特に期待を持ってというわけでもなく、広瀬すずさん、久しぶりだなあなどと思いポチッとしてみました。と思ったのですが、何年ぶりだろうと出演作をみてみましたらちょうど1年前に「流浪の月」を見ていました(笑)。
そこまでするか?!
漫画の原作があることは知っており、その連載雑誌が少年向けだったような記憶があり、そこからの連想と名前の文字の漠然とした記憶から作者は男性だろうと思っていたのですが、映画中頃にいたり、こんな話を書けるのは女性だなあと思った映画です。
田島列島さん、ウィキペディアによればやはり女性のようです。こんな話を書けるのは、2023年現在の日本の社会環境においては女性しかいません(笑)。ですので、新鮮で話は面白かったです。ただ、映画はていねい過ぎて長いです。
こんな話とはどんな話か、とにかく女性にきびしいのです。あるいは私が面白いと思ったことは原作(映画もかも…)の本筋ではないかも知れませんが、そこまでするか?! というほどにきびしいのです。ベタさを避けたいということがあるのかも知れません。
榊千紗(広瀬すず、以下サカキさん)は26歳です。シェアハウスで暮らしています。といっても都会ではなく地方都市で、シェアしているのは昔ながらの日本家屋です。大学教授の家のようです。住人は他に漫画家のニゲミチ、女装の占い師ということで、このあたりは漫画っぽい設定です。そこに高校への通学に便利だからとニゲミチの甥ナオタツが加わります。
で、実は、そのナオタツの父親とサカキさんの母親が10年前にW不倫で駆け落ちしているのです。その後ナオタツの父親は元のさやに戻ったのですが、サカキさんの母親は行方知れずになっているのです。
当時サカキさんは16歳の高校生、それ以来、自分は恋愛はしないと言い、いつも不機嫌そうにしています。ナオタツがシェアハウスに加わるとき、サカキさんは、ナオタツが両親と並ぶ写真を持って迎えに行っていますので、ナオタツが母親の不倫相手の息子であることを知っています。
男にあまい…?
ナオタツもその事実を割と早く知ります。ですので映画が何で持っていたのか不思議ですが、割と見られるものになっていました。やはり、これまでにない広瀬すずさんだったからでしょう。
そんなこんなでサカキさんもナオタツも何となくもやもやした気持ちを持て余しているところへナオタツの父親(北村有起哉)がやってきます。そして、サカキさんと鉢合わせします。父親の方も気づきます。サカキさんの投げたお盆が気まずい空気を切り裂きます。お盆は父親の顔面を直撃、父親は鼻血を出しています。
この父親、かなり意図的だと思いますが、余計なことをする間抜けな人物に造形されています。家に帰り、サカキさんの母親に連絡を取ろうとしたのでしょう、押し入れから古い携帯を取り出し、電源を入れ…とその時、妻に見つかり、と、ここまではシーンがあるのですがこの後は後日譚として、妻は携帯の電源アダプターを振り回し、それが自分の頭にあたり、検査入院となってしまったというのです。このナオタツの母親の方もなかなか厳しい人物造形ですね。
さらに、これだけでは終わりません。父親は探偵を雇ってサカキさんの母親の居場所を調べさせ、あろうことかその報告書を直接サカキさんに送りつけるのです。
こんな間抜けな人間、憎みようがありません。そのように造形されているのです。
女にきびしい…?
もう映画も後半に入っており、そろそろ長いなあなどと思いつつ、母親登場だけはベタになるからやめてくださいねと祈るような気持ちでいたのですが、とんでもなかったです。私の予想のはるか上をいっていました(笑)。
サカキさんはナオタツと一緒に母親を訪ねます。母親は再婚し相手の子ども(数歳…)と暮らしています。サカキさんは、その表札を見て、もういい、帰ると言うのですが、運悪く母親(坂井真紀)が子どもと一緒に帰ってきます。
テーブルを挟んで向かい合うサカキさんと母親、どうするのかと思いましたら、母親は、自分がこんなに幸せでいいのかと思うけれども、あなたにも幸せになってほしいのと言うのです。文字言葉だけでは伝わりませんが、あの坂井真紀さんが言うんですから(笑)、そこには何の邪心もなくその言葉通りに自然に伝わってきます。
サカキさんの怒りが爆発します。やばい!と思ったのですが、今度はなんだか訳のわからないままに子どもがお母さんをいじめるな!とか言いながらサカキさんたちに何か(ビーズのようなもの…)をぶつけまくってふたりを家から追い出してしまうのです。
まだあります(笑)。サカキさんとナオタツがお腹が空いたと言いながらレストランで食事をしていますと、そこへ母親たち家族もやってくるのです。
そこまでしますか?!
サカキさんはナオタツを置いて店を出ていきます。サカキさんを追いかけようとする母親にナオタツがお金持ってる?と尋ね、母親が3万円を出しますとナオタツはその金をレジカウンターにあった募金箱に入れてしまいます。
そして、16歳で時が止まっていたサカキさんは年齢相応の26歳のサカキさんとしてシェアハウスを出ていくことにします。
それにしても、サカキさんと母親はふたりで正面切って話をすることも、また本音をぶつけ合うこともなく問題を解決させてしまっています。
普通は解決しないと思いますけどね。と言うよりも、普通は10年も長引かずにとっくに解決してると思います。
広瀬すずさん
ということなんですが、この映画、実はナオタツとサカキさんの恋愛ファンタジーかも知れず、それにナオタツと同級生カエデの恋愛話もあったりしますので、私が新鮮だと思ったことはやはり本筋ではないのかも知れません。
広瀬すずさん、これまで見てきた映画では、たとえば姉妹がいれば末っ子のイメージだったのですが、年齢相応の役が似合うようになってきました。このサカキさんはほぼ一貫して無愛想キャラですのでさほど難しくはないと思いますが、アップの細かい表情がとてもよかったと思います。
そしてもうひとつ、原作漫画の試し読みをちらっと見た印象で言えば、この映画に対して私が感じた印象は大島里美さんの脚本のものかも知れません。