わけがわからなくても見ておくべき映画(だと思うけど…)
この監督、天才だわ、と思った映画です。
「LETO レト」を見ていますので、この映画の紹介文にそのタイトルを見て何の事前情報も入れずに見に行きましたら、ひっくり返りました(笑)。約2時間半の映画ですが、1時間ほどは、いやもっとかなあ、とにかくまったくついていけず、何をやっているのかさっぱりでした。
でも、内容はわからなくても映画としてはすごいです。
映画から見て取ったこと
この映画を何の事前情報も入れずに見た場合に、物語そのものを理解することはかなり困難です。映画を見た時点でこういうことなんだろうと思ったのは、
- 主人公のペトロフは漫画家である、または漫画を書いている。
- ペトロフはインフルエンザにかかっているのにトローリーバスでどこかへ行こうとしている。
- ペトロフは高熱のため朦朧とした状態にあり、現実と幻想の境がなくなって様々な幻覚をみる。この幻覚がよくわからないけれども、とにかくグダグタ状態が繰り広げられる。
- ペトロフには妻と子どもがいる。
- 妻(ペトロワ)はインフルエンザのせいか、頻繁に自分が殺人鬼となる幻覚をみる。これもなにがあるのかよくわからないが、ペトロワは誰彼なく、そして息子までも殺す幻覚をみる。
- 中盤からソ連時代のフラッシュバックが何度も挿入され、幼いペトロフと両親が描かれる。
- フラッシュバック、現実ともに子どもたちの仮装パーティーが描かれ、現在と過去がリンクしている。
- パーティーのアトラクションなのか、雪の女王の演劇が観客目線と演じる側目線の両側から描かれる。
- 誰だかわからないが、雪の女王を演じる女性が大きく扱われており、子どもたちからしきりに本物?と尋ねられる。
ということなんですが、で、何? と考えてもこれ以上先に進めない映画です(笑)。
おそらく、ロシアのグダグダ状態を描いているんだろうと思います。
何はなくとも圧倒的であること
ロシア語がわかればまた違うのかも知れませんが、これだけわけのわからないことをわけのわからないままに最後まで突っ走るその吹っ切れたところに感動します。
それにただわけがわからないだけではありません。カメラワークと編集が無茶苦茶美しいのです。美しく流れるワンカットのシーンが何度も出てきます。暗く薄汚い(ペコリ)画で統一されています。フラッシュバックは画面サイズをスタンダードに変えてモノクロで見せたりしています。
キリル・セレブレンニコフ監督
1969年9月7日生まれの52歳、舞台の演出家でもあります。現在は、ロシアでの軟禁状態からドイツに出国しています。ロシアのウクライナ侵略後の4月28日付のインタビュー記事があります。
2000年代から演劇やバレエの演出などに携わり、映画も同時期から撮っているようです。2012年からはゴーゴリセンターの芸術監督やっており、ウェブサイトにプロフィールがありますので現在でもその任にあるということです。
2017年8月22日から10月19日までの2ヶ月間、国から受け取った補助金に対する詐欺容疑でロシア調査委員会(Investigative Committee of Russia)に拘束され自宅軟禁されていたようです。この委員会は汚職を捜査する組織で、容疑はゴーゴリセンターへの補助金に関することのようです。この件は2020年6月に執行猶予付きの有罪判決を受けています。ただ、ヒューマン・ライツ・ウォッチはこの判決を非難しています。セレブレンニコフ監督は2014年のロシアによるクリミア併合を批判したり、ロシアのLGBTコミュニティをサポートしていることからプーチン政権から目をつけられたということがあるのかもしれません。
2018年のカンヌ映画祭の際に、ケイト・ブランシェットさんがこの映画祭に来られない人がいるというような意味の発言をしていたのは、この時「LETO」をコンペティションに出品していたセレブレンニコフ監督のことですね。イランから出国できないでいた「ある女優の不在」のジャファール・パナヒ監督もそうでした。
なお、今年の5月17日から始まるカンヌ映画祭のコンペティションには新作の「チャイコフスキーの妻」が出品されています。
劇場で体感し、DVDで確認する
これは配信やDVDで見てはダメでしょう。
まず圧倒的なわけのわからなさを劇場で体感し、DVDや配信(巻き戻しは出来るのかな?)で一体なんだったのか確認すべき映画かと思います。多分(笑)。
なお、この映画には原作がありますが翻訳版はなくロシア語版だけのようです。