インフィニティ・プール

父親のクローンにはなりたくない…

ブランドン・クローネンバーグ監督、その名前からわかるとおりデヴィッド・クローネンバーグ監督の息子さんです。そんな紹介をされてしまうのは可愛そうだとは思いますが、本人も相当意識していると思われます。2012年「アンチヴァイラル」2020年「ポゼッサー」に続く3作目です。

インフィニティ・プール / 監督:ブランドン・クローネンバーグ

自己探求? 自己破壊願望?

前作の「ポゼッサー」は、他人の体を乗っ取って殺人を犯す殺し屋が乗っ取った体から出られなくなるという話で、そのプロットはとても面白いと思うのですが、もうひとつうまく生かせていない感じでした。

で、この「インフィニティ・プール」は、罪を犯すと死刑になる国があり、そこでは裕福な国からの観光客はクローンを作って身代わりにすることができるという話です。

はあ? って話ですね(笑)。最初に言っておきますと、そのプロットも、本編のストーリーも、映像もおそまつです(ゴメン…)。

書けない作家ジェームス(アレクサンダー・スカルスガルド)は新作のネタを探そうと妻エムとともにリゾート地に来ています。そのリゾート地はその国の住民とは隔離された区画にあり、区画から外に出ることは許されていません。ある日、ジェームスは、ファンだと言って近づいてきたガビ(ミア・ゴス)とその夫に誘われて区画から車で外に出掛けます。その帰り道ジェームスが交通事故で人を轢き殺してしまいます。翌朝、ジェームスは逮捕され、刑事から観光客にはクローンを身代わりにすることができると言われ、大金を支払いしその選択をします。

ジェームスが見つめる中、事故でなくなった男の子どもがクローンのジェームスをナイフで何度も何度も刺し続けます。溢れ出る血、飛び出す内臓…。

と、グロテスクにも思えますが大したことはありません。もしグロさを打ち出したいと思っているとしますとうまくありません。

そして、自分のクローンが刺し殺されて内蔵が溢れ出す様子を見つめるジェームスの顔のアップになります。

もうこれでこの後の展開がわかります。きっと、ジェームスはその倒錯した快感に目覚めて、次々に犯罪を犯し、その度にクローンが無残に殺害される姿を見ることになるのでしょう。

エログロ映像がありきたり過ぎないか…

半分は合っていましたが、半分は違っていました。

ジェームスが自己破壊の快感に目覚めたかどうかははっきりしていません。その後4回ほどクローンがつくられ殺害されるのですが、その犯罪はジェームスの意思半分、ガビの強要半分という感じでした。

これが実に中途半端で、ジェームスが被害者であるのか加害者であるのかどっちつかずだったり、時に変わったりという具合です。悪夢であるのか、トランス状態であるのかはっきりしないということです。

ガビも旅行者であり、すでにクローン体験をしているようですし、そうした仲間数人が登場し、ジェームスを追い詰めるような作りになっています。その目的がはっきりしていません。楽しんでいるだけのようですが、それならそれでもっと突き抜けていないと見ていてもスッキリしません。

2度目以降の犯罪とクローン殺害は詳しく書く意味もありませんし、書けるほどきっちりとは記憶していません。それに面白くありません。

エロ、グロなシーンもあります。かなり際どいカットも挿入されていますが、一瞬ですし、そのシーンでさえ全体としてはインパクトもありませんし、新鮮さは皆無です。

とにかく、ジェームスはガビたち数人に追い立てられ、犯罪を犯し、クローンを殺害し続けます。そしてリゾート地は雨季に入り、バカンスも終わり、皆がその地から旅立っていきます。

しかし、ジェームスだけは雨が振り続けるビーチのデッキ・チェアに廃人のように横たわったままです。

父親のクローンになりたくない…

勝手な想像と、親子であるという思い込みから言えば、この映画は、ブランドン・クローネンバーグ監督の内面的な闘いの映画だと思います。父親の精神的抑圧との闘いであり、精神的に父親の支配下にある自己との闘いであり、そうした自己破壊願望が現れた映画だということです。

勝手な想像でゴメン…。

ああ、それと映像からの直接的な連想にはなりますが、ガビが、クローンを殴り潰して血まみれになったジェームスを抱きかかえ、自ら乳房をはだけ、ジェームスの血を乳房になすりつけ、ジェームスに乳首を吸わせるシーンなどはどう考えてもマザコンを想起させます。

わかってやっていることでしょうから、なにか逆説的な意味もあるのかとは思いますが、いずれにしてもそんなシーンを思いつくわけですから、やはりエディプス・コンプレックスを克服できていないブランドン・クローネンバーグ監督ということでしょう。

ところで、ジェームスをやっているアレクサンダー・スカルスガルドさん、なんでもやってくれる俳優さんなんですね。きっと笑いながら楽しんで演じていいたのでしょう。

ノースマン 導かれし復讐者」の俳優さんでした。