宗教性はほとんど感じられず、過酷な自然の中では人の争いなど些細なこと…
19世紀末のアイスランドを舞台にした映画です。今から150年くらい前ということになります。当時のアイスランドはデンマークの統治下に置かれていましたので、そうしたことからくる人間関係の軋轢が描かれています。
信仰はテーマではなさそう…
デンマークの牧師が司教(表現が正しいかどうかは不明…)の命によりアイスランドに教会を建てに行くという話です。タイトルも「GODLAND」となっていますので、信仰をテーマにした話かと思って見ていましたが、そうした傾向はあまり感じられません。
原題の「Vanskabte land」を Google翻訳で調べますと「変形した国々」と出ますし、自動検出ではノルウェー語です。デンマーク語にしますと「いびつな国」となり、いずれにしても GOD の意味はなく、大変な土地といった意味ではないかと思います。
内容はその原題通りで、前半は若き牧師ルーカスが目的地に向かう苦難の道、後半は目的地に着いたは着いたでそこの人々とのギクシャクした関係が描かれています。前半の苦難の道も行程の苦難もあるにはあるのですが、どちらかと言いますとルーカスの意固地さが原因の対人関係から派生する苦難です。
早い話、違う土地へ行くのにその土地の言葉をわからないと突っぱねてしまう宗教者というのはどうなんだろうという話です。おそらくアイスランドに対するデンマークの傲慢さが表現されているんだろうと思います。
とにかく、この映画ではデンマークの牧師ルーカスの不寛容、身勝手、傲慢さが際立っています。ルーカスはルター派と思われますので、割と見慣れたカトリックの神父の振る舞いとは違うのかも知れませんが、信仰心のようなものがまるで感じられません。祈りのシーンも、自らへの問いかけのシーンもありません。
その意味では奇妙な映画です。信仰が主要なテーマではないということでしょう。
過酷な自然と人間同士の対立…
ルーカスの目的は布教や教会建設ではなく、写真を撮ることだったのじゃないかとも思えてきます。その意味では、何も牧師にしなくても、その当時誰も知らない(かどうかはわからないが…)写真というものを撮りにきたよそ者でも成立するような話です。
読みかじった程度の知識で言うのもなんですが、そもそも19世紀末にわざわざデンマークから一牧師がアイスランドに教会を建てに行く、そのこと自体、時代としてあっているのだろうかと疑問に感じます。10世紀にはアイスランドにもキリスト教は入ってきているようですし、16世紀にはデンマーク国王の意向でルター派の教義が強制されたとあります。
教区の牧師として赴任したみたいな意味合いかもしれません。後にはなぜ直接船で来なかった?と言われていますので何か気になります。写真を撮りたかったと言っていたような…。
実際、ルーカスがたどり着いた先はもちろん未開の地でもなんでもなく、デンマーク語を話す人々がいる入植地なわけですし、教会を建てることに誰も抵抗するわけでもなくむしろ積極的です。すでにキリスト教自体は根付いているわけです。
フリーヌル・パルマソン監督はアイスランド生まれの方ですので、ウィキペディアを読みかじっただけの地球の裏側の人間にこんなことを言われたくはないとは思いますが、結局、この映画は「沈黙」的宗教者の苦難がテーマではなく、過酷な土地(Vanskabte land)の自然そのものとそこで生きる人間たちの対立、そしてそれが結局のところ些細なものでしかないことをただただフィルムに収めたかったのではないかと思います。
7枚の湿板写真が発見された…
映画冒頭に、19世紀末にアイスランドで撮影された7枚の湿板写真が発見されたとスーパーが入ります。これ自体もパルマソン監督の考えたフィクションらしく、ここから映画が発想されていったようです。
美しくも過酷なアイスランドの自然、そしてその前では無力な人間、時とともに腐ちていく動物、そして人間、それが撮りたかったものではないかと思います。
この映画では3人の男、そして一頭の馬が死んでいきます。ひとりは通訳の男、ルーカスが主張した無謀な渡河によって十字架とともに流されてしまいます。助け出すもすでに息を引き取っています。埋葬するも川の流れによってすぐに掘り起こされてしまいます。
ふたり目はガイドのラグナル、ラグナルはルーカスに従いはするものの反感を隠そうとはしません。アイルランド人のデンマークへの内面的なものを体現している人物でしょう。
ラグナルとのことのその前にルーカスの馬が盗まれて死んだ状態で見つかっています。馬が草むらに倒れた俯瞰の画のまま複数枚のカットで腐ちていくさまが撮られていました。
ある日、ラグナルがルーカスに自分の写真を撮ってくれと言い出します。ルーカスは銀がなくなったと突っぱねます。デンマーク語は話せないはずのラグナルがデンマーク語でルーカスを詰り始め、ルーカスの馬は自分が殺したと言います。カッとなったルーカスはラグナルを押し倒し、その頭を強く地面に打ちつけます。血が流れ出ています。
そして三人目はルーカスです。教会が完成し村の人々が集まっています。初めての礼拝です。子どもが泣き始めます。教会の外では犬が激しく吠えています。犬を黙らせようとしたのでしょう、外に出たルーカスは足を滑らせ泥まみれになります。何を思ったか(本当にわからない(笑)…)ルーカスは誰かの馬に乗り走り去っていきます。
正気をなくしているということかと思います。ただ、映画として自然にそう思えるかと言いますとかなり疑問です。ラグナルのこともありますので理屈としてはそうだろうとは思いますが、ラグナルの死の後処理シーンもありませんし、時間のスパンもわかりません。ルーカスを追い詰めているものが何であるかがはっきりしていません。
書いていませんが、この村の主要人物としてカールとその娘たち、アンナとイーダがいます。後半パートではほとんどのシーンがルーカスとこの3人のものです。デンマーク語を話しますので入植者という設定だと思います。
そのカールがルーカスの後を追います。そして追いついた草原でルーカスを刺し殺します。台詞がありましたが記憶していません。
後日、娘のイーダがその草原に来てみますとすでにルーカスの死体は朽ち果てています。
カールにルーカスを殺すべき何があったのかはわかりません。ラグナルの死もそうですが、この地では人が死ぬことにさほどの意味がないと考えるしかありません。言い換えれば、Vanskabte land においては人の生き死にさえも些細なことでしかないということでしょう。
でも、殺人だからねえ…。