憐れみの3章

レイモンドは神になり、ダニエルはカニバリズムの夢に溺れ、エミリーは神の国から追放される…

つい半年前に「哀れなるものたち」を見たばかりのヨルゴス・ランティモス監督です。たまたま公開が重なったというわけではなく制作もわりと近接しているようです。その「哀れなるものたち」は幼稚でつまらない映画でしたが、こちらはきっちり映画になっています。でもよくわからないし、面白くないです(ゴメン…)。

憐れみの3章 / 監督:ヨルゴス・ランティモス

ランティモス監督、原点回帰か…

ランティモス監督の映画で私の見ているのは「哀れなるものたち」「女王陛下のお気に入り」「聖なる鹿殺し」の三作ですが、どれに近いかと言いますと寓意的な表現に満ちている点では「聖なる鹿殺し」ですかね。ランティモス監督、原点回帰ということかも知れません。

多分、共同脚本にエフティミス・フィリップさんが入っているからでしょう。それ以前の「ロブスター」や「籠の中の乙女」もエフティミス・フィリップさんとの共同脚本になっていますし、その概略などを読みますとやはり寓話的な映画のようにみえます。今後代表作のように言われるであろう「哀れなるものたち」「女王陛下のお気に入り」の二作の脚本にふたりの名前はありません。

映画は、3つの関連性のない(かどうかはよくわからない…)話を同じ俳優がそれぞれ異なった役を演じています。一応3つの話すべてに RMF の頭文字を持つ男が登場しますし、3つの話のタイトルも「RMFの死」「RMFは飛ぶ」「RMFはサンドイッチを食べる」となっています。ただ、さしたる意味はないんじゃないかと思います。

あるいは聖書絡みの引用がされている映画かも知れません。

三連祭壇画…

と言いますのは、この映画のウィキペディアを読んでいましたら「a triptych」、日本語ですと「三連祭壇画」という言葉が出てきます。教会の祭壇を飾る宗教画のことらしく、確かにサーチライト・ピクチャーズの公式サイトに「KINDS OF KINDNESS is a triptych fable,…」という解説文があります。

El jardín de las Delicias, de El Bosco
Hieronymus Bosch, Public domain, via Wikimedia Commons

こういうもののことのようです。

ランティモス監督はなにか下敷きのある話を好むようで、「聖なる鹿殺し」ではギリシャ神話ですし、この映画の場合は聖書に関わる何かが下敷きになっているかも知れません。

あいにく聖書についての知識がありませんのでこれとは言えませんが、いろいろ映画を見てきたところからみますと、この映画のテーマらしきもの、支配被支配、肉欲、カニバリズム、奇跡なんてものは宗教的なものと結びつきやすいですし、この映画の3つ目はもろカルト集団です。

「憐れみの3章」なんて邦題をつけている日本の配給にもそんな意識があるのかも知れません。

レイモンドは神?

ひとつ目は、自分自身の人生の選択をすべて他の人物にコントロールされている男の話です。

ロバート(ジェシー・プレモンス)は、日常ルーティンから食べる物や妻とのセックスまで、すべて雇用主であり性的関係もあるレイモンド(ウィレム・デフォー)の指示で生きています。 ある時、RMF の車に衝突し殺すよう指示されます。しかし、ぶつけたものの殺すことができません。レイモンドはもう一度やれと指示しますがロバートは拒否します。レイモンドはすべての関係は終わったとロバートを突き放します。

ロバートは妻サラ(ホン・チャウ)にすべてを告白します。子どもができなかったことをサラのせいだとしてきたことも、実はレイモンドの指示で自分が中絶薬を飲ませていたと告白します。サラは知らぬまに去ってしまいます。ロバートの人生は崩壊していきます。

ロバートはたまたま見たリタ(エマ・ストーン)に対して妻との出会いのきっかけと同じことをします。そして、ディナーに誘いますがその日リタが来ません。リタは交通事故で入院していると言います。事情を尋ねますとリタもレイモンドの指示で RMF の車に衝突したことがわかります。

ロバートは入院中の RMF を連れ出して車で何度も何度も轢いて殺害します。その後、レイモンドを訪ねます。レイモンドはロバートをこころよく受け入れます。

リズは人肉を食べて生き延びた?

ふたつ目は、長い間行方不明だった妻が戻ってきたものの、夫は妻が別人だと妄想し、妻に指や肝臓を食べたいと求め、妻はそれに応えて死亡する話です。

警察官ダニエル(ジェシー・プレモンス)の妻リズ(エマ・ストーン)は海洋生物学者です。同僚たちと調査に出たまま行方不明になります。何ヶ月か後、リズは RMF に発見され戻ってきます。しかし、それはダニエルの知るリズではありません。嫌いだったチョコレートを食べ、靴は足に合わなくなり、タバコを吸い始めます。

ダニエルはリズは偽物だと思い始め、次第におかしくなっていきます。そして職務中に交通違反で停車させた男に発砲して手に怪我をさせます。ダニエルはすまない、すまないと謝りながら男の手から流れる血を舐め始めます。

その後、リズが妊娠していると告げたり、犬が支配する世界の夢を見たとかの話(あまり記憶していない…)があったりして、かなり精神に不調をきたしているダニエルはリザに君の指を料理して持ってきてくれと言い、リザは自分の指を切り落として料理しダニエルに与えます。その後、ダニエルは指は犬に食わせたと言いつつ、さらに君のレバーが食べたいと言います。リズは自らの肝臓を取り出して死にます。

もうひとりのリズが戻ってきてダニエルと抱擁しています。

このパートはカニバリズムですかね。リズが救助された時、同僚たちは死亡だったか行方不明だったか、とにかく一人は片足がなかったとか言っていましたので、リズは同僚たちを食べたのでしょう。そして、そう考えたダニエルにもカニバリズムの欲望がもたげてきたということだと思います。

それがダニエルの妄想だとしてもです。

セックスと聖なる水で奇跡は起きる?

三つ目は、カルト集団の話で、死者を蘇らせる能力を持つ女性を探す話です。が、あまり記憶していません(笑)。

オミ(ウィレム・デフォー)とアカ(ホン・チャウ)が率いるカルト集団があります。そのもとでエミリー(エマ・ストーン)とアンドリュー(ジェシー・プレモンス)は死者を蘇らせる女性を探しています。ある女性を死体安置所へ連れて行き試しますが死者は生き返りません。

このカルト集団はセックスと聖なる水がその奥義のようです。正確には記憶していない部分もありますが、オミとアカ以外とセックスすると罰が与えられるらしく、超高温のサウナに入れられて汗とともに汚れを出す儀式があり、アカがその汗を舐めて汚れが抜けたかどうかを確かめていました。

エミリーには夫と娘がいますが、その元を離れて集団に入っているようです。夫は抜けさせたいと思っているのか、ただセックスがしたいだけかはわかりませんが、エミリーに薬を盛り、眠っている間にエミリーを犯します。

エミリーには超高温サウナの罰が与えられます。出た汗を舐めたアカがまだ汚れていると言い、エミリーは追放されます。

エミリーは、多分集団に戻るためかと思いますが、奇跡を起こす女性を探し続けます。そこにレベッカ(マーガレット・クアリー)がやってきて自分の妹ルース(姉でもいい…)にはその能力があると言います。しかし、アンドリューはそのためには双子のもう一人は亡くなっていなくてはいけないと言います。

ルース(マーガレット・クアリー)は獣医です。エミリーは迷い犬を捕まえてナイフで切りつけてルースに会いに行きます。

そして後日、エミリーがレベッカを訪ねますと、レベッカは水の入っていないプールに飛び込み死にます。エミリーはルースを訪れ、薬で眠らせて死体安置所へ連れていきます。そして死体の手を握られますと死体が蘇ります。その死体は RMF です。

エミリーの喜びのひと踊りがあり(笑)、エミリーはルースを乗せてカルト集団のもとに急ぎます。エミリーがよそ見(だったか…)したために車は衝突し探し求めていた奇跡を起こす女性ルースは死にます。

ユーリズミックス「スウィート・ドリームス」

※スマートフォンの場合は2度押しが必要です

この映画、いきなりユーリズミックスのスウィート・ドリームスで始まります。

Sweet dreams are made of this
Who am I to disagree?
I travel the world and the seven seas
Everybody’s looking for something

Some of them want to use you
Some of them want to get used by you
Some of them want to abuse you
Some of them want to be abused

こんな歌詞です。歌詞の訳は難しいですので Google翻訳のままですが、

甘い夢はこれで作られる
私が反対するわけがない
私は世界と七つの海を旅する
誰もが何かを探している

あなたを利用したい人もいる
あなたに利用されたい人もいる
あなたを虐待したい人もいる
虐待されたい人もいる

こういうことです。

そして、エンドロールでは、RMF がハンバーガー食べており、ケチャップをかけますと飛び散ってシャツを汚すシーンが流れます。

大した意味はないとは思います。このシーンは後づけのジョークでしょう。