アガサ・クリスティー ねじれた家

物語の運びも登場人物もねじれが足らず。

公式サイトに、アガサ・クリスティー本人が「自身の最高傑作だと誇」ったとある『Crooked House ねじれた家』の映画化です。

ねじれた家 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

ねじれた家 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

 

最近ではミステリーものもほとんど見なくなっていますが、「サラの鍵」「ダーク・プレイス」のジル・パケ=ブレネール監督ということで、期待半分、怖さ(不安)半分の鑑賞です(笑)。

それに「天才作家の妻 40年目の真実」のグレン・クローズさん主演ですので、こちらも期待…100%期待の映画です。

アガサ・クリスティー ねじれた家 / 監督:ジル・パケ=ブレネール

もし本当にアガサ・クリスティー本人が最高傑作と言ったのなら、これはシナリオが悪いですし、監督が悪いです。

これ、ミステリー映画じゃないです。

もちろん、人は死にますし、犯人は一体誰かということで映画は進んでいきます。でも、見ていても、犯人は誰なんだろう? この人? あの人? と思わせてはくれません。 

もちろん、事件を解き明かしていく役回りの探偵くんも登場します。でも、探偵くん、犯人を見つけようともしていませんし、推理もしません。

って、ミステリーについて、どうこう語れるほど読んでも見てもいない者がむちゃくちゃ書いていますが、単に貶そうとしているのではなく、あらためてミステリー映画って難しいんだなあと思うということです。

映画としてはちゃんと作られていますし、最初の殺人が起き、探偵が登場し、怪しい人たちがいて、ついに犯人が逮捕され、でも第二の殺人が起きてしまい、じゃあ真犯人は誰だ!!という定番はおさえられているのにもかかわらず、ミステリーになっていないのです。

なぜなんでしょう?

この映画、どちらかといいますと、ソフィア(ステファニー・マティーニ)とチャールズ(マックス・アイアンズ)の恋の駆け引きみたいな映画です。駆け引きとまではいかなくても、一体カイロでの二人に何があったんだ? という方がよほどミステリアスな話です。

以下、ネタバレします。

冒頭、ベッドに横になっている男に女が注射をするシーンがあります。どちらも顔は出ず誰だかはわかりません。続いて、大富豪のアリスティド・レオニデスが亡くなったとなり、孫娘のソフィアが祖父は殺されたのだと、探偵のチャールズに調査を依頼するわけですから、注射の女が犯人か? となるのかと思いきや、映画としてはそこに意識はいかず、ソフィアとチャールズが知り合いであること、過去に何か、おそらく恋愛絡みの何かがあったらしいことがにおわされ、さらに、そのチャールズの父親はロンドン警視庁の(副?)総監だったらしく、チャールズも外交官としてエリート街道を歩んでいたのに今は探偵稼業という、なんとも曰く有りげなチャールズとソフィアの方へ気持ちがいってしまいます。(ただし、私だけかも…)

冒頭の注射のシーンなどなくてもよかったのにと思ってしまいます。簡単にいえば、つかみで失敗しているということかと思います。

で、チャールズくんはお城のような造りの大豪邸へ赴き、それぞれに聞き取り調査を開始します。

レオニデスの亡くなった前妻の姉イーディス(グレン・クローズ)、若き現妻、長男夫婦、次男夫婦、長男の子どもだと思いますが、ソフィア、その弟、妹ジョセフィン、(誰の?)家庭教師、(ジョセフィンの)ナニーの11人です。

チャールズくん、そんな聞き取り方じゃ、何もわかんないんじゃねェ?

実際、何もわかりません(笑)。それに、皆、さほど「心がねじれて」いませんし、誰にも殺人の動機など見当たりません。

確かに、莫大な遺産はありますし、若き妻には家庭教師や次男(だったかな?)と関係があるとかないとかの疑いもありますし、アリスティド・レオニデス自身にも恨みを買うような人間的問題があったとも言われています。しかし、映画はそれらに犯罪を誘発するほどの力を与えていません。つまり、皆、殺人を犯しそうなほど「ねじれている」ようには見えませんし、あぶなさがないとは言いませんがしょぼいのです。普通こそが危ないという逆説も感じさせません。

そんなこんなで前半は終わってしまい、後半になりますと、やっと多少進展し、正規の遺書には本人のサインがないとわかり、さらに別の遺書があり、それにはソフィアに(ほぼ)すべてを与えるとの遺言があることが判明します。

じゃあ、犯人はソフィアか? ということを誰かが言いますが、そんな緊迫感は一切なく、でもあるいは? ともなりません。

もう誰が犯人でもいいよ、なんて思い始めた頃(笑)、ジョセフィンがツリーハウスから落ち怪我をします。その原因は縄梯子が切られていたからで、剪定ばさみが家庭教師の部屋から見つかり、また家庭教師と若き妻とのラブレターが発見され、二人は逮捕されます。

これで解決、と思った矢先、ジョセフィンのナニーが殺されます。死因は毒殺で、ジョセフィンのためのココアを自分が飲んだからです。

この書き方ですと、後に自分が読んでも意味がわからなくなりそうですので、完結にネタバレ書きます。

アリスティド・レオニデスを殺したのはジョセフィンです。10歳くらい、もう少しいっていても10代前半の年齢の子どもです。ジョセフィンは、若き妻がアリスティドに糖尿病(?)の治療薬としてインシュリンを注射することを知っており、毒薬と入れ替えたのです。

理由は、アリスティドが、ジョセフィンの大好きなバレエを辞めさせようとしたこと、そして毎日が退屈だったからです。この退屈云々については映画が説明不足ですのでよくわかりません。

ツリーハウスの縄梯子を切ったのも、それを家庭教師になすりつけたのも、ラブレターを偽造したのも全てジョセフィンの仕業です。

ジョセフィンはそれらすべてをノートに書きつけていました。

イーディス(グレン・クローズ)は、そのノートを見つけ事の真相を知ります。また、自分はガン(だった?)に冒されており、余命数ヶ月と宣告されています。イーディスはジョセフィンの、多分尋常ならざる人格を知り、殺害することを決意、ココアに毒を入れます。ナニーの死はジョセフィンのココアを飲んでしまったからです。

イーディスはジョセフィンを道連れに自らの死を決断し、ジョセフィンを車で連れ出して無理心中の道を選びます。

チャールズは、ナニーの死因がモグラ退治に使うシアン化合物だったことを知り、イーディスが怪しいと目星をつけ、納屋でシアン化合物とジョセフィンのノートを発見し、またイーディスとジョセフィンが出かけたことを知り、ソフィアとともに後を追います。この時チャールズはイーディスが犯人であり、それがジョセフィンのノートに書かれていると思っていたんだと思います。

チャールズとソフィアは車の中でノートを読み事の真相を知ります。

イーディスとジョセフィンの車は、追うチャールズとソフィアの目の前で崖から墜落していきます。

そして、爆発。崖際に駆け寄り慟哭するソフィア、抱きしめるチャールズ。

原作を知りませんが、この物語であればかなり重厚なドラマをイメージできます。残念です。映画にするなら、ミステリーというよりも愛憎ものにすべき物語のように思いますし、あるいはその意図があったのかもしれません。ただ、10歳の子どもに善悪以前の悪を演じさせることも難しいのでしょう。

ところで、本題よりもミステリアスだったチャールズとソフィアですが、こういうことのようです。

外交官のチャールズと、祖父アリスティド・レオニデスとともに行動していたソフィアは、カイロで出会い恋に落ちます。英国政府は、レオニデスが英国の利益に反する行動をしているのではないかとの疑いのもとに、チャールズに内情を探るよう命じ、つまりソフィアに近づいてスパイしろということなんですが、それを知ったソフィアはチャールズから離れていったわけです。で、それを悔いたチャールズは外交官を辞め探偵になったということです。

これって原作にもあるんでしょうか?

サラの鍵 (字幕版)

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