殺は唐突です。レオの心情を描くドラマですので、そのことをどうこう言っても始まりませんが、ドラマのためにレミに自殺させているということになります。
「Girl/ガール」で性別違和を感じるララに自らの男性器を切断させることでドラマ的解決をしていることに近いやり過ぎを感じます。
ましてや、この映画は13歳前後の子どもたちが見ることを想定してつくられているわけではないでしょう。子どもたちを使って大人たちを感動させるための映画です。さらに言えばカンヌで賞をとることを目的に物語をつくっているわけです。
まわりの大人たちを一切描かないことも卑怯なことに感じます。
この映画の最初のシーンにはレオとレミがレオの家業のお花畑を駆け回るシーンがあります。思わず「怪物」の続きかと思い、ヨーロッパなんですからもっと突っ込んだ映画を期待したのですが残念でした。