ニューヨーク 最高の訳あり物件

マルガレーテ・フォン・トロッタ監督、ラブコメに挑戦か?

何度も見せられた予告編だけで充分だなあと思っていたのですが、ふと監督名を見ましたら、「ハンナ・アーレント」「生きうつしのプリマ」のマルガレーテ・フォン・トロッタ監督ではありませんか!

え、こんな映画撮るの? と半信半疑だったのですが、そういえばこの元妻の方の俳優さん、何かで見た…、ああ、「生きうつしのプリマ」のカッチャ・リーマン(名前は今調べた)さんじゃないですか! 

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ニューヨーク 最高の訳あり物件 / 監督:マルガレーテ・フォン・トロッタ

で、見た結果は? ですが、なんとも微妙で、何をしようとした映画がわからないまま終わってしまいました。

上の引用画像をみれば、ひとりの男をめぐる女の争いといった(大人の)ラブコメ系ですよね。邦題も予告映像もそれで売ろうとしています。

でも、まさかトロッタ監督がそんな単純なもの撮らないだろう(よく知らないけど)と思いつつ、何か起きるだろう、何か起きるだろうと見ていたのですが、何も起きませんでした(笑)。

かなり好意的にみれば、原題の「Forget About Nick」の通り、「男なんて忘れなさい」と女性を勇気づけているとも言えます。さらに言えば、「女たちよ、もういい加減、男という妄想を取り払いなさい」という映画かもしれません。

ニックという存在は、個人としては大した意味を持っていません。金持ちで、優しく、モテるタイプのいわゆるドンファンで、男性の象徴、というよりも、女性から見た、男性のある一面の象徴的な存在です。また、そのニックは、これはトロッタ監督の特徴だと思いますが、もうひとつ、子どもじみた一面を持っています。映画がラストに近づいてきますとその一面が明らかになってきます。

実際、この映画、ほとんど女性の映画ですので、ニックの出番は少なく、影の薄い役なんです。何をやっている人物なのかも語られません。ただ、演じている俳優さんはハルク・ビルギナーさんといい、トルコの国民的な俳優さんらしく、2014年のカンヌでパルムドールを受賞した「雪の轍」の主演の俳優さんです。

で、映画なんですが、まあほとんど予告編で語られてしまっているような物語ですので、完結に書きますと、ジェイド(イングリッド・ボルゾ・ベルダル)がニックから別れを告げられたというところから始まります。ジェイドは(元)モデルで、ニックの出資で自分の名を冠したファションブランドを立ち上げたところです。別れの理由はニックが他の若いモデルのもとに走ったからです(笑)。

ジェイドの住まいはマンハッタンの、内装はかなり高級にみえますが建物自体はかなり古いアパートメント、エレベーターが住まい直結のワンフロアーです。

元妻のマリア(カッチャ・リーマン)がドイツからやってきます。ニックからその住まいの半分を譲り受けたというのです。そこはもともとマリアとニックの住まいだったということです。

で、同居が始まるのですが、趣味や生活観の違いからのトラブルがコメディタッチで(延々と)続きます。まあ、飾られている絵画や装飾品を何度も移動したりするようなことです。

ジェイドの好みはモダンで機能的なややセレブ系のニューヨークファッションという感じで、白と黒のシャープな色の組み合わせで表現されています。マリアの方は、ブラウンなどの暖色系を多く着ており、自然派タイプの読書やガーデニング好きの人物として表現されています。

ジェイドは(初めての?)コレクションの発表をひかえていますが、ニックの支援がなくなり、アパートメントを売って資金を作ろうとします。マリアは拒否して邪魔をします。マリアに所有権があるのなら同意なく売れないと思うのですが、ジェイドは構わず弁護士をつけて購入希望者を招き入れたりしています。こういうところがかなり適当につくられている印象ですので、見ていてもコメディものに必要なリズムが出てきません。

そもそもマリアの意志や目的がまったくわかりません。やっていることは、単に夫を取られた(って、取る取らないも変ですが)復讐にしかみえないのですが、カッチャ・リーマンさんの雰囲気とか演技とかはそういう感じがしません。何かわけがありそうにみえるのです。

まあ、そんなことはどうでもいいか…(笑)。

ただですね、この映画、結構フェミニズム的な記号が散りばめられている感じがします。そもそも男の存在感はほとんどありませんし、マリアとジェイドの対立関係には、キャリアを捨てて家事をこなし、娘を育てることに人生のある時期を費やしてきたマリアと、ビジネスの世界で社会的評価を得るために人生をかけているジェイドという価値観が反映されています。ジェイドはまったく料理をしませんが、マリアの方はバランスのとれた美味しそうな食事を作るシーンが強調されています。それに、これはジェンダーとはちょっと視点が違いますが、弁護士がアパートメントのセールスポイントとして、普段はキッチンがキッチンに見えない所がいいなどと強調していました。

で、それが最後にどうなるかといいますと、書いていませんが、マリアの娘がドイツからやってきてその才能を生かしてジェイドブランドのフレグランスを発売、それが成功してとりあえずの資金も整い、アパートメントは売らないことになり、次第にマリアとジェイドの間も打ち解けることも多くなり、ちょうどその時ニックは若いモデルに振られて、ジェイドとよりを戻そうとアパートメントに舞い戻ります。暗にここに戻れないかと尋ねるニックに二人が答えます。

「ふたりと一緒ならね」

コレクションのショーは大成功、子どものように拍手するニックで映画を終えています。

これはシナリオがよくないですね。って、みてみれば、パメラ・カッツさん、「ハンナ・アーレント」と同じじゃないですか!

じゃ、トロッタ監督がコメディに向いていないということですね。最初の方に単純と書いてしまいましたが、ラブコメも難しいということでしょう。

ハンナ・アーレント(字幕版)

 
生きうつしのプリマ(字幕版)